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2-02

開店後1時間もすれば、お客さんはそこそこやってくる。席が全て埋まるほどではないけれど、話し声やカトラリーの音で、店内は少し賑やかになる。

シキブさんとナラさんはもうお帰りだ。二人とも長居をするタイプではない。うちの店で読書談義をしたあとは、近くの本屋に寄るのが日課だそうだ。

彼らと入れ替わりのようにやってくるのが、二階の常連客であるアズマさんだ。そもそも二階のボードゲーム屋にやってくる新規のお客さんはほとんどいない。つまりアズマさんがお見えになれば、本日初の二階のお客様ということになる。そういえばあの三人はどうしているだろう。皿を戻しに来ていない。パイは食べきっただろうか。

ホールから戻ってきたヒナタから、ナポリタンとレモンスカッシュの注文が入った。

食品はソラの担当だ。パスタを茹でつつ、別のフライパンにバターを投入し、玉ねぎ、ピーマン、ウインナー、マッシュルームを炒めている。いい香りだ。軽く炒めたらケチャップを入れて煮詰める。ケチャップ特有の酸味を飛ばして甘味を引き出すのだ。そしてそこに顆粒コンソメを入れてソースの味を調えて、あとは茹で上がったパスタを絡めれば出来上がりだ。この作り方がエキゾチックの定番だ。

飲料は私の担当だ。細いグラスに氷を入れ、自家製のレモンの蜂蜜漬けからシロップを大匙2杯、そこにマドラーで炭酸水を静かに注ぎ入れて軽くゆっくりかき混ぜる。混ぜすぎると炭酸が抜けてしまう。薄くスライスしたレモンをグラスの縁に飾り付け、ストローを刺せば完成だ。

出来上がった品をヒナタに持って行ってもらう。新しい注文はなかったようだ。今のうちにブラウニーを切り分けておく。そうだ、ムースの事をすっかり忘れていた。今のところ注文が入っていなかったので、冷蔵庫に入れたままだ。

料理を提供し、細々と動き回っていたヒナタが声をあげた。

「あ、アズマさん!おはようございま…す?あれ、いつもの荷物はどうしたんですか?」

どうやらいつもと様子が違うらしい。素っ頓狂な声が聞こえる。

「……見ての通りだが」

アズマさんの声の調子は変わらない。どうしたのだろうか。

「いらっしゃいませ」

カウンターから顔を出して挨拶する。

二階に上がるには、一階の喫茶店で何か1つ注文をしなければいけない。いわば席料のようなものだ。カウンターまで近づいてきたアズマさんが、いつも通りブラウニーとホットレモンを頼み、慣れた足取りで二階に上がっていった。

それにしても違和感が凄まじい。何が違うのだろう。確かにいつも小脇に抱えている頭が見当たらない。首を捻りつつ、お盆に乗せたブラウニーの小皿とホットレモンのカップを二階へ運ぶ。

「お待たせしました」

アズマさんは早速席に着いて、セイランと対局を始めていた。さきほど上がったばかりではないか。邪魔にならないように机の横に小皿とカップを置いておく。

「……すまんな」

こちらを向いて礼を言われる。立って見下している私と、座って見上げるアズマさんと目が合った。そこでやっと気づく。

「頭ある!!!??」

「……だから言ったはずだが」

きちんと首の上に頭が乗っている。今まで見たことがない恰好だったせいで気づけなかった。おかげでとんでもない口のききかたをしてしまった。

「失礼しました…」

「……構わん」

それにしてもどうしたのだろうか。今までこんなことをしたことは無い。どんな心変わりなのだろう。それとどうやって固定してあるのだろう。

長考が終わってようやく一手を指してこちらを向いたセイランが目を剥く。

「頭どうしたんスか!!??」

「今やったわその流れ」

セイランの頭を引っぱたく。どうして今気づくんだ。対局前に話さなかったのか。

カウンターで本を読んでいたナリトが気になったのかやってきた。コウマは本を見ながら盤面に駒を並べて定石の確認をしている。

「アズマさん、それどうやって止めてるんですか」

聞きたかった質問だ。よくやったナリト。

「……ほれ」

首回りを覆っていた黒いストールをずらして見せてくれる。首の前後左右にガムテープが4箇所貼ってある。

「おお~」

ナリトが感嘆の声を漏らす。『おお~』じゃない。感嘆している場合か。パワープレイが過ぎる。どうしてこうも斜め上の解決方法を選んだんだ。

「……これが一番止めやすい」

アズマさんもなんでちょっと誇らしげなんだ。デュラハンはもう少しクールな種族ではなかったのか。

一方でセイランは大爆笑している。こっちも笑っている場合か。誰かこの状況を止めてくれ。縋る思いでコウマを見るが、こちらに一切の関心を見せていなかった。本から視線が一切上がらない。本当に助けて欲しい。よし一階に避難しよう。

「…………それではごゆっくりどうぞ」

カウンターの端に置かれていた、パイの乗っていた小皿を回収して一階に下りる。全部食べてくれたようだ。


回収してきた小皿と、提供した料理の皿などを洗おうとシンクに向かうと、ソラにアズマさんについて聞かれた。話を聞いていて気になったらしい。端的に答えよう。考えすぎると頭が痛くなりそうだ。

「頭、ガムテで止めてた」

「ふうん……?」

少し怪訝な顔をされる。やはりガムテで止めてくるのはどうかと思う部分はあるのだろう。

「ガムテじゃなくてサージカルテープで止めた方が肌荒れない気がする」

なるほどあなたもそちら側でしたか。もうツッコミはやめよう。

私は皿洗いに集中することにした。

グラスを洗いながら、私は一つ質問し忘れたのを思い出した。

アズマさんはどんな心境の変化があって、あんなことをしたのだろう。

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