帰る場所があるということ
長らく間を空けた上に何だかダラダラ書いてしまったような‥‥変な所があれば容赦なく御指摘ください‥‥
「ランクCの掲示板は‥‥あれか」
カイゼルはランクCの掲示板の前に立つと依頼の紙を確認していく。
「依頼といっても様々なのですね」
貼り付けられた依頼の紙を見ながら、ディーナが呟いた。確かに依頼と一口に言っても、その種類は膨大だった。魔物の討伐、人捜し、武具の作成依頼、手紙の配達まで多種多様だ。
「ランクが上がるにつれて雑用のような簡単な依頼が少なくなるようだな」
他のランクの掲示板にも目を通したカイゼルがそう分析する。ランクが低いほど雑用系の簡単な依頼が多く、ランクが上がるほど危険な依頼が多いようだ。
「まあ当然か。そのためにランク分けしているんだしな。さて、ランクCにはどんな依頼が来ているのかな?」
そう言いながらカイゼルは依頼の紙を確認していく。
「ん?この依頼は‥‥」
その中の一つの依頼がカイゼルの目に留まった。
「遺跡の調査依頼か」
カイゼルの目に留まったのは遺跡の調査依頼だった。その依頼の内容を確認していたカイゼルの視線がある一点で止まる。報酬欄だ。そこには
『借家の無料貸与(一年間)』
とあった。
「この依頼にしよう」
言うが早いかカイゼルは依頼の紙を剥がし、受付に戻った。
「エレンさん、この依頼なんですが」
カイゼルが受付のエレンに依頼書を見せる。
「依頼を達成すれば借家を一年無料で借りられるということなんですが、家はどこに?」
「グレイセルの郊外ですね。事前に家の確認に行ってきましたが、小さいながらもしっかりした造りの良い家でした。」
「この依頼を受けようと思うのですが」
カイゼルがそう言うと、エレンは笑顔を見せた。
「受けていただけますか。その依頼はなかなか引き受けてくれる方がいなくて困っていたんです」
「?こんなに破格な報酬なのにですか?」
郊外とはいえ一戸建ての借家の家賃が一年間も無料なのだ。報酬としては破格だろう。
「よほどの浪費家でもない限り、ランクCになるまでに達成した依頼の報酬で一般的な家を買えるくらいのお金は稼げますので、ランクCの冒険者のほとんどが既に自宅をお持ちなんですよ。それに冒険者の仕事は全世界を飛び回りますので家そのものが不要という方も多いんです」
「では依頼のランクを下げれば良いのでは?ランクCより下なら家を持っていない冒険者もいるんですよね?」
「そうしたいのは山々なんですが調査対象の遺跡は発見されたばかりのもので、どんな危険があるか分かっていないんです。依頼者の方からもなるべく高いランクの冒険者をお願いしたいと要請がありまして‥‥」
「なるほど」
カイゼルは納得した。確かに破格かもしれないが、ランクC以上で既に家を持っている者からすれば意味のない報酬だろう。かといって依頼のランクを下げすぎれば依頼者の要望に反してしまう。ランクCが依頼の受け手が来そうで、しかも依頼者の要請も満たすギリギリのラインだったということのようだ。
「この依頼でよろしいですか?」
「はい。お引き受けします」
「分かりました。調査の詳しい日程等は依頼者の方から直接話をしてもらえるようになっているのですが、今日はもう遅いので明日出向いてみてください。依頼者の住まいはこちらの紙に記載してあります」
そう言いながらエレンが差し出してきた紙をカイゼルは受け取った。
「分かりました。明日会いに行って来ます」
「以上で手続き終了です。成功を祈っていますよ」
「ありがとう」
エレンの言葉にカイゼルは微笑みながら礼を言うと、ギルドを後にした。
「カイゼル様、あれほどあっさり依頼を引き受けてもよろしかったのですか?」
「何か不味かったかな?」
ギルドを出てすぐにディーナからかけられた疑問に、カイゼルは立ち止まると首を傾げた。
「確かに借家が一年間無料なのは魅力的です。しかし、調査対象の遺跡はまだ発見されたばかり。どんな危険があるか全く分かっていないのですよ?」
「大丈夫だよ。私の手に負えない程危険な遺跡なら依頼者と一緒に引き返すから。私だって死にたくはないよ。ただ、少々危険を冒してもこの依頼は引き受けたかったんだ」
「‥‥理由をお聞きしてもよろしいですか?」
ディーナの問いかけに、カイゼルは頷いた。
「私はね、帰る場所が欲しかったんだ」
「帰る場所‥‥ですか?」
「そう。私はこの世界に生家がない。拠点となる場所がない。宿を借りれば良いのかもしれないけれど、ディーナ一人をいつも宿に待たせるのも何となく嫌なんだ。だから今回の依頼を引き受けた」
「カイゼル様‥‥」
「一年間無料で借りられるなら、その間に資金を貯めて借家を買い取っても良いと思うんだ。これから先冒険者をやっていくと、死ぬかもしれないって目にも遭うと思う。そんな時に帰る場所がある、ディーナが待っている家があるって思うことができればきっと生きて帰って来られる。そんな気がするんだ‥‥変かな?」
カイゼルの言葉を黙って聞いていたディーナは、いいえ、と首を横に振った。
「良いお考えだと思います。それに私の事まで心配していだだいて‥‥ディーナは良き主人に仕えることができて、幸せでございます」
ディーナの言葉に、カイゼルは照れくさそうな笑みを浮かべた。
「さて、話はこれまで。今日の宿を探さなければね」
「そうですね。そうしましょう」
照れ隠しのようにいつもより少し大きな声で話すカイゼルを優しい眼差しで見つめるディーナ。二人はゆっくりと歩き出すのだった。