86話 ササツキアコとヤギどらごん
よろしくお願いいたします。
また同じ夢を見てしまった。
いつも通り冷たい風が私の髪を撫でる。
左腕の時計は10 時10 分を指す。
本格的に冷えるので、決まったように、ここらで窓を閉める。
運転席の彼は何も喋らない。
私から表情は見えない。
いつも通り冬の日差しに遮られている。
あと30分すれば、この車は冷たい海に落ちて私達は絶命する。いつも通りの夢。
何回見たのだろうか。
彼と別れて、2年が経過してから見るようになった夢。
もう20回は夢の中で死んでる。
彼に伝えてやりたい。
現実世界で彼が生きてるのか知らないけど。
1人でおっ死〈ち〉ね、ってね。
カーステレオはいつも通り東京bayfm。
いつも同じ道が渋滞だと教えてくれる。
私の表情もいい加減曇る。
口笛の一つでも吹けたらいいのだが、吹きたい気分になるのはこの夢だけ。いつまでも下手くそなまま。
助手席から見える風景はガードレール。死ぬ場所が近づいている。
こう退屈な移動の時間、子どもの頃ってどうしていたっけ。
そんなことを思いつつ、ガードレールが目に流れていく。
いつも通りの風景はどうやら今回は違うらしい。
ガードレールの上に物体を見た。
妖精が車に並走するように走っている。ガードレール同士の隙間はジャンプして進む。まるでサイ○ーグクロちゃんのゲームのよう。
死を待つだけの私の時間に少し楽しみが加わる。
まぁ、走る妖精を見て笑っていたんだと思う。
車は海に飛び込まずに止まる。
彼は車を出ていく。去るときの言葉は「じゃあね」だった。
あぁ、そんな声をしていたんだった。
布団の上で気づいた。
ヤギどらごんぬいぐるみを握って私は寝ていた。
まぁ効果ありかな。
気温は36℃を超えるとニュース番組は伝える。
今日もまだ苦しめってことらしい。
下へスクロールすると、
☆☆☆☆☆をタッチして評価できます。
ブックマーク、評価はより励みになります。
ありがとうございました。




