第十七話 そして、最悪の結果に
「ふん、ふーん♪ きゃっ! な、何よ、もう」
「へへ……」
木乃香姉さんが機嫌良く鼻歌を口ずさみながら、掃除の支度をしている最中、また後ろから胸を揉んでやる。
こんなのはもう日常茶飯事で、木乃香姉さんの体は俺が好き放題しまくっており、もはや王様にでもなった気分になっていた。
何せこんな美人のお姉さんを好きに出来るんだからな。
内心、嫌がっていようがどうしようがもう何とも思わない。
彼女は俺の物なんだ。そう決めた以上、悩みなんかない。
「ねえ、おっぱい見せてよ」
「は、はあ? 嫌に決まっているでしょう」
「何でだよ。もう何度も……」
「それとこれとは別! 今は、掃除やっているんだから、邪魔をしないで」
と、抵抗する木乃香姉さんに執拗に後ろから胸をもんでいき、ついでにお尻や太腿も撫でる。
というか、こんな太腿を露にしたホットパンツを履いておいて、しかも上半身は露出も多いタンクトップ。
誘っているとしか思えないんだけどなー。
「最近、裸で寝てないの何で?」
「く、クーラーをかけたら、冷えるからよ。あんなの滅多にやらないって言ったでしょう」
「これからは寝るときは全裸にしてよ。俺も、その方が犯しやすいし」
「そういうのがあるから、止めたの! ほら、邪魔しないで……きゃっ!」
俺のワガママもあまり聞いてくれないので、ちょっとムッと来てしまい、木乃香姉さんをその場で押し倒す。
へへ、もうすぐ夏休みだからな……これから、どんどん楽しませてもらうぜ。
「ちょっと、止め……」
昼間っから、お盛んだな、俺は……まあ、良いよね。
木乃香姉さんだって、本気では嫌がっていないんだろうし、俺の事、好きだから受け入れているんだろう。
「おはよー……あれ、木乃香姉さん、まだ仕事行ってないの?」
夏休みに入り、ちょっと遅くまで寝ていた所、いつも仕事に行っている時間なのに、何故かまだ家に居た。
「ちょっと医者に行ってくるから。会社は有給使ったから、平気」
「え? どっか具合悪いの?」
「まあね。大したことないと思うけど、念のため。じゃあ、行ってくるから」
「あ、ああ」
何だかすごく気になったが、木乃香姉さんはそそくさと支度をして、俺を置いて医者に行ってしまった。
体調が悪いのか……と言っても、別に顔色も悪くはないし、見た限り、悪そうなところもないけど、心配だなあ。
普段、滅多に風邪もひかない位、丈夫な木乃香姉さんなので心配にはなったが、大したことはないように祈るしかなかった。
「うーん、暇だな」
木乃香姉さんが居ないと、やる事なくて暇だ。
外に出ても暑いしなあ……てか、バイト探さないといけないんだけど、結局、何も決まらないまま夏休みに入ってしまった。
ま、木乃香姉さんも夏休みはあるんだし、その間、思いっきり楽しませてもらおうと。
「ただいま」
「あ、おかえり。遅かったじゃん」
昼過ぎになって、木乃香姉さんがようやく家に帰ってきたので、出迎える。
「どうだった?」
「うん。ちょっと、来て」
「え? うん」
容態はどうだったと聞こうとすると、木乃香姉さんは俺の腕を引いて居間に連れて行った。
何だろう? 深刻な顔をしているけど、変な病気だったのか?
「な、何?」
「一ヶ月」
「はい?」
急に真顔でそう告げられたので、何のことかと首を傾げると、
「やっぱり出来ていた。一ヶ月だって。妊娠。ハル君の子供」
「…………」
突然の宣告を受けて、頭が真っ白になってしまう。
な、何が出来たって?
「えっと……マジ?」
「うん。ハル君以外の人と、そういう事してないしね。ハル君もさ、もう子供じゃないんだから、わかるよね? あんな事したら、こうなるかもって」
と、冷めた口調で木乃香姉さんは俺にそう言い、俺も全く理解が追い付かず、言葉も出なくなる。
「ハル君が決めて」
「は、はい?」
「私って、ハル君の物なんだよね? だったら、あなたの言う事に全面的に従うから、産むか堕ろすか、決めてよ」
「…………」
頭が真っ白になってしまった俺に追い打ちをかけるように、木乃香姉さんは淡々とした口調で俺に更に迫ってくる。
お、俺が決めるのか? いや、本当なら、その……喜ぶべきなんだけど、俺はまだ……。
「は、はは……冗談……」
「こんな冗談言わないし。はい、これさっき行った病院の診察カード。産婦人科行ったんだ」
冗談でしょうと思う間も与えないとばかりに、木乃香姉さんは産婦人科の診察券を俺に差し出す。
「こ、木乃香姉さんは……どうしたいの?」
「私はハル君の言う事に従うって言ってるでしょう。産むか産まないかはあなたに一任するから。私の希望を言うと、ハル君も中絶しろって言いにくいでしょ」
あくまでも俺に決めろと迫り、木乃香姉さんは着替え始める。
いつも優しい木乃香姉さんからは考えられないような、冷たく突き放すような口調で告げるが、俺は今だに放心状態のままだった。
「出来る限り早く決めてよね。中絶できる期間って、妊娠二十一週までなんだって。だから、あと……四か月くらいかな。それまでに決めてくれないと、中絶できなくなるから、そのつもりで」
「あ、あの……」
「何?」
「お……怒っている?」
木乃香姉さんの腕を掴んで、そう訊くと、木乃香姉さんは呆れたような溜息を付き、
「怒っている訳ないでしょう。でも、私はハル君の物だしね。こうなったのは運命だと思って受け入れるし、産むか産まないかもハル君が全部決めて良いから。そうだよね? 俺の物なんでしょ、私は? だったら、責任持たなきゃ」
と、機械的に言う木乃香姉さんの言葉を聞いて、俺はその場に崩れ落ちる。
いや、こうなる事は俺だって予想できない筈ではなかった。
だけど、抵抗しない上に、怒りもしなかったのをいいことに、木乃香姉さんに好き放題やって、その結果が……これだ。
(お、俺が調子に乗ったせいで……)
彼女が俺の物になったのだと浮かれていた矢先に、まるで地獄に突き落とされた気分になってしまい、しばらく家から出ることも出来なくなってしまった。




