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第一話 今にもくっつきそうな危うい関係

「ただいまー」

「お帰り。夕飯の準備出来ているから」

「ありがとー。きゃー、今日はチキンのソテー? よく出来たわね」

「コンビニで買った総菜だよ。美味しいから食べてみて」

「うん。じゃあ、着替えるから待っててね」

 夜の九時近くになり、ようやく姉の木乃香が仕事から帰ってきた。


 親が事故死し、高校二年生の俺を働きながら、親代わりに育ててくれてる木乃香姉さんには全く頭が上がらない。

 一応、俺もバイトをして、家計を少しでも助けているが、木乃香姉さんは俺を大学にやりたいらしく、副業までやって働いているのであった。


「あー、さっぱりした。明日は、休みだから、ちょっとゆっくり出来るし、ちょっとテレビでも見ようっと」

 お風呂から出た後、木乃香姉さんはホットパンツとタンクトップというラフな格好で居間で、ドラマを見る。


 肩くらいまでの長さのボブヘアーに猫目で快活そうな美しい顔立ちに、手入れの行き届いた白い肌。

 俺より七つ上の二十四歳で胸もかなり大きくてスタイルもかなり良い。

 副業でモデルまでやっているだけあって、控えめに言っても美人だとは思う。

 しかし、このことは絶対に言えない。木乃香姉さんの事が好きなんてさ。


「ハルくん、もうすぐ中間テストだよね?ちゃんと勉強している?」

「してるよ」

「本当? 最近、バイトやり過ぎで、勉強おろそかにしているんじゃないかって心配になってさあ」

「バイトはさー……」


 言おうか悩んでいたが、実はバイト先のコンビニが来月閉店する事になってしまい、職を失うことになってしまったのだ。


「えー、お店つぶれちゃうんだ。急だね」

「仕方ないよ。まあ、すぐに新しいバイト先探すから……」

「少しはゆっくりしなさいよ。別に生活に困っている訳じゃないんだから」

「両親居ないのに、そんな事はないだろ」

「お姉ちゃん、意外に稼いでいるんだから心配しないの。それに、親の遺産や保険金もあるんだから、心配いらないし」


 そうは言っても、俺が大学に行くとなれば、お金は更にかかってしまう訳で、俺も家計の足しになるような事はしたい。

 自分も大学に行ったからって、別に気を遣う必要もないのになあ。


「ハルくんはもっとやりたいことをやれば良いと思うよ。高校生らしくもっと遊んだり、彼女作ったりすれば」

「か、彼女とか別にいらないし」

「本当?」

「今はそんな事は考えられないの」


 だって、木乃香姉さんの事が気になっているんだから仕方ない。

 姉に対してこんな感情を抱くのは間違っていると思うが、俺は知っているのだ。


 木乃香姉さんが母親の連れ子で、血が繋がってはいない事を――


 両親は木乃香姉さんが二歳の頃に結婚をし、その後、俺を産んだのだが、母は未婚で木乃香姉さんを産んだらしく父親が誰かもわかっていないそうだ。

 その事をずっと知らなかったのだが、二年前に両親が事故で亡くなった際に、偶然にも親戚が話しているのを聞いてしまったのだ。


 最初は嘘だろと思ってショックだったが、その話を聞いて、今まで封印していた木乃香姉さんへの気持ちが爆発してしまった。


 木乃香姉さんを彼女にしても良いんじゃないかと――


 最初ははやまるなと思ったが、どうしてもそんな気持ちが抑えきれずに、いつ告白しようか悩んでいた。

「木乃香姉さんの方こそ、どうなの? 彼氏とかそろそろ作らないの?」

「私は、ハル君がちゃんといい大学に行って、良い所に就職するまで頑張らないと」

「それじゃ、婚期逃すぞ」

「いいの。今は晩婚の時代なんだし」


 彼氏はいないのかとしつこいくらい聞いているし、木乃香姉さんの周辺もちょっと調べているが、男が出来ている気配は全くない。

 こんな状態じゃ諦めきれないし、何より男が出来ようものなら、何をするか自分でもわからん。


「あー、暑いなあ、今日も。まだ五月だよね」

 タンクトップの胸元を引っ張って、体を仰ぐが、彼女の大きな胸が見えそうになってしまい、思わず顔をそむける。


(ああ、もう可愛いなあ……今すぐにでも俺の彼女に……)

 したいよ本当に。

 これ押し倒しても文句なくない?


「ん? どうしたの?」

「いや……その、暑いなら麦茶でも飲む?」

「飲む―」

 気を紛らわせるために、冷蔵庫から冷えた麦茶を持ってきて、木乃香姉さんに渡し、一緒に麦茶を飲み干す。

 これでクールダウンできたかな、


「ぷはあ……やっぱり、体冷えるなあ。じゃあ、そろそろ……きゃあっ!」

「うわあっ! な、何?」

 コップの麦茶を飲み干した所で、急に俺の体に悲鳴を上げて抱き付いてきた。


「ご、ゴキブリがそこに……」

「え? ああ、これゴキブリじゃないよ。この前買った、小銭袋じゃん」

「へ……ああ、そうだったっけ。ビックリしたあ」

 何かと思ったら、畳に放置されていた黒の小銭袋をゴキブリと見間違えたらしい。


 つか、見間違えるかな、ゴキブリと……。

「ごめん。えへへ、疲れているのかなー、はは」

「はあ……もう、寝たら……」

「うん……」

 と肩を抱いてそっと木乃香姉さんを引き離し、しばらく彼女と見つめ合う。


 改めてみると、木乃香姉さん凄くキレイだ。

 見ているだけでドキドキしてしまうし、このまま本当に……。

「きゃっ! な、何?」

「え……あ、あの……」

 思わずその場に押し倒してしまい、馬乗りになって、木乃香姉さんを見下ろしてしまう。


 木乃香姉さんの頬を紅潮させて潤んだ瞳――

 これ、このまま言ってしまっても……。


「あの、俺……」

「えっと……」

「な、何?」

「は、ハル君の手がおっぱいに……」

「え? うわあっ! ご、ごめん!」

 何かやけに、右手に柔らかい物が触れているなと思ったら、木乃香姉さんの胸に思いっきり触れていたので、慌てて離す。


(な、何やっているんだよ、俺は……)

「あの、もう寝るけど、良い?」

「うん……」

 気まずい空気に耐え切れなくなったのか、木乃香姉さんも隣の寝室に向かい、俺はその場でしばらくしょげてしまう。

 トホホ……何で、こんな失敗を……


(さ、さっきはビックリしたあ……でも、ハル君、もしかして……)

 ベッドにくるまり、先ほどの事を思い出すと、ドキドキが止まらない。

 ハル君――晴仁はるひとは、私の弟だけど、血は繋がっていない。

 このことは多分、彼は知らない。だけど、血が繋がっていないから、大きくなるにつれて、どんどんハル君の事を……。


「うう、ダメダメ。はやまるな」

 布団にくるまりながら、必死にそう言い聞かせる。

 こんな気持ちは絶対にいけないし、伝えたら、絶対にハル君に嫌われる。

 でも、もし義理の姉弟だって知ったら、ハル君とは……付き合っても……

「よ、良くない」


 こんな私を好きな訳はないと言い聞かせ、必死にさっきの事は忘れようとしたのであった。



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