61 皇太子と元騎士
<レスト(皇太子)>
私は、レスト・バーシル・ゴルア。
現在のところは、ゴルア国の王位第一継承者でもある。
父である王と対立しているので先のことはわからないが。
私は、なぜジオ国を憎んでいたのだろう。
この館の主である元騎士ビヤル・ドゥーブルは、幼いころの師である。
現在は隠居しているが、今でも尊敬している。
そのビヤルも今回の私を止めようとしなかった。
呆れられているのかもしれない。
ビヤルからジオ国について何も聞いたことがない。
いや、魔王は魔術だけでなく剣の腕も良いと聞いたか。
そんなことも忘れていた。他に聞いていても忘れているのだろうか。
ギルドマスターのリーコスという者の話を聞いてからジオ国への憎しみが
薄れてきたように思う。
今、何故だろうと考えている時点で憎しみの感情が自分の中からではなく、
外から思い込まされていたという事実がはっきりした。
何者かに操られていたと考えて動かねば。
まずは、海という青年と魔族の少女に詫びねばならないな。
操られていたとはいえ、助けてもらったにも関わらず罠にかけたのだから。
まぁ、助けてもらうという行為自体が罠ではあったが。
ここにいる者で事実を見極めねばならない。
誰が敵で誰が味方か。
<ビヤル(元騎士)>
やっと皆というか、おかしかった者たちの目が覚めたようだ。
ジオ国について見習えるべき良き国だと教えていた皇太子が変なのはすぐ気付いた。
が、言っても無駄なこともわかっていたので見守ることにしていた。
海という青年については、申訳ないと思ったが、もしもの際には助ける予定で。
まぁ、ナイトが一緒だったので問題ないだろうとも思っていたが。
ナイトは、犬だが不思議なことに信頼できる。
今回、操られていることがはっきりしたのは、海と婚約者である魔族の少女のおかげだ。
話が事実なことを私だけではなく、リーコスも知っていて話は早かった。
あと、操られ方が表のみで深層心理まで及んでいなかったおかげだろう。
グリューネが思ったより深くまで掛かっていたようだが。
これは、さきほどグリューネが言っていた友の引越しに絡んだ悪意の噂のせいだろう。
やはり、魔族の見た目を悪く言う者も少なくないからか。
さてと、ここはわしが仕切らねばならぬのか。
本来ならグリューネか皇太子だか、操られていた本人たちでは話の道がずれる。
リーコスでは、皇太子と元魔術師長の反発が予想される。
「レスト殿、前王がお好きな香とは?」
「そんなものはない。聞いたこともないぞ。おばあさまならともかく。」
「ユーチェ殿(偽勇者)、どちらでその話を聞かれましたか?」
「?その話の記憶はあるのですが、誰とか場面が思い浮かばないです。」
「これも記憶操作の一つと考えるべきでしょう。
グリューネの記憶は、どうなっている?」
「神殿の一室で行われた前王の葬儀とその後の祈りの記憶がない。
行われたという話のみだ。」
「レスト殿、この葬儀と祈りはどなたの主催ですか?王でしょうか?」
「いや違うだろう。神殿からだったと思う。これもあやふやな気がする。」
「ふむ、集めるところから記憶操作されている?徹底されていますね。
ジオ国を憎んでメリットのある人物なんているのでしょうか?
他国の内の一つでしかないと思いますが。」
手がかりが何もないように感じる。たいしたものだ。
「何もわからない状態なのでこのまま操られている振りでどうかな。」
リーコスの意見はもっともだ。
「操られている振りはできますか?」4人の顔を見てみた。
4人から頷くという返事が返ってきました。
「ひとまず、城へ勇者が現れなかったと連絡してください。」
わしと、リーコス以外を中心に動いてもらわねば。