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ドリームブレーカーとヤギどらごん  作者: ヤギどらごん応援隊員
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67話 ナガレシマヨウコとヤギどらごん

よろしくお願いいたします。

49話を事前に読むことを推奨します。

 


 私の手は使いものにならない。


 侵入者を拒む踏切のバーに密着するように立ち、右腕を線路へ伸ばす。電車が通過まであと20秒くらいであろうか。警戒音が近く鼓膜を振動させる。この腕とともに亡くなりたい。いや、この腕から死んでほしい。電車の動線上に私の右腕は伸びる。


深呼吸したのちに目を瞑る。電車の音より心臓が幾分五月蝿い。

あと何秒で楽になれるか。


体に大きな衝撃を感じると同時に、私の息は止まった。



☆☆☆

「先生、何してるんですか? いきなり人を突き飛ばしちゃダメですよ。ほら、目を覚まさないうちにズラかりましょう」

「……」

「先生が外に行きたそうにしてるから特別に出たんですよ。トラブルなんてごめんですよ」

「……」

「行くぞヤギどらごん先生ェー、逃げるぞ、私はまだ捕まりたくないんじゃー」


騒ぎ過ぎたか、女性の目が開いた。

やばい。拳を握れ。

「チョッピングライトォォォー」

私の振り下ろしの右が、目を覚ました女性の顎を狙いすまして進む。


しかし被弾しなかった。

女性が咄嗟に出した右手のガードに阻まれてしまった。


「……」

「……」

「…いいガードでしたね。じゃないや、あの、大丈夫ですか、急にこんなところで寝て心配したんですよ?」


あ、泣き出した。大人の女性がわんわん泣いている。しばらく泣き止みそうにもない。

騒ぎにならないよう私とヤギどらごん先生で泣き出した女性を近くの公園まで運んだ。

まったく起きてるなら自分で歩いてほしいものだ。


 公園のベンチに高校生、妖精、大人が並んで座っている。不思議なものだ。こんなことが起こるとは想定してなかった。


 日曜日のAM 7:18

女性の身の上話を聞く流れ。

女性は名前をナガレシマヨウコといい、若手代表の有名な画家らしい。描く作品が評価され続け、取引金額が上り続けていた時に、急に絵が描けなくなった。ペンを握る、描こうとすると指が攣る。我慢して描こうとすると、手の甲が攣る。腕の筋肉が攣る。背中や首の筋肉まで攣ることまでがわかったとき、描くことを諦めた。原因が身体上にしろ精神上にあるにしろ、自分はその道で食べていくことが向いてないことがわかった。それで腕をなくし死のうとしたわけだと。


虚ろな目をする大人に、私の素晴らしい計画を特別に教えてやった。

突如手にした気味の悪い鉛筆。これをヤギどらごんに渡したらなんと絵を描くことがわかった。それから先生と呼んで絵を描いてもらってる。

これはすごいことだ。ヤギどらごんの絵なんてこの世のどこにも出回ってない。億万長者になれる可能性を私は手にしたのだ。


しかし私は焦らない。

あくまで「妖精の描いた絵」として物物交換の掲示板にあげている。ヤギどらごんで商売しようとして地獄に落ちた人間を嫌というほど私達は配信番組で知っている。

あくまで交換から。どこまで自分に利益をもたらす事ができるかたった今も実践中なのだ。




 今度掲示板にあげる予定の作品1枚を特別にナガレシマに渡す。

ナガレシマはまじまじと紙に目を落とす。私は囁く。

「その紙やぶいちゃえ」

「えっ」

「やぶいちゃえ」

「ヤギどらごんの絵にそんなことしたらヤギどらごん怒るんじゃ」

「妖精はそんなこと考えてないよ。アイスをねだられるくらい」

「……」

二人の間のヤギどらごんはぬいぐるみのようにベンチの上に佇んでいるだけ。


ビリッという音とともに薄くて質の低い紙は引き裂かれた。





少女はニヤリと笑った。

「ではあなたにはこの鉛筆でヤギどらごんと私を描いてもらいます」







☆☆☆


 コウチサリナの部屋に飾られた作品。

それはナガレシマヨウコが後世に残した3万点の作品の中で本人が認めた唯一のマスターピースであった。



ありがとうございました。

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