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店内に入ってきたコウマが客席のテーブルに持ってきた荷物を置いた。ずいぶん重たそうだが、コウマにしてみれば大したことは無いのだろう。彼は小柄な割に力持ちなのだ。
コウマが一パックを掴んで、カウンターの方に持ってきてくれる。
「はい、これ」
「うわあまじでありがとうナイスタイミング過ぎる、これで朝食にスクランブルエッグが食べられる」
「あそうなんだ、じゃお礼伝えとくね」
「たのんます」
一旦コンロの火を止め、ソラとコウマとナリトは客席の一つのテーブルに集まっていた。なにせ大荷物なのだ。キッチンで広げるには大きすぎる。卵以外にあの中に何が入っているんだ。
「コウマ、ありがとう!ユキ、ちゃんとしたバニラアイス作れるね!」
「はいはい、代わりにスクランブルエッグお願いね」
「りょうか~い」
コウマが持ってきた他の荷物については、ナリトに任せることにした。恐らく調理器具か何かだろう。そういえばついこの前、ソラが新しいフライパンが欲しいと言っていたことを思い出す。ああ、そうだ、それと確か…
そこで裏口の扉が勢いよく開く。
「おはよ!!!!!今日は遅刻じゃないよね!!!!!あ、コウマ!!頼んでたもの持ってきてくれた!!!??えなんかめっちゃいい匂いする今日のご飯何?」
つい先日このヒナタが皿を割ったのだった。
「おはよ、めずらしいじゃんこんな早いの」
私が声を掛けると、すごい速さでコートや防寒具をポールに掛けて客席に向かおうとしているヒナタの姿が見えた。動きが早すぎる。
「そうでしょ!!まじ頑張った!!!えらくない!?」
「えらいえらい、普段からそれができたらもっとえらい」
「それは無理~」
適当にあしらわれた気がする。まあでもいつもこんなものだ。
そのままの勢いでヒナタは裏口の玄関横のホールに繋がるスイングドアを飛び出していく。そしてコウマとナリトのいるテーブルに向かっていく。大丈夫だろうか。特に持ってきてくれたであろう皿とか。
ホイップクリームを泡立てるのに必死な私はそちらを向いている余裕は無かったが、ナリトが制止する声が聞こえた。
「うわちょっと待って怖いそのまま突進してこないで」
きっと何とかなったのだろう。淡い期待をする。
直後にガタガタッと椅子やテーブルが倒れる音がした。
…悲しいかな、何とかならなかったらしい。
「急に能力展開しないでよ!!びっくりするじゃん!!!」
「いや走ってくるヒナタが悪いだろ、コウマ皿持ってんだぞ」
ああやっぱりか、ナリトは声だけでヒナタを止められるとは思えずに能力を使ったのだ。それにしてもあれを店内でやられるのは勘弁してもらいたい。スケールが桁違いなのだから。
「それはそうだけどー、ごめんねコウマ」
「いーえー」
ガシャガシャと泡だて器を動かしながら、右手でしっかりとボウルを抑え込む。力はこめ過ぎず、かといってきちんと押さえないとうまく泡立たない。
ソラがこちらに卵を取りに来た。それほど狭くはないキッチンだが、念のためぶつからないように少し端によける。
「いくつ食べる?」
「んー2個かな」
「おっけー」
そう言ってソラは卵をパックごと回収していった。そんなに焼く気なのか。いやでも人数いるもんな。そりゃ数も必要か。
ベーコンの焼けるいい香りと、フレンチトーストの甘い香りがしている。うまく焼けているみたいだ。
ボウルに卵を割りいれ、箸でかき混ぜる音が聞こえる。スクランブルエッグに取り掛かっているようだ。
いい具合にホイップクリームが泡立った。ボウルから右手を離す。泡だて器はそのままボウルに入れっぱなしにしておいた。すぐ使うからこのままでいいだろう。
耐熱のガラスボウルを取り出して、牛乳と砂糖を計り入れて、先ほどまでホイップクリームに使っていた泡だて器からクリームをある程度叩き落として、砂糖をある程度混ぜる。
「ソラー、これちょっと温めてー、沸騰ギリしないくらいまでー」
「はーいちょっと待ってね」
卵の入っているフライパンと睨めっこしていたソラは、満足したかのようにそこから視線を外して、こちらに向き直る。そしてボウルを両手で抱えた。




