40話 ハシバシカケルとヤギどらごん
よろしくお願いします
男はアパートの自室で、酔いが残る意識の中、後悔していた。
捨てるべきであった。怪しいものを行うべきではなかった。
外ではチャイムが鳴らされ、一定の間隔でドアがノックされている。ドアの前にいるだろう人間は何も言わない。男は消灯している部屋で息を潜める。耳に入るのはチャイムとノック音のみ。言いようのない恐怖に包まれる感覚。それがもう15分続いていた。
男はドアの前にいる人間を招いてはいけないと本能的に第六感的に理解していた。手元のスマホは2:38を表示している。
男は後悔しながら思い返す。
原因は6時間ほど前に遡る。
会社の同僚と酒を飲んだ後の1人の帰り道、男はふと目についた2,000円自動販売機を1口購入した。当たりには最新ゲーム機が入っているという運試しのクジのようなもの。酔った勢いで購入したそのカプセルの中身は、人気漫画作品のポケットティッシュ1個と【㊙ヤギどらごんの呼び方】と油性ペンで書かれ丸められた怪しいジップロック。それは一目でわかるハズレだった。
帰宅したアパートの自室でジップロックを開けて中を見る。中には説明書と小さな包みが1つ。くしゃくしゃの手書きの説明書には以下のように綴られていた。
①包まれたものは絶対に開けてはいけない
②ヤギどらごんを呼ぶという方のみ次の手順に進む。呼ばないという方は必ず2日以内にコンビニ設置のゴミ箱に本説明書を含め全て捨てること
③包まれたものを空のペットボトルに入れる。その後、ペットボトルを水で満たして蓋をする。
④ ③で用意したものを玄関に置く
⑤迎えが来るので招くこと
ヤギどらごんに特に思い入れなく、怪しいとは思いながらも、男は手順通り実行して眠りにつく。そして現在にいたる。
チャイムとノック音は相変わらず鳴り続いている。
酔いが少しばかり覚め、冷静さをいくらか取り戻した男はスマホを手に握り110番通報することを考えた。
「「「……通報するな」」」
☆☆☆
結局、通報ではなく、男はヤギどらごん好きの友人に相談の電話をした。深夜にも関わらず対応してくれた友人のおかげで無事解決に進んだ。
ありがとうございました。