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「グリューネ様、そろそろ戻っていただけませんか。」
宮廷魔術師の一人が、森の魔女グリューネに会いに来ています。
一通り状況を説明した後の言葉でした。
「王が変わったら考えないでもない。
私が、またあれに仕るなんて死んでもこうむりたい。向こうも同じね。」
「せめて勇者を探すのを手伝ってもらえないでしょうか?」
「無理矢理呼び出して、嫌がっていたんでしょ。
あの王だ、ろくなことさせないね。まわりの国への牽制と自慢ぐらいでしょ。
気に入らなければ殺すわね、あれは。」
「しかし、見つけれないと宰相と長が打ち首に。」
「なら、勇者を犠牲にするのね。自分の国の人間でなければ良いというの?
腹黒宰相は打ち首でいいんじゃない?長の方は、助け出せばいいんじゃない。
それかあれを倒すか?それなら手伝うけど。」
「グリューネ様。お気持ちはわかります、が、そこをなんとか。」
「くどい。私は、城を追放されたはず。」
グリューネは、聡明な王であった前王に見出されて宮廷魔術師長になりました。
しかし、愚王な現王と、実直なグリューネと合うはずもなく対立することとなりました。
そして、前王が亡くなると同時に追放を宣告され、現在に至っていました。
「だいたい、勇者が城から出たなら、もうこの国にはいないとみるべき。
後、宰相のことだから勇者の身代わりを出そうとするにちがいないから、
反対しないと、よけいに大変になるでしょうね。
他の国の魔術師で、魔術を感知できる者もいるんだから。逆に攻められるわね。
魔方陣と水晶が消えたのは、良いことね。あんなものは無い方が良い。」
「わかりました、グリューネ様。長にそのように報告いたします。」
「逃げるのは協力するから連絡して。ここへ来ても良いし。」
宮廷魔術師が帰ったのを確認して、グリューネは結界の前から家へ引き返しました。
「聖が、今日ここへ来たのなら間違いなく、勇者と断定した。
が、昨日の昼前からいて、髪が微妙で目が青く、魔力も普通だ。
となると、勇者であるはずがない。しかし、普通とはいえない。
なぁ、ナイト。」
グリューネは、足元にいるナイトへ話しかけました。
ナイトは、名前を呼ばれグリューネの方を見て、答えることもなく首を傾げました。
「さて、先ほど魔術の気配がしたから、お風呂とやらができたのだろう。
入りにいくか。ナイト行くぞ。」
グリューネは、家へ戻ると裏へ向かいました。
聖が、ちょうどお風呂から1階へ転移したのと同時でした。
「聖、できたみたいね。」
「グリーさん、おかえりなさい。
できましたので説明しますね。こちらに来てもらえますか。」
と自分のいる場所へグリーさんを呼びました。
「この上に転移する場所を作りましたのでそこへ転移して下さい。
先に行ってますね。」
「グリーさん、いらっしゃいませ。
ここが脱衣所と言って服を脱ぐ場所で、奥が浴槽と洗い場になります。」
「今から入ってみますか?お湯を入れて温度を一定にしてありますので。」
「いいわね~。聖もつきあいなさね。」
「はい。では、入りましょうか。」
あらら、さっき入ったばかりだけど。まぁ、いいっか。
二人で仲良く入浴して、家に戻って昼食をとりました。
<森の外れで>
グリューネと話していた魔術師が、何者かに捕らえられ気絶させられました。
そして、誰にも知られないようにどこかへ運ばれました。