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第5話

 ぼくは生まれてまもなく死んだ水子の霊のような気分だった。正直、昨日のことはおぼろげにしか覚えていない。カズキの妹だという少女に「あなたは人間じゃない」と告白され、ついでに目眩がしたと思ったら気を失った。


 自分でいっておいて、何がいいたいのだかさっぱりだ。


 ぼくはつまるところ、世間でいう一般人ではないらしい。それどころか、人間でもないそうだ。


 何を馬鹿な、というぼくの思いを読んだのか、トオコさんは目の前で、手のひらにこぶし大の炎を灯してみせた。オカルトじみたものなんてあり得ないとたかをくくっていたぼくは、ベッドから転げ落ちるほど驚いた。


 確かに、『そういうもの』があるのは事実らしいが、だからといって、ぼくが人間じゃないとは証明できないだろう。そういうと、彼女は神妙な顔をして同意した。


 あなたがカズキでないことは、わたしたちには明白。だけど、あなたにとっては、自身がカズキではないことはどうやっても知りようがない。なぜなら、あなたには判断基準となるものがないんだから。そう、どこか悟ったようにいう彼女は、自分ではぼくを納得させることができないのだと理解しているようだった。


 その表情を見て、ぼくはどうしようもない罪悪感に襲われた。ぼくは何も悪いことはしていないはずなのに。


 彼女たちは、ぼくを人間扱いしない。それならば、ぼくだって彼女たちに協力するつもりはなかった。半ば強引に病院に軟禁されているようなものだし、初日には手荒に扱われた。あまり気にし過ぎるのも心の狭い初業かもしれない。だとしても、ぼくは理不尽な目にあうのが許せなかった。


 ぼくはぼくだ。


 口に出したら、なんて陳腐な台詞だろうと思う。だけど、こればかりはいわずにはいられない。他の誰もがぼくを化物扱いする中で、ぼく自身が自分を信じないで誰が信じるというのだ。


 覚悟を決めてそう告げると、トオコという女性は「そう……」といったきりうつむいてしまった。


 病室は気まずい雰囲気だった。一緒にいるのは、ぼくとトオコ、ミオというふたりの女性。目が覚めてから、連日顔を合わせている気がする。それだけカズキという人物が大切らしい。


 ぼくは嫉妬心を感じずにはいられなかった。


 トオコという女性は背が高く、スレンダーでかなりの美人だ。妹のミオも可愛らしい部類だろう。彼女は背が低くて、儚げな雰囲気をかもし出している。そんなふたりにこれだけ心配されているのだから、無意識にぼくの置かれている立場と比較してしまって、なんだか欝になった。


 いや、そう考えるのもおこがましいのかもしれない。なんてったって、彼女たちは、ぼくを人間だとは思っていない。


 ぼくは大切な恋人にとり憑いた化物であり、兄にとり憑いた化物であり、滅すべき化物であるらしい。


 こんなことなら―――――


 「大丈夫ですか?」


 「え?」


 「いえ、なにか苦しそうでしたから」


 心配する口上ながら、目はまるきり警戒している。何に気を使っているのだか。そんなことをしなくても、ぼくはどうすることもできない。


 そう。ぼくにはどうすることもできないんだ。


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