2-03
壁に掛けてある時計を見る。もうすぐお昼休憩だ。そこでドアベルが軽快に鳴る。
「おっはよー」
「いらっしゃいませ、ああ、カンナさん。」
ちょうど小物屋を見たいというお客さんがいたので、並べてある商品の紹介をしていると、背の高い、堂々とした雰囲気を纏った女性が入店してきた。ミントグリーンのシフォン生地の羽織りが風を受けてふわりと揺れる。肩近くで切り揃えられた明るい茶髪がパッと散る。それを豪快に掻きあげた。
この時間になるといつもやってくる、常連客のカンナさんだ。
「おおカンナさんじゃないか、もうそんな時間なのか。」
商品を二つ手に取って、どちらを買うか悩んでいたお客さんも彼女に声を掛ける。
「おっドウダンさんじゃーん、ユキちゃんお手製の籐籠気になっちゃったー?」
「おう、雪女の割りにはよくできていると思ってな。」
「お褒めに預かり光栄です。」
ものづくりを最も得手とするドワーフに褒められるのは単純に嬉しい。ちょっとけなされていた気もするが。
カンナさんは小物屋の前のテーブルに腰かけた。そこにヒナタが冷水の入ったグラスを持ってくる。
「おはようございます!カンナさん!」
「ヒナちゃんおはよー、ラザニアとムースとコーヒー貰っていい?」
「かしこまりました!」
ヒナタが軽やかにキッチンに戻っていく。ドウダンさんはどちらを買うか決めたらしい。
「よし、こっちの大きめのバスケットを買おう。」
「かしこまりました。」
お会計は扉のすぐそこだ。そこまで商品をお持ちする。
料理代と、バスケットの両方のお会計をして、ドウダンさんは帰って行った。バスケットを少し大切そうに抱えていたのがほほえましい。奥様とピクニックに行くために買ったらしい。仲睦まじいことだ。
その後もお会計を済ませるお客さんが続き、最後に残ったのはカンナさんだけになっていた。テーブルを片付けつつ、料理を提供して談笑しているヒナタと彼女の会話を流し聞きする。カンナさん曰く、今日はこのあとも快晴だそうだ。彼女は天気を正確に言い当ててくる。風向きを敏感に感じ取れるからだろう。
キッチンに戻り、洗い物を片づける。カンナさんが来ると他のお客さんが来なくなるのでありがたい。存分にお昼ご飯の支度が出来る。まもなく二階からアズマさんも下りてきた。満足げな表情をしている。普通の場所に顔があるのがなんだか不思議でならないが、これ以上は考えてはいけない。
「……美味かった」
「それはなによりです。」
きちんと小皿とカップをカウンターまで持ってきてくれた。会計を済ませると、どこに繋いでいたのか分からない愛馬に颯爽と乗って帰って行った。
お会計のところまでやって来たので、ついでに午前中の会計を大まかに頭の中で計算する。うん、結構いい調子だ。やはり天気が良いとお客さんは多くなる。お昼休憩中にざっくり帳簿にまとめておこう。
色々と計算をしていると、ヒナタの驚いた声が聞こえた。
「え!!??風見鶏じゃないんですか!!!???」
「そうよー、アタシはね、閑古鳥」
「えええええ!!??」
ヒナタのリアクションが結構やかましい。それにしてもとんでもないことが聞こえた気がする。風見鶏ではないのか。そんなまさか。
一旦聞き耳を立てることにした。気になるものは気になるのだ。
「だって天気とかよく当ててるじゃないですか!」
「あれはねーなんとなくー」
なんとなくであんなに天気を当てていたら、日和坊やアメフラシの仕事も上がったりだ。
「それに服装もヒラヒラしたのよく着てますし!」
「それは好みだねー」
風見鶏という種族らしく風を感じやすい服装を選んでいるのかと思っていた。そういうわけではないのか。思い込みで他者を決めつけてはいけない。
「うわあ当てられなかったの悔しすぎます!」
「いやいやヒナちゃん、もっといいヒントあったじゃん?周り見てみなって」
「…?特に何もないですけど…」
さりげなく私も店内を見回す。特に異常はない。
「お客さん、みんな帰っちゃったでしょ?」
「…あっ」
言われてみれば確かにそうだ。カンナさんが入店した後は、他のお客さんは帰っていく。そして新しく入店するお客さんもいない。お昼休憩のためにお客さんを急かしたりする必要が無くて便利だな、くらいにしか考えていなかったので、それを異常だとは一切感じていなかった。
あらかた計算もまとまったので、キッチンに戻って洗い物を再開する。話し声が少し遠くなり、聞き取りにくくなった。あとでお昼休憩のときに続きを聞こう。
少し経つと、カンナさんが会計を済ませて店を出ていく音が聞こえた。ドアベルが店内に少し響く。
「じゃあねー」
「ありがとうございました!」
ヒナタに外の看板を休憩中に変えてもらい、扉に鍵を掛ける。勝手にお客さんに入られては困る。
小走りで戻ってきたヒナタがキッチンを覗き込みながらはしゃぐ。
「お昼だー!!!」
さて、何を食べようか。




