冒険者の町へ(兵士Side)
前話の補足的な話を少々。
「次の方、どうぞ」
記録簿に目を落としながら、ダフィー・コートはいつもと変わらない、マニュアル通りの台詞を口にする。彼の仕事はグレイセルの町に入る人物を記録すること。身分証の提示を求め、その記載内容を記録簿に記入するだけの退屈な仕事だ。だが、彼はこの仕事を少し気に入っていた。グレイセルの町は冒険者と交易の町だ。毎日世界中から様々な種族の旅人や冒険者が訪れ、商人達によって世界中から見たこともない品々が運び込まれる。それを眺めるのが、彼の密かな楽しみだった。そして今日も彼はいつもと変わらない業務を淡々とこなし、一日が終わる。そのはずだった。
「次の方、どうぞ‥‥」
ダフィーが本日何回目になるか分からない台詞を口にし、顔を上げる。だがそこで彼の思考は停止してしまった。ダフィーに呼ばれ、前に進み出た二人に目を奪われたからだ。
(う‥‥美しい‥‥)
ダフィーの視界に入ったのはタイプの異なる二人の美女だった。一人は紅玉の瞳に美しい黒髪を短めに切り揃えた美しい女性。どうやら人間ではないらしく一対の漆黒の角を持ち、瞳孔は縦に長い。だがそれが神秘的な美しさを放っていた。もう一人は腰まである長い黒髪に銀色の瞳をした美女。男性が身に着けるような服装で、腰には一振りの剣を提げている。しかしそのような身なりをしていても、溢れんばかりの気品を感じさせる美しい女性だ。どちらもすれ違えば誰もが振り向くであろう美貌の持ち主だった。
「どうかされましたか?」
どれくらいの間見惚れていたのだろうか、ダフィーは銀色の瞳をした美女の声で我に返った。
「し、失礼。身分証の提示をお願いします」
我ながら笑ってしまうくらいにギクシャクとした動作でダフィーは二人から身分証を受け取り、記載内容を記録簿に記入していく。だが、身分証を見たダフィーは再び固まってしまった。
(まさか‥‥お‥‥男だって!?)
銀色の瞳をした美女の身分証、その性別の欄にははっきりと、男性と記載されていたのだ。
「?何か不審な点でも?」
またしても固まってしまったダフィーに不安げな声がかけられた。
「い、いえ!身分証をお返しします。通って結構です」
慌ててダフィーは二人に身分証を返した。
「ありがとうございます」
そう言いながら微笑み、優雅に一礼した二人が城門をくぐるのをダフィーは魅了されたかのように見送った。ふと辺りを見渡せば、城門周辺にいるほとんどの人がダフィーと同じように二人を目で追っている。
「世の中にはあんな人達もいるんだな‥‥」
ため息をつきながら、ダフィーはそう呟いたのだった。