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第一話 ジャージとお嬢様とのじゃロリとニンジャと侍とクノイチ

アミューズメントは突然に 


第一話 ジャージとお嬢様とのじゃロリとニンジャと侍とクノイチ


登場人物 男3〜4 女2 不問1 上演時間70〜90分程度


マサヤ 男 台詞数126 結構適当にノリだけで生きている不真面目人間。でも意外と気配りは欠かさない。

神 男 台詞数70 ダンジョンとギャンブルが大好きな頼りない神様。最近抜け毛が多くなってきた事を気にしている。

マーク 女 台詞数82 お嬢様口調の美少女騎士。本名はマーク・フォー・デス。言葉遣いは上品だが内容はそうでも無い。

サーチ 女 台詞数58 古風な口調の猫耳幼女。本名はサーチ・アンド・デストロイ。漢らしい仕草をよくする。

影丸 男 台詞数17 兼ね役推奨 青い目のニンジャってカッコいいよね。無茶苦茶良い人。

バジリスク 男 台詞数18 兼ね役推奨 隻眼の侍って浪漫の塊ですよね。元ネタは勿論あの方。

デッド 女 台詞数2 兼ね役推奨 本名デッド・オア・アライブ 物静かなクノイチさん。

リーダー 男 台詞数16 兼ね役推奨 正義感は強いけどオツムの足りないボンボン君。悪いやつでは無い。

ヤーべ 男 台詞数15 兼ね役推奨 出っ歯でヤンスな典型的なアレ。意外と仲間思い。

アイリーン 女 台詞数1 兼ね役推奨 なんの活躍もなく出番が終わりました。リーダーとは幼馴染。

ナレーター 不問 台詞数111 所謂天の声。一応マサヤの心の声の体。


役表

マサヤ(男):

神(男):

マーク(女):

サーチ(女):

影丸(男):

バジリスク(男):

Nナレーター(不問):


兼ね役推奨

リーダー(男):

ヤーべ(男):

アイリーン(女):

デッド(女):

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 神「君はダンジョンというものを知っているだろうか? 

様々な異形のモンスター達がひしめき合い、筆舌に尽くし難い程多種多様なトラップが敷き詰められ、

そしてすべての難関を越え辿り着いた先には抱えきれない程の金銀財宝宝箱の山!! 

これこそが俗に言うダンジョンというものの在り方であろう。

だが多様性を重んじる昨今、そんな旧時代的なやり方だけではやっていけないのだ! 

然らば私が何を考えたかと言えば、そう! アミュ〜ズメント! アミューズメントとしてのダンジョンだ! 

ダンジョンは遊技場であり、職場であり、家であり、そして人生である! 

それが私の考えるアミューズメントなダンジョン! 略してアミュジョン! 

どうかね? 君も私と一緒にアミュジョン作りに精を出してみないかね!?」


N:朝起きたら、知らんおっさんがジャージ姿でなんか熱弁していた。半分聞き流しながら周りを見回してみるも、どうにも見覚えのない場所である。ていうか周りも足元も白い雲がプカプカ浮かんでるだけで、こんな場所に見覚えがある訳が無い。

起き抜けであまり働かない頭を動かす為にも、取り敢えず今一番気になってる事を聞いてみる。


マサヤ「その略称ダサくないっすか?」


神「えぇ!? 一晩寝ずに考えた名前なのに!? というかいの一番に聞くのがそれかい!? もっと色々あるだろう!?」


マサヤ「いやあんまりにもダサかったんで。ていうかアミューズメントとダンジョンって一番縁遠くないですか? 

ダンジョンってこう、よくは知りませんけどもっとなんか泥臭いイメージというか」


神「そう、そこなのだよ! ダンジョンは汚い、きつい、危険の3Kのイメージがどうしても付き纏ってしまっている! 

勿論そういうダンジョンがあるのもいいと思う、寧ろ必要であると私は思う! だがね、だがだよ? 

綺麗で、華美で、稼げる3Kダンジョンがあったって良いじゃないか! 

