52話 テラカワシュンとヤギどらごん
よろしくお願いします。
4限の世界史教師のタカダ女史は機嫌が悪かった。1-F教室に入った時から纏うただ成らぬ雰囲気を察した人もいただろう。始業の号令後、タカダ女史は教室を一瞥し、手に持っていたテキストを教卓に叩きつけ鈍い音が教室に響く。
「期末試験前なのに、このクラスは忘れ物が多すぎる。今から全員チェックするわよ」その一言から1-F生徒たちは自分の持ち物を確認しタカダの指示に従う。
①教科書 ②資料集 ③演習ノート ④課題プリント
以上のものを忘れた数によってジャスチャーをすることになった。
(1つ忘れ)片手を挙手
(2つ忘れ)両手を挙手
(3つ忘れ)椅子の上に立つ
(4つ忘れ)机の上に立つ
クラス全員が周りを見て忘れ物の多さを理解する。1つも忘れ物がない人は定期考査や模試の順位のそのまま上位陣だった。逆にそれ以外の人は何かしら忘れているという状況。進学実績のいい高校においてこんなことは許されないことなのだろう。
椅子の上に立っているのは男子しかいなかった。勿論僕も椅子の上に立っている。選ばれし6人の男子のうちの1人。実はちょっぴり恥ずかしい。
1-Fの頂点、すなわち机に立つのは1人の男。
おもしろく、その人気に加え、顔もなかなか良いテラカワシュン。
険しい表情の二枚目の顔から「カァーッ」と声が小さく漏れている。
テラカワは厳密には机の上に立ってはいなかった。机の上に膝立ちの状態。両手にはヤギどらごんぬいぐるみを抱えている。世界史の持ち物はすべて忘れているくせに、格好がおもしろすぎる。
机の上が思うより高くて怖いのか、その膝立ちで震えている様子にクラス全員が笑いを堪らえるのに必死だった。
「テラカワくん、平常点が低いから定期テストは80点とらないと単位落としてしまうから気をつけなさい」
タカダ女史も表情にほんの少し笑みを浮かべながら伝える。テストの目標点数は脅しの意味しかないのは明白だったのに、テラカワの顔が青ざめていくからさらにおもしろい。
蒼白の顔からの「がんばります」の一言で締め括られ、いつもの授業が始まった。
なんだかんだ凄いのはテラカワシュンは期末テストで世界史94点をとるから本当におもしろい。テラカワが必死に勉強するから周りも合わせて勉強する。
世界史の期末テスト平均点数は1-Fが断トツトップ。自分でさえも81点取れたから驚きだったんだ。
そしてヤギどらごんぬいぐるみ2体を鞄につけるのが1-Fで大流行した。
ありがとうございました。




