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プロローグ2


 うんとかすんとか、適当に相槌を打ってるだけで男は喋った。

名前はリッド、そして予想通り冒険者であった。

詳しいことは知らないが、ゴールドランクという位置にいるらしい。

ゴールド。多分凄いのだろう。

小型のドラゴンも討伐した経験もあるようで、にわかには信じがたかった。

そしてどうやら、俺と同じ盗賊の守護星座の祝福を受けている。

全てのものは何らかの守護星座の祝福を受け生まれる。盗賊の守護星座の祝福を受けたものは、皆器用で身のこなしが俊敏である代わりに、魔法の才能に劣ると言い伝えられている。

俺はその通り魔法の才能に恵まれなかった。もしも普通の人間が10だとすれば、俺は1か2程度だろう。

だが人並以上に盗賊の才能には恵まれた。盗みや逃げ足の速さといった、自慢できるようなものではない才能に。

リッドは同じ守護星座だと知ると、それまた気を良くしてくれた。

片や貧しく、方や冒険者で成功した者。

自分も冒険者になって苦労はしたこと、だがとあるアーティファクトを拾ってツキが回ってきたこと。

それもポケットから出して、子供がデカい虫を見せるように自慢げに見せてくれた。

なんの意匠もない地味な指輪であった。ただリッドの顔を見るに、見た目とは裏腹にとてもご執心のようだ。だが培った俺の目は、そこまで高価なものだとは感じてはいなかった。

リッド自身も価値自体はあまりないし、並みの魔術師一人分くらいの魔力を貯めておける程度の力しかないと言っていた。

なるほどね。自分にもともとある程度の魔力の才能があれば、一人分増えても倍にはならないってことか。

暗に自分は、盗賊の守護星座の元に産まれながらも魔法の才能が並み以上にあったのだよと自慢してるわけだ。

だから運気の上がるお守りのようにいつもポケットにね・・・。

そのまま自分が功績を認められ冒険者訓練学校の教官、ハンドラーと言うらしい、に招聘されたということも話してくれた。

この馬車が向かう次の停留地、グリムヴァルドホールドにそれはあるようだ。

ガキ相手に適当にやってれば安定した給金ももらえると、良い笑顔で言ってくれた。

冒険者か。

俺にとっては一番理解しがたい人種。

たった一個の命をベットし、名声や金を得るやつら。

いくらそんなものがあっても死んだら意味はない。

彼らの信じる地獄では、名声や栄誉で刑を軽くすることができるのだろうか。

地獄の窯の中では勲章や冠があれば涼しく過ごせるのだろうか。

ハンドラー?軍用犬の調教師だと。ガキに死ぬ訓練をさせる学校にはお似合いだ。

スラムの痩せたガキを拾って生きる術を教えてくれたアニキとは正反対だな。どうやら盗賊の方が聖職者だったらしい。

心の中で苦笑はしたが、リッドの前では冒険者さまにへつらう貧乏人を演じていた。

そのまま1ガルドでも恵んでくれればいいのだが。


「ああそういえば、東の方でいくつか盗賊団や山賊団が壊滅したのは知ってるか?」


それだけは予想できなかった。

いや予想していたとしても、俺は自分の行動を制御できなかっただろう。

その言葉に、俺はリッドに詰め寄ってしまった。


「な、なんだと!?詳しく教えろ!ファミリー・・・、ディエゴファミリーってのも壊滅したのか!?」


リッドは驚いて俺をにらんだ。


「な、急にどうしたんだよ。怖ぇじゃねえか」


俺は手を離したが、視線はリッドに向けたままだった。

軽率だったかもしれないが、いてもたってもいられなかったのだ。

リッドはため息をついて、せっかく気分よく話していたのに少し警戒し始めたが、また言葉を続けてくれた。


「よくある冒険者ギルドの悪党退治の仕事だよ。俺はグリムヴァルドの冒険者訓練学校に行かなきゃならんかったから参加できなかったんだが、今回は楽な仕事だったみたいでよ。偽の情報流して悪党同士を先に潰し合わせて、残ったやつらを冒険者たちで掃討するってものだったんだ。奴らたんまり金目の物ため込んでるからよ。俺も参加したかったんだよなあ。ディエゴって言ったらあの辺じゃ幅きかせてた盗賊団の頭目だろ?頭はだいたいその場で処刑か、捕獲して公開処刑かだろ」


ドブ川が更に腐ったようだった。

すでに嫌いなものに、憎悪と怒りが混ざりこんだ。

なんだって・・・。俺たちのファミリーを襲ったのはほかの悪党ども?