冒険者は楽しめて、管理者は楽して悠々自適なダンジョンマスターライフ! 二度目の人生、折角ならいい思いをして暮らしたいだろう?」


マサヤ「それってダンジョンでやる必要あります? なんか別にお店として構えれば良いんじゃないですか?」


N:俺が極々当たり前の事を尋ねるとおっさんはチッチッチと指を振りながら肩をすくめる。なんか腹立つなーこのおっさん。


神「フッフッフ、そこが肝なのだよ。

いいかい、普通に人里で商売を始めようとすればショバ代から始まり建設費、人件費、仕入れ費、宣伝費その他諸経費諸々

多額なお金がかかってしまう! 維持費だって馬鹿にならない! それにその日暮らしの冒険者達相手に安定した収入だって望めない! 

で~も~? ダンジョンならその全てが、ダンジョンポイント略してDPによって賄えるのだよ! 

更にだね、普通に商売したんじゃ後から施設を付け足そうにもお金だけでなく場所も必要になってくる! 

しかしダンジョンなら! あ、ぽぽいのポイと言うまに新たな施設も! なんなら二号店、三号店だって造れてしまうんだこれが!」


マサヤ「まぁ、ダンジョンの方が色々都合が良いってのは分かったんですけど、そもそもなんで俺なんです? 

ダンジョンにも娯楽にも特別興味がある訳じゃないんですけど。ていうか今更ですけどここ何処ですか。あと貴方どちら様?」


神「分かってくれたかい同志よ! うんうん、そうだよね疑問は尽きないよね。大丈夫、おじさんが一つ一つ丁寧に教えてあげよう!」


N:そう言っておっさんが語ったのは正に寝耳に水といった内容だった。

まず第一に俺はもう既に死んでいるという事。寝ている間に俺の住んでいるアパートにトラックが突っ込んだらしく、医者の懸命な処置も空しくついさっき、つまり俺がこちらで目を覚ましたと同時に息を引き取ったとの事だ。

そしてここは所謂天国と地獄の狭間。本来ならどっちに行くかの最終審判を下される場所なんだそうだが、特例で神様直々に転生の申し出をされている状況らしい。

そう、このジャージのおっさんこそ俗に言う神様その人だと言うのだ。


マサヤ「へぇ〜あなた神様なんですか。ところでさっきからちょいちょい挟まれてるこの長ったらしい説明なんです?

 なんか俺が喋ってるみたいな体だけど、誰?」


神「それは勿論天の声だよ。アニメで言えばナレーション的な? ほら、小説でもあるだろう地の文だよ。

 きっと上手い説明の処理の仕方が思いつかなかったんだろうね」

 

N:熱心な宗教家の人達がこれが神だと言われても絶対信じたく無いだろうな。だって胡散臭さと加齢臭しかないもんこのおっさん。

あぁ、後俺が選ばれた理由は特にこれと言ってないらしい。強いて言えば日本生まれの軽いオタクだったから、ぐらい。

丁度新しい転生者を探していたからこれ幸いと勧誘をかけることにしたそうだ。


マサヤ「うわ、歯牙にもかけず続けてきたよ。メンタル鋼っすね、この、ひと?」


神「んまぁ、それが仕事だからねぇ。まぁまぁその内慣れるよ」


N:うーん、正直ショックと言えばショックだが特に目的もなくフリーターしてただけの人生だからこれと言って後悔も無いんだよなぁ。それにあんまり善行を積んできた人生とも言えないし、断れば地獄行きかもしれない。

というかこれってあれだろ? 所謂異世界転生。それも絶対俺には不向きな冒険者とかじゃなく、ダンジョンマスターとかいうダンジョンを経営する側。経営シミュレーションゲームとかは結構好きだったからなぁ、それぐらいの軽い感じでやれるんなら全然OKなんだけど。


マサヤ「あ、終わった。そうだ、因みにその転生っていうのはよくあるチートとかっていうのは付いてたりするんですか?」


神「何言ってるんだい! こんなになんでも出来ちゃうダンジョンそのものがチートだろう!」


マサヤ「あーじゃあ当然ハーレムとかそういうのも?」


神「恋愛ぐらい自分の力で頑張りなよ。それもハーレムだなんて、倫理観を疑うよ? 

男なら愛した一人の女性の為に命をかけるのが筋ってもんじゃ無いのかい?」


マサヤ「まぁハーレムは冗談半分ですけど、ほんとにチート無いんですか? 

