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還暦シニアは職業訓練所に通う。

上司のパワハラが原因でとつぜん会社を辞めた還暦間近のジジイ。なんの資格ももたない年寄りに世間の風は冷たかった。ジジイは失業保険が延長されるショックンこと職業訓練所のビルメン科に通うことにした。


残された期限は半年間。


ジジイは無事にビルメン四点セットの資格を手にできるのか。なによりも就職することができるのか。

キミはジジイの涙をみる。

「この会社には、もういたくありません」


(もう我慢できない)

わたしはそう言い残して、七年つとめた運送会社の事務所を飛び出した。

心が折れた気がした。


わたしはもうすぐ還暦のジジイ。

本人はまだオッサンだと思っているけれど世間的にはジジイだ。

会社を辞めた理由は、かんたんにいえば上司である部長のパワハラである。


部長は上には弱く、下にはめっぽう強い。

それが大人しい部下にはさらに強くでた。

この二年間、わたしは上司から労いひとつどころか、優しい言葉もかけてもらっていない。


いつもありがとう。

よくやってくれているのは知っているよ。

大変だろうけど、頑張ってね。


そんな言葉ひとつかけてくれなかった。


その日、仕事を終えて事務所に帰ってきたわたしを待っていたのは部長の説教だった。

同じ作業をしても他のドライバーは注意もされず、なぜかわたしだけ怒られる。


いつもなら黙って聞いていたが、その日はとうとう我慢できなかった。

そしてわたしは無職になった。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


ずっと使えなかった有給休暇が40日残っていた。

使わなかったのではない。使わせてもらえなかった。


その間、ゆっくり休んで次の仕事を決めよう。

光陰矢の如し。すぐに40日は過ぎた。


(どうしよう、人と会うのが怖い)


決して働きたくないわけではなかった。生活もあるし、退職金は片手しかないのだ。

一回り年下の妻も働いているので、すぐに金に困ることはないのが救いだった。


(ちがう。また職場に変な人がいることが怖いんだ)


それでも次の仕事は探さなければ・・・・。

でも、こんな還暦のジジイを雇ってくれるところあるのだろうか。


失業保険の手続きもあったので、わたしはハローワークに行くことにした。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


「職業訓練を受けたいんです」


失業保険がもらえる期間が残り一か月ほどになり、わたしは焦った。

次の仕事はトラック運転手ならすぐにみつかった。

わたしの心がささやいた。


(また金のためだけに働くのか)


思えば、前の会社につとめたのも金がなく知人に紹介されたのであった。

やりたいこともなく、ただ生活のため。金のために就職した。

もっとやれることはないか。やりたいことはないのか。


そんなとき、ハローワークのチラシ置き場で職業訓練のことを知った。

職業訓練はハロートレーニングともいう。


かんたんにいえば半年間、国からお金をいただいて手に職をつける学校に通えるのだ。


(よし・・・こうなったら半年間、一生分の勉強をしよう)


半年間、働かずにお金がもらえるラッキーなんて絶対に思ってはいない。

いないです・・・よ。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


そこからのわたしの動きは早かった。


翌週の職業訓練所の体験見学会に申し込み、ハローワークの説明会にも参加した。

そこで出会った訓練校の担当さんの一言でわたしの覚悟は決まった。


「ビルメンなら資格があれば年齢に関係なく雇ってもらえますよ」


素晴らしい。年齢的に力仕事は無理がある。

けれど、ビルの設備管理なら座ってモニターを見ているだけで体力は必要ない。

じっさいに七十を超えたひとも働いているらしい。


ビルメンとはビルの管理やメンテナンスをする仕事。

ビルだけでなくマンションや工場、浄水場や火力発電所といった公共施設の維持管理も含まれる。


ちなみにビルメンとして持っていたほうがよい資格は四つ。


・危険物乙種第四類

・消防設備士(乙四)

・二級ボイラー技士

・第二種電気工事士


これらはビルメン四点セットと呼ばれている。


おっと脱線した。まずは職業訓練所に入所できなければ話にならない。


入所試験は筆記と面接。筆記は中学生くらいの学力があれば大丈夫だと感じた。

問題は面接だろう。


国の税金を使うので、いいかげんな人間を入れるわけにはいかない。

なによりも新たな職業につく強い意思をもった人間を優先する感じがした。


その意思を確認するのが面接だった。


「ここを退所したらどんな仕事に就きたいですか」

「あなたが希望するビルメン科に入ったらどんな資格を取りたいですか」


ここで「資格をとりたいから入所したい」「半年間、失業保険を延長したいから入りたい」なんて答えるバカは落とされて当然だろう。


「ここで手に職をつけて新たな会社に就職したい」


わたしはハッキリと答えた。

(嘘ぴょーん。まずは資格を手にするよ)


でも実際に就職するときに資格はパスポートになる。


二十歳の若者なら将来も未来もあるけれど、なんの資格もない還暦ジジイは何か武器をもつしか手はない。


その武器がビルメン四点セットだ。


一週間後、自宅に合格の通知が届いた。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


十月のある日。わたしはスーツを着て職業訓練所の入所式に参加していた。


いろいろな説明のあと、それぞれの科に移動。授業の予定表を手にして愕然とした。


ビルメン四点セットのひとつ、もっとも難しいであろう第二種電気工事士。

筆記の試験日は十月の後半と五月の後半の年二回。


すでに十月の試験の受付は締め切られていた。

わたしが受験できるのは来年の五月。


職業訓練所ことショックンを退所したあとになる。


(なんてタイミングが悪い。大丈夫か、わたし)



どうも異世界シニアです。異世界転生を夢みる痛いジジイなのは本当ね。

こちらもついカッとなって小説もどきを書いてしまいました。


ぶっちゃけドキュメンタリーです。実体験。だから書いていて痛い。心が痛い。

それでも半年間、ショックンに通ったことを後悔はしていません。


急がば学べ。


長い人生の半年間。必死に一生懸命がんばってみました。

その結果はおいおいこの小説で語りましょう。


さいごにビルメン四点セットだけでなく、資格試験に挑戦する方にも役立つ勉強法も作品のなかでお教えする予定です。


どうぞお楽しみに。そしてよろしくお願いいたします。


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