そしてそれを企てたのは冒険者ギルドだって?

偽の情報で悪党同士を戦わせ、残党を狩る。

しかも冒険者どもはそれを簡単な小遣い稼ぎ程度にしか思っていない?

そんな害虫駆除みたいな感覚で、ファミリーは、ディエゴのアニキは。


流石に感情が顔に出過ぎたようで、リッドは少し怪訝な表情でそっぽを向いてしまった。

ああ、別にいい。いや、それでいいんだ。

俺は逆に湧き水のような怒りを殺した。

この憎悪の生贄にするために、静かに呼吸を整えた。

【羽根が触れるかのように/フェザータッチ】

すまないが、俺は気づいたらスラムで生きていて、人生の半分は盗賊団の中で過ごした。

そんな俺が、人の嫌がることをするのが嫌いな人間のはずがない。

物心ついた時から幾度もこなしたスリの技術は、いつしか羽根が触れるほどの感触も相手に与えない最強のスキルへと昇華した。

一流の戦士が一瞬にして相手の首を狩るようなスキルを会得するような膨大な時間、俺は人の物を盗むことに費やしたんだ。

貴様のご執心の運気アップのお守りは、俺の手の中だ。。


しばらくして、馬車が急に止まった。

まだ次の停留地、グリムヴァルドか、には時間があるはずだ。

倒木でもあったのかと、話をやめたリッドが不機嫌そうに天井を見る。

しかし、馬が聞いたこともない甲高い鳴き声を上げ始め、それが伝染するように他の客たちにも不安の声が上がる。


「どうしたんだ!?」


「馬が暴れ・・・、うわああ」


御者の声が外から聞こえたと思った次の瞬間、強い衝撃が馬車を襲った。

世界が回転する。

ボロとは言えそこそこデカい馬車が、荷台ごと吹き飛んだのだ。

俺は荷台から投げだされ宙を舞い、地面にたたきつけられた。

頭を打った。

目の前が白くなり濁っている。

体中に激痛が走り、息が満足にできない。

揺れながら立ち上がると、鉄のような匂いが鼻についた。

周りを見ると、さっきまで反対側に座ってた客に木の板が突き刺さって動かなくなっていた。

ボロだったからな。運が悪かったのだろう。

次に悲鳴が上がった。

何かを見て震える女がいた。多分一緒に乗っていた別の客だ。

彼女の見ている方向に視線をやった。

太陽を背にデカい影があった。

ぼやけた視界が徐々に鮮明になっていくと、その全貌が明らかとなった。

それを見て、敬虔な無神論者である俺でさえ、神に祈りを捧げそうになった。


「な、なんでこんな平地に」


翼の生えた家よりデカいトカゲがそこにはいた。

深緑の体に蝙蝠のような翼、ドラゴンだ。

ドラゴンは馬を口に咥え、俺たちを睨んでいた。

本能ではない、アニキの声が先に体を動かした。


『勝手に死ぬことは許さない』


すぐさま逆方向に走り出した。

いや、走れなかった。

左脚に激痛が走り、俺はその場に倒れこんだ。

痛む左脚を見れば、あらぬ方向に曲がっている。

折れている。

這いずってでもそこから遠ざかろうとしたとき、リッドを見つけた。

腹部を抑えながら、横転した馬車の影に隠れていた。


「おい!貴様はドラゴンを殺したこともある冒険者だと言っていただろう!あいつも殺してくれよ!」


もう自分を偽る必要もなく、リッドに叫んだ。

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