異世界転生といえばやっぱりチート無双が醍醐味じゃないですか」


神「そっちでの流行りはなんとなくおさえているけど、どうしてそんなに異世界転生とチート無双が流行っているんだろうねぇ? 

コツコツやっていく楽しみもあると思うんだけど。そんなに日本人の若者達ってのは現実に疲れているのかい? 

あぁ、それとやってもらうのはダンジョンマスターだから君がわざわざ出張って戦う必要はないよ。

そういう意味でもチート無双ってのはないね」


マサヤ「若者、なんですかね。まぁ不況ですし国民全体疲れてると言っても過言ではないかもですね。

じゃあ戦う系は必要ないみたいなんでなんか別の系統のチート付けてくれません? 

幾らダンジョンの存在自体がチートだって言われても、それを経営する僕はズブの素人な訳ですし」


神「うーん、それを言われると。折角送り出してもつまらない事ですぐやられちゃったら意味無いしなぁ。

よし、分かった。全く、特別だよ? それじゃあ君には知の恩恵を授けよう」


マサヤ「ありがとうございます。それで、知の恩恵とは具体的にどういう?」


神「いつでもWikipedia見れる能力」


マサヤ「へ?」


神「だから、いついかなる時でも自由自在にWikipediaを見れる能力。あ、もしよければアンサイクロペディアも付けようか?」


N:知は知でも人類の集合知かぁー。それも結構偏り気味の。ないよりゃマシだけどそれでやっていけるのか? でもこんだけゴネて出てくるのがこれな訳だから、これ以上は正直期待できないか......。


マサヤ「あー、と。はい、じゃあそれで。ありがたく頂きます」


神「よしよし、若干顔が不満気なのがなんだか気になるけどこの際気にしない事にするよ! 

それじゃあそろそろ時間も惜しいから、行ってもらおうかな!」


マサヤ「え、世界の説明とかそういうのは」


神「細かい事はあっちで教えてくれる子がいるから! それじゃ、いってらっしゃーい!」


マサヤ「あ、ちょ!」


N:静止の言葉を放つ間もなく、おっさんが手を一振りすると同時にまたも見慣れない風景が眼前に現れた。

岩肌に覆われた、漫画とかでよく見る洞窟といった風情。見回してみるも、光源も何も無いのに何故か不思議と明るい。

突然の状況の変化に戸惑ってしまい暫く呆然としてしまったが、改めて周りを見回すと洞窟の中心に明らかに異様な物体があった。


N:一歩一歩近付きながらそれの様子を探るが、一向に変化は見当たらない。

それは最初に見つけた時同様、変わらずチカチカと赤い光を点滅させている。

洞窟の見た目に全くそぐわない灰色の球体。メタリックな見た目のそれはおよそファンタジー世界とも似つかわない。

いや、本当にここがまだファンタジー世界とは限らないのだが。

手が触れられそうな距離にまで近付いて、漸く変化を一つ見つけられた。


N:球体の蔭に隠れて見えなかったが、球体の隣に人がいたのだ。いや、人形か? それは片足を跪いて、さながら物語の騎士の様な格好でそこに佇んでいた。

よく観察してみようと一歩踏み出した所で、前方から少女と言って差し支えない女性の声がした。


マーク「問いましょう、貴方がわたくしのマスターですの?」


N:いきなり声をかけられて思わず後ずさった。定かではないが、恐らく今の声はあの騎士風の人が出したんじゃないだろうか。だって他に人とかいないし。え、でもなんだろう今の既視感のある台詞。

俺が困惑のあまり立ち竦んでいると、聞こえて無かったと勘違いしたのか少女? 騎士? は同じ言葉を繰り返した。


マーク「問いましょう、貴方がわたくしのマスターですの?」


N:さっきよりも気持ち語気強めに言った後、彼女は下げていた頭を上げた。その頭は重そうな兜に包まれており顔は分からなかったが、しっかりと目が合った気配がした。

俺が何も言えずにいると、小さい溜め息をつき彼女はおもむろに兜を外す。

途端に現れるくすみのない綺麗なブロンドの髪。そして漫画やアニメからそのまま出て来たかのような、正に美少女といった風情の端正な顔。その形の良い口を動かし美少女騎士(仮)は言葉を紡いだ。


マーク「貴方、お耳は付いてまして? それとも喋れないんですの? わたくしが折角キメキメの台詞を言って差し上げたというのに、もう少し良い反応をして然るべきなんじゃありません?」


N:途端に罵声を浴びせられる。え、なに、キメキメの台詞? それはつまり元ネタが分かって言ってるって事? いや確かにそれっぽい格好はしてるけど、なに、コスプレ?


