閑話休題 愛の話
よろしくお願いします。
彼女のつくる料理はとても美味しい。
皆に食べてもらいたいくらいなのだが、僕の食い意地がそれを許さなかった。
食い意地が張ってるというのは建前で、
本音を食い意地以外で表現するのが何だか照れ臭かったのだ。
料理も彼女も独り占めしたい、なんてことを僕は言い出せないでいた。
ある日、
僕は彼女に尋ねたことがある。
「手軽な料理を教えてほしい」と。
彼女は驚くように目を大きく開いて僕を見た。
その後、彼女は一つレシピをそらんじた。
彼女曰く母親直伝の味らしい。
初めて聞く香辛料なのか食材なのか、
それに聞き慣れない調理法がまるで頭に入ってこなかった。
「簡単でしょう。これが美味しさの秘訣なの」
彼女は笑顔で締めくくる。
「もっと手軽なのをお願い」と僕が言うと
「この料理をつくるのはあなたが物語を三行書くよりも簡単なことだわ」
と彼女が言い返してきた。
「たった三行なんて物書きでなくとも誰でも一瞬で書き終わる」
と僕が言い返せば
「あなたにトマトソースが作れるの?」
なんて言い返される。
いくらかやり取りがあって、僕の腹から空腹を知らせる音が鳴った。
二人は顔を見合わせて一時休戦とした。
その日初めて
二人は一緒にキッチンに立った。
母親直伝の味を二人で作ることにしたのだ。
僕はその日までまったく知らなかった。
僕が考えているよりも彼女はずっと料理が上手であり、
僕が考えているよりも彼女はずっと口下手で、
僕はそんな彼女がたまらなく大好きだということ。
昼食を済ませた後に僕が言う
平凡でありきたりな愛の告白。
「僕と結婚してください]
顔を見合わせ笑い合う。
三行書くよりも簡単で
トマトソースをつくるよりも難しい。
これは僕達夫婦の馴れ初めの話。
ありがとうございました。
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紅~ギロチン~を読んだ時に、浮かんだお話です。