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第三話 義姉さんの味噌汁を毎日飲みたい

「お腹いっぱいになったね。じゃあ、カラオケに行こうか」

 レストランを出た後、木乃香姉さんとカラオケボックスに向かう。

 姉さんとカラオケに行くなんて、初めてなので何か緊張してしまうな。


「あ、ここ新しく出来たんだよね。行こうか」

「うん」

 近くに出来たカラオケボックスに二人で入り、部屋に案内される。


(木乃香姉さんと二人きり……いや、いつも家では二人きりか)

 密室で二人きりという状況に緊張してしまったが、いつも家で二人なので、今更過ぎるか。

「何を歌おうかなー……あ、ドリンクはどうする?」

「ウーロン茶で」

「わかった。ウーロン茶お願いします」


 ドリンクを頼んだ後、木乃香姉さんが好きなアイドルの歌を入力し歌い始める。

 姉さんが歌う所は初めて見た気がするが、結構上手だなあ。

 プロレベルって程でもないが、素人にしては、声も綺麗でテンポの良い歌声で、思わず聞きほれてしまいそうだ。


「ほら、ハル君も歌いなよ」

「ああ。歌はちょっと苦手なんだけどね」

「何それ? ハル君がカラオケに行きたいって言ったんじゃない」

「はは、そうだったっけ」


 俺から誘っておきながら、歌わないのも変なので、適当に有名なJ-popを入力して歌っていく。

 木乃香姉さんの前だからあんまり恥を掻きたくはないんだけど、お世辞にも上手いとは言えない俺の歌を彼女は嬉しそうに眺めていた。


「パチパチパチ。へへ、上手じゃない」

「そうかな? 木乃香姉さんの方がうまいじゃん」

「私、そんな上手じゃないよ。音楽の成績も良い方じゃなかったし」


 どうだか。

 昔から音楽の成績はかなり良かったと思ったけどな、

「ハル君、カラオケとか好きじゃないの?」

「友達とたまに行くくらいだよ」

「私も。一回だけ、一人で行ったこともあるけど、ひとりカラオケも意外に楽しいよ」


 いわゆる『ひとカラ』って奴らしいが、一人で入る勇気は今のところはないかな。

「彼女とカラオケ行ったりはしないの?」

「行かないよ。悪い?」

「悪くないけど、私なんかより、彼女と行った方が良いんじゃないかなって思って」

「そんな事はない! 木乃香姉さんと一緒に行きたかったんだ」

「え?」


 はっ! ヤバイ、つい本音を言っちまった……。

(どうする?)


 今のは実質告白みたいなものだと思うが、このまま思い切って、好きですとか……。

 でもカラオケでわざわざ言う事じゃないかも。

 二人きりなら、家に居る時、いつでも告白できるんだし……、

「へえ、お姉ちゃんと一緒に行きたかったんだ」

「た、たまには良いじゃん」

「えへへ、そうだよね。うん、ハル君と一緒に行けて、私も嬉しいよ」


 と、眩しいくらいのはにかんだ笑みで木乃香姉さんはそう言ってくれ、その笑顔を見てドキっとしてしまう。

 ああ、やっぱり可愛いなあ……俺は、この人の事が好きなんだよ。

 絶対に誰にも渡したくは……。


「ねえ、二人で何か歌わない?」

「え? あ、ああ……」

 木乃香姉さんの笑顔に見とれている最中、姉さんがタブレットを持ちながら、俺の隣に座り、デュエットの一覧を見せる。


「デュエットはちょっと恥ずかしいかな」

「別にデュエットじゃなくても、何か二人で歌おうよ」

「ああ……じゃあ、適当に俺が好きそうなの入れて」

「何よ、それ。投げやりだなあ」


 木乃香姉さんの体が密着しており、思わずドキドキしてしまって、彼女の顔もまともに見れずにいた。

 甘い香水の匂いも、仄かの漂っており、余計に顔が意識をしてしまって、理性を抑えるのがやっとの状況になってしまったのだ。


「あのさ、木乃香姉さん」

「何?」

「え、えっと……その、また二人で遊びに行ったりしない?」

「え? どうしたの急に?」

「あー、その……はは、最近、バイトで忙しくて、あんまり遊びに行けなくてさ。木乃香姉さんと二人で遊びに行って、気晴らししたいなーって思って」


 告白しようとしたが、流石に躊躇してしまい、思わずそう口にしてしまう。

 トホホ……やっぱり、ハードルが高いよ。

 もし、告白何かしたら、気まずい関係になっちゃいそうだし、そうなったら、家にも居辛くなっちゃうからな。


「もちろん、良いけど、私なんかと一緒で楽しい?」

「楽しいよ。木乃香姉さんと一緒が一番楽しいって、うん」

「くす、そうなんだ。ありがとう。明日は、ちょっとモデルの仕事入ってるけど、来週の土日は空いているから、そこでまたデートしようか」

「お、おう」


 デート何て言葉を俺よりも気軽に言えてしまうあたり、やっぱり木乃香姉さんは俺の事を弟以上の目では見ていないという事なんだろう。

 今はそれでも構わないけど、ずっとこのままってのは流石に嫌だ。


「じゃあ、これ一緒に歌おうか。もうすぐ時間だけど、延長はする?」

「いや、いい」

「そっか。じゃあ、入力するね」


 木乃香姉さんと一緒にデュエットを歌い、姉さんとの初めてのカラオケデートは終了する。

 結局、何もないまま終わってしまったが、俺も本当に憶病だよなあ……。


「んーー、遊んだね。あ、卵あるから、気を付けてね」

「ああ」

 カラオケ店を出た後、二人で夕飯の買い出しに行き、スーパーで買った食材を冷蔵庫に入れていく。


「今日は私が夕飯作るから、楽しみにしててね」

「はは、めっちゃ楽しみだよ」

「うん。焼き魚だけど、ハル君、鮭のホイル焼きとか好きだったよね?」

 いつもは俺が作るのだが、今日は珍しく木乃香姉さんが夕飯を作る事になり、ちょっと楽しみだ。


「ふーん、ふん♪」

 エプロンに身を包み、台所で鼻歌を歌いながら、木乃香姉さんは夕飯を作っていく。

 こんな様子はまるで新婚さんみたいだが、俺と木乃香姉さんって、実質夫婦みたいなものなんじゃないだろうか。

 いや、流石に気持ち悪すぎるか……でも、いずれはそうなりたい。


「えへへ、どう私の料理は?」

「美味しいよ」

 夕飯になり、木乃香姉さんの作った料理を食べていくが、やっぱり俺より全然美味しい。

 少し前までは姉さんがずっと作っていたんだもんな。

 仕事で忙しいから、最近は俺が代わりにやっているけど、出来れば彼女の料理を俺は食べていきたい。


「あのさ、木乃香姉さん」

「どうしたの?」

「その……えっとさ。木乃香姉さんの作った料理、これからも食べたいなーって思って」

「へ?」

「い、いや、だから……姉さんの料理、美味しいから、ずっと食べてみたいって思ってさ。仕事で忙しいのはわかるけど、俺より上手だから。木乃香姉さんの味噌汁毎日飲みたいって奴」

「くす、何それ? 良いよ。毎日は厳しいけど、出来るだけ作ってあげるから」


 遠回しのプロポーズのつもりだったが、木乃香姉さんは快諾してくれ、一先ず胸を撫でおろす。

 彼女の手料理は俺だけが食べられる物だと言い聞かせ、今日も一日が平和に終わっていったのであった。



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