マーク「ちょっと貴方! 

そんなにジロジロと見つめてくるんでしたら言葉も分かっているんでしょう? 

あーでもいーでも言ったら如何? それとナレーションいい加減うるっさいですわ! 無茶苦茶饒舌じゃないですの!」


マサヤ「え、あ、その、はい。すいません、ちょっと理解が追いつかなくて」


マーク「ほーらやっぱり喋れるんじゃないですの! 

それで、貴方だけが突然現れたという事は貴方が新たなマスターということで宜しいんですのね?」


マサヤ「えーと、多分宜しいんじゃないでしょうか。

いきなりダンジョンマスターになれって言われて突然ここに飛ばされて来たもんで、どうにも細かい事は分からないんですけど」


マーク「あぁ、どうりで。全くあのボンクラは、まーた職務放棄してこっちに丸投げしてきたんですのね。

今度会ったら一発シメておきませんと」


N:美少女の口から物騒な言葉が飛び出す。言葉遣いは上品に聞こえるけど、言ってる内容そうでもないなこの娘。


マーク「でしたらわたくしの方から説明を、と思いましたがこの際ですからあの方も交えて話しましょうか。

 後ナレーションの内容わたくしにも聞こえてるんですから、もう少し心の声を抑えた方が宜しくってよ?」


N:そう言うと少女はスッと立ち上がり、球体の前で俺に向かって手招きをする。


マーク「ほら、そんな所に突っ立ってないでこちらへいらして。ねぼすけさんを起こしますわよ」


N:言われるがまま少女の隣に立つ。うわ、なんか良い匂いする。女の子が良い匂いするってホントだったんだ。


マサヤ「あの、天の声は気にしないで下さい。全然そんな事思ってないですから。だからそんなあからさまに距離取らないで。

......それで、俺は何をすれば?」


マーク「それに触れてくださいまし。そうすれば後はあっちが勝手にやりますわ」


マサヤ「えーと、どこに触れば? てか大丈夫なの? すっごいチカチカ光ってるけど」


マーク「そんなに怖がらなくても大丈夫ですわよ。どこでも良いから取り敢えず触って下さいまし」


N:ならばと意を決し、赤く点滅している部分に触ってみる。暫く手を置いてみるが、何も起きない。頭にはてなを浮かべながら少女へ振り返るも、こちらと目が合うとニコリと微笑むだけである。可愛い。なんて思ったのも束の間、突然後方からウィーンガシャンというSF感たっぷりな音がして思わず振り返る。

すると丁度俺が手を当てていた部分が迫り上がってきて、素早く手を引く。そのまま中腰の姿勢で見守っていると迫り上がった部分の奥から何かが現れ、それは徐々に前へ出て来て子供一人が入れそうな程の、これまた球体が俺の前に鎮座した。


マサヤ「これは?」


N:再び振り返り少女に問うと、少女はニッコリと笑いながら答える。


マーク「それが本体ですわ。もう一度触れてみて下さいまし」


N:言われるがままチョン、と手で触れてみる。その途端


サーチ「わらわの柔肌に無断で触れるでないわ! ぶち殺すぞ!」


N:と、後ろの少女よりも幼い声音で罵声を浴びせられる。思わず手を引くと同時に球体の真ん中がパカリと開き、子供位のサイズの何かがバッと飛び出した。


サーチ「マーク! 貴様がおって何故そう易易とわらわに触れさせる様な事になるんじゃ! 与えられた仕事を全うせんか!」


マーク「おほほほ、嫌ですわ。わたくしは自らの職務を全うしたに過ぎません。

それよりもサーチさん、新たなマスターにご挨拶をなされては?」


サーチ「はぁ!? マスターじゃと!? わらわは何の連絡も受けておらんぞ!」


マーク「わたくしだって受けていませんわ。ボンクラのいつもの職務怠慢ですわよ」


サーチ「かぁー! あのオヤジめ! 前も、その前も同じことしたじゃろ! ええ加減にせぇよ!!」


マーク「まぁまぁ、取り敢えずボンクラについては今度会った時しばき回すとして、先ずはそちらで固まってしまっているマスターにご挨拶差し上げましょう?」


N:少女に促され漸くそれはこちらへ向き直った。黒髪ツインテール猫耳着物幼女。一言で表すならそんな風体の無茶苦茶可愛い幼女がそこにいた。ついついガン見していると、チョコチョコと歩いて来て下から覗き込んでくる。


