第一節 『ありがとうのおまじない』
方舟シリーズ3作目です。よろしくお願いいたします。
けここっこー!
ニワトリさんの鳴き声が、朝餉の時間を教えてくれる。
「んぅ、うぅん……。さむぃ」
障子の隙間からやって来る冷たい風に、ボクは急いでお布団の中にもぐる。
ぬくぬくで、ぽかぽか。とってもあったかい。ミノムシさんの気持ちが少しだけ分かった気がする。
「きょうはこのまま寝てたいなぁ……」
まぶたが頬っぺたとくっついちゃう。もう目が開かないよぉ~。
でも──、
「──おはようございます、折姫様。朝餉をお持ちいたしました」
朝餉はいつも決まった時間にやって来る。
だからお寝坊なんてできない。
折角のご飯が冷めちゃうし、作ってくれた人たちが悲しんじゃうから。
ちゃんと一番おいしい時に、食べないと。
「ふぁ~い」
お返事をする時に、あくびも一緒に出ちゃった。
「今日は白川産の鮎の塩焼きに、安土産の大根おろしを添えてます。ゆず醤油をちょっとかけて食べると、油っぽさが消えるのでオススメです! 玄米の方もおかわりたくさんあるので遠慮なく言ってくださいね~」
「うん……」
頑張ってお布団から出ると、女中のお姉さんが朝餉の用意をしていた。
桜柄のお茶碗にほっくほっくの玄米をよそい、お味噌汁の入ったお椀の蓋をそっと開く。
ふわりと香るお味噌とだしの香りを嗅いだ瞬間、ボクのふにゃふにゃ頭がぴぴーんと冴えた。
「いただきま~す!」
食べる前にありがとうの気持ちを、元気よく言う。
それからボクは桃色のお箸を持って、まずは温かいお味噌汁に手を伸ばす。寒い朝は、まず身体の温まる汁物から味わうの。
「はぅ……」
ぽかぽかだぁ~。やっぱり朝はこれだね~。
「この鮎もおいひぃ~♪」
お塩加減もちょうどよくて、玄米もぽいぽいお口の中に入ってく。
それに脂のまろやかさがお塩のピリピリを消してくれるから、とっても食べやすくて幸せだぁ~。
「おかわりもありますよ」
「おかわり~!」
ボクはすかさず、鮎の塩焼きをお願いした。
「はむっ、んぅ~♪」
今度は、大根おろしをちょびっと乗せて食べてみた。
ちょっとだけ舌がピリリと痺れた。でも、脂のたくさん乗った鮎はとってもさっぱりしてて、さっきよりも、もっとおいしく感じた。
「このゆず醤油もさいこ~だぁ~」
醤油のしょっぱさとコクに、ゆずのすっぱさとすっきりする香りが一緒になって、鮎のおいしさがもっとも~っと増した。
「まだまだおかわりありますよ」
ボクの気持ちを分かってるなんて、このお姉さんはデキる人だ。
「あと十匹ほしい~!」
「さ、流石に、十匹はご用意してないです……。あと五匹ならあるんですが……」
驚かせちゃったかな?
でも、あと五匹は食べられるみたい。
「じゃあ、五匹~!」
うれしくて声がピョンピョンしちゃう。だって、まだ食べられるんだもん!
あっ、ついでにごはんもおかわりしよ~っと♪
「分かりました。でも、残したら怒りますからね~?」
「もっちろ~ん♪ たべものは粗末にしちゃだめって、紗季お姉さまに言われてるから、残したりしないよ~♪」
紗季お姉さまにおしりペンペンされちゃうんだもん!
言いつけはちゃんと守らないとね!
「てことで、ごはんおかわりぃ~! あとお味噌汁も~!」
ボクのお腹は、ぶらっくぽーる?
だから、たっくさん食べてもへっちゃらなんだぁ~♪
「ぷはぁ~! 食べた食べた~♪」
ぽこぽこお腹をなでなでしながら、ボクは畳の上に寝っ転がる。
でも、すぐに起き上がった。
ひとつだけ忘れてることがあったんだ。
それはね──、
「──ごちそうさまでした!」
食べ終わりのあいさつ。ありがとうのおまじない、だよ♪
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