97話 恩人とヤギどらごん
よろしくお願いいたします。
「本当は僕はこんなことしないんだけど」
恩人は言う。
「ちょっと運動がてらに暴力を振りたかったんだ。君はこれで無事に家に帰れるから良かったね」
感謝の言葉を聞いても、涙で顔がぐしゃぐしゃになった男子中学生を見ても、血塗れになった男が動かなくなっても、お喋りな男の表情は笑顔のまま。
「この辺りに美味しい居酒屋があるか知ってる? あ、美味しいお店ならジャンルは何でもいいや」
男は複数のお店の名前をその場で手帳にメモする。
「ありがとね」
その言葉の後に男は続ける。
「この国は僕の生まれ育ったところだし料理も自然も好きなんだけど、もう物騒だよね。君も出た方がいいんじゃない? そのうちこんな変な男に殺されちゃうかもよ」
動かない男を蹴り上げ、返事を待たずに言う。
「この国はこれから国民の不満が生まれていく。争いが生まれる。この国内のテロ需要から始まり、そして戦争を起こす。大きいマーケットさ」
男子中学生は今日身に起こったことに体が疼き、頭の中で恩人の発する言葉を理解できない。
「僕のことは内緒でね。僕は本物じゃないんだ」
そう言うと緑色の手袋を外して笑ったまま彼は去った。
どこから現れたのか青黒く腫れ上がった右腕にヤギどらごんが抱き着いてくれた。もう腕の感覚はないけれど、添え木のようになってくれて、どうしようもない不安だけは取り除かれた。
☆☆☆
翌日から僕の好きなお店が軒並み休業になった。それらは1週間以内に全て閉店してしまった。
僕はニュースを見るようになった。
社会福祉が滞っていくのがわかる。この不満がどこへ向かうのか今はまだわからない。
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ありがとうございました。




