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1-08

全員朝食を食べ終えて、プレートを重ね、カップをシンクに並べる。普段ならナリトとコウマは二階の準備だが、今日はコウマが終わらせてくれたので一階の手伝いをしてくれることになった。

二人には掃除を任せることにした。とは言ってもテーブルを拭いてもらったりするだけなのだが。

私たち女性陣は料理の仕込みだ。開店は8:00からだ。まだ少し余裕はあるけれど、開店直前にお客さんにバタバタしているところを見られたくはない。

でも料理をするにはシンクを空けなければならない。

「セイラン降りてこない…」

玄関からすぐのスイングドアから、二階に上がる階段を見上げる。足音はおろか物音すらしない。何をしているのだろう。

カウンターを磨き上げたコウマが布巾を持ってキッチンに戻ってきた。几帳面な彼のことだ。あの木製のカウンターを綺麗に磨き上げてくれたのだろう。

「ありがとー」

「いーよ、にしてもセイラン来ねえの?」

「うん」

「ったく…俺連れてくるわ、呼ぶだけじゃ来ねえだろ」

辛辣な評価だ。否定はできないのだが。

「助かるー」

ん、と頷いてコウマは二階にすたすたと登って行った。さて私はパイを焼かねば。業務用の大きな冷蔵庫から昨日仕込んでおいたパイ生地と卵を取り出す。生地の表面に卵黄を塗る間にオーブンを予熱する。こればっかりはソラに頼れない。

ソラはコンロに新しく大きなフライパンを二つ持ってきて、ホワイトソースとミートソースの準備を始めていた。グラタンやラザニアのベースを作るのだ。作業台の方ではヒナタが目にもとまらぬ速さで玉ねぎをみじん切りにしている。あの速さで均一な大きさに出来るのだからすごい。ただいつもぼろ泣きだ。

「うぅ~~目痛い~~~~」

「ほんとに玉ねぎ慣れないよねーヒナタ」

「だって~~~~~」

ボウル一杯になった玉ねぎを持って、バターが入れられた鍋にそれぞれ投入しながら、横にいるソラにからかわれている。ボウルを空にして、また作業台の方へ戻っていく。次は人参のみじん切りだ。

私はヒナタの隣でパイ生地にムラが無いよう丁寧に卵黄を塗っていく。急いで焼き始めないと別のデザートに取り掛かれない。セイランはまだだろうか。そろそろシンクの量が限界だと思うのだが。

「ぐええええ」

情けないセイランの声が聞こえてきた。

…どんな手段使ってるんだコウマ。

「おらとっとと洗い物しろ」

首根っこを掴んで二階からセイランを引きずり下ろしてきたコウマが命令している。ずいぶん手荒な真似をしている。

「わかってるって~あと少ししたら行こうと思ってたんだって~」

「お前のあと少しが何分かかると思ってんだ」

「5分くらい~」

「ふざけんなお前次また似たようなことやったらまじでこれだからな」

そういってコウマが右手で軽く拳を作ってセイランの顔面に見せつけるように突き出す。その手からバチバチと弾けるような音がする。なるほどあれか。前に一度だけ私の不注意で食らってしまったことがあるが、二度と味わいたくないものを味わった。

オーブンの予熱が終わったので、パイ生地を天板二枚に乗せて持っていく。おかげで二人の様子がよく見えた。

「ひえ…やりますやります洗い物、二度としませんサボり癖!」

セイランの顔が青ざめていた。能力の相性柄、セイランにはコウマの能力がすこぶる効く。しかもたびたび仕事中に食らっているのだからその効果は身に染みて分かっているだろう。

いそいそとシンクに向かうセイランをしっかり見届けると、コウマは階段の方に足を向けながら、もう上がっていいかと確認をしてきたので、もちろん許可した。彼が事実上の二階の主人なのだから先に行ってもらった方がいい。

オーブンの上下段に入れて、焼き時間を15分に設定してその場を離れる。あとで上下段を入れ替えねば。次はムースだ。これは多少時間がかかってもいいだろう。業務用の冷蔵庫から材料を取り出しつつ、後ろの様子を確認する。

セイランが蛇口を少し捻って最低限の水を出し、器用に指先でそれをシャワー状に操って、山ほどある皿や調理器具を満遍なく濡らしていた。泡立てたスポンジでどんどん洗っていく。そしてまた水をうまく操って綺麗に泡を洗い流していく。見ていて見事なものだ。しかも水が飛び散って周りがびしゃびしゃになることもない。

少し満足したので私はデザート作りに専念することにした。ヒナタがみじん切りにした人参とスライスしたマッシュルーム、ざく切りにしたトマト、ひと口大に切った鶏肉がそれぞれ入ったボウルを4つ持ってソラの方へ戻っていく。一度にあんなに大量に運べるのは羨ましい。私も腕4本欲しい。しかも収納自在だし。ただあんなに上手く扱える自信はない。

生クリームを頑張って泡立てながらそんなことを考える。結構量があるのでさっきよりも大変だ。無心になって調理に没頭していると、ナリトに声を掛けられた。

「ユキー、テーブル全部拭いてきた、あとついでに小物屋のほうもはたき掛けといた」

「ん、あ?あー、まじかありがとう、そっちもやってくれたんだ」

「たまにはねー、僕ももう上行っていい?」

「うん、色々助かったよ」

「はーい」

問題児以外はいつもの場所に戻ってもらう。開店準備は終わらせてくれたと言っても、他の仕事があるだろう。二人いた方がいい。

「なーオレまだ洗い物なのー?」

「当然でしょ」

「当たり前じゃん」

「むしろよくそれだけで終わりだと思えたな」

ソラ、ヒナタ、私から次々とツッコミが飛んでいく。料理の仕込みは意外と洗い物が出るのだ。ついでにそれも全部させてしまおう。

「飽きたー」

「うるさい」

ソラも辛辣だ。でもセイランも着実に洗い物を減らしている。あとで何か余りものでもあげるか。

あらかたホイップクリームになって来たので、他の材料と合わせて型に流し込む。そろそろ自室の窓を閉めなければ。一旦型を冷蔵庫にしまって、フライパン二つと睨めっこをしているソラに声をかける。

「ちょっと自室の窓閉めてくる」

「んー」

生返事だが聞いてはいるらしい。オーブンの時間が残り5分ほどになっているのを確認し、すぐに帰ってくればちょうどいいくらいの時間だと思った。

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