21話 ヤハタユウタロウとヤギどらごん
よろしくお願いいたします。
駅前の広い歩道に腰掛け用ベンチが設置されていく。
まるで憩いの場のように、その駅前のベンチは日ごとに数が増えていった。
「見てよ。また増えたね」
「教室みたいにたくさん並んじゃうかもね」
「わらえねー。歩きづれーよ」
「高齢者配慮の福祉かぁ」
「どーだろうねぇ」
帰宅途中であろう高校生が話している。翻るスカートは無邪気そのものだった。
誰も座っていなかったベンチの1つにヤハタユウタロウは腰を置くことにした。空は暗くなりつつある午後6時。ここにいる理由はなかったが、ただ座った。あとは立ち上がって社宅まで歩いて帰るだけ。仕事は慣れないまま。ずっと学生のままでいたかった。最近は思考が後向きになっているのを自覚していた。しかし、それを止める手段をヤハタユウタロウは知らなかった。
その日は結局、20分座っただけで帰宅した。
翌日は起床から体調が優れなかった。測った体温が38.8℃だっため、ヤハタユウタロウは急遽、有給休暇を取得して会社を休んだ。
風邪薬を求めて、駅前の薬局へ歩いて行くと、またベンチが増えていることに気づく。昨日より2つベンチが増えていた。
風邪薬の購入後、すぐには帰らず新しく設置されたベンチに座った。昼間の静かな時間。熱に浮かされていても頭は昨日の嫌なことを思い出している。
深く呼吸をしてリラックスを心掛ける。自分が情けなくて視界が滲む。
この誰も座ってないベンチも意味があるのだろうか。
そんなことをふと考えた時、ぼやけた視界に何かが見えた。
妖精が綺麗に並んで、ベンチに座っていた。
このベンチ意味あるじゃん。
拭って鮮明となった視界には、確かに微笑むヤギどらごんがいた。
ほんの少し冷気を纏った風が体を撫でる。
ヤハタユウタロウは立ち上がる。すぐ帰って薬を飲み、そして体を休めることにした。気分的なものだが、いくらか頭は軽くなっていた。
ありがとうございました。