サーチ「なんじゃ目の色を変えて見てきよって。あれか? ロリコンとかいうやつかお主は。じゃがマークよりわらわに興味があるというのは、見る目はちゃんとあるようじゃの」


N:そう言ってフンと鼻を鳴らしながら小さな胸を張る姿は見ていてとても微笑ましい


マーク「まぁ、失礼な。わたくしが微笑む度に相好を崩してらしてよ、そちらのマスターは」


サーチ「なんじゃと? おなごならば何でもええのかお主は! 気に入らんのう、大体名前は何じゃさっさと名乗らんか」


マサヤ「え、あ、定岡誠也です。どうも」


サーチ「サダオカ、マサヤ? なんじゃけったいな名前じゃのう」


マーク「サダオカさん? マサヤさん? どちらがお名前ですの?」


マサヤ「えーっと、マサヤです。マサヤで大丈夫です」


サーチ「マサヤじゃの。よし、しかと覚えたぞ。して神からはどこまで聞いておる?」


マサヤ「えっと、取り敢えず起きたらいきなりなんかダンジョンがどうのアミューズメントがどうのと捲し立てられて、話を聞いてみたら君死んだから転生させてあげるよダンジョンマスターとしてね! とか言われて詳しく聞こうと思ったら、もう時間ないからあっちで教えてもらってねじゃあいってらっしゃーい! みたいな流れだったかと」


サーチ「あんのM字ハゲ! 完全に丸投げではないか! 最低限の説明ぐらいしろと何度言ったらわかるんじゃ! 大体時間ないとかいつも抜かしとるが、あいつがギャンブルばっかりしとるの知っとるからなわらわ達は! 大方あみゅーずめんとだのなんだのもその関係じゃろう!?」


N:幼女の鬼気迫る勢いに思わず首を縦に振る。


マーク「まぁ、それでは今回はギャンブル系のダンジョンですの? 想像もつきませんわね。わたくし出番ありますの?」


マサヤ「一応アミューズメント、あー、娯楽ですね。娯楽を中心にしたダンジョンを作ってくれって言われたんで、ギャンブルだけじゃなくて他のものも含まれてるとは思いますけど、どうなんでしょう」


サーチ「まぁ、そこはお主次第じゃし追々じゃの。それより事情は大体分かった。お主も災難じゃったの。さっきはいきなりキレてすまなんだ」


N:そう言って右手を揃えて顔の前で何度か振る幼女。なんとも男らしい仕草、昭和のオヤジぐらいでしか見たことねーぞその動き。


マサヤ「いえ、それよりあの、色々と教えてもらっても良いですか? ダンジョンマスター? についてとかお二人の事についてとか」


サーチ「おぉ、そうじゃったの。自己紹介が遅れた。わらわの名はサーチ・アンド・デストロイ。ダンジョンコアじゃ、宜しくの」


N:は? サーチ? なんだって?


マーク「わたくしはマーク・フォー・デス。ダンジョンナイトですわ。宜しくお願い致します」


N:そう言って深々と頭を下げられるが、え、なに? マーク? デス? それ名前なの?

俺が困惑しているとそれが顔に出ていたのか幼女が笑いながら喋る。


サーチ「かかか、あまりに良い名で驚いたかのう? まぁお主の世界の感性では聞き慣れんかもしれんのう。じゃがこの名は幾らM字ハゲとはいえ、仮にも神より賜った由緒ある名じゃからの。敬意を持って呼ぶが良いぞ」


N:いや絶対ただただおっさんの趣味でしょ。いつ頃名付けられたのかしんないけど、おっさん極々最近のFPSまでやってんじゃん。意外と趣味合うかもしんない。つうかどっちも名前じゃないだろそれは。見敵必殺に死の刻印? いや知らんけど。てか呼びづれぇー、あだ名じゃ駄目かな。


マサヤ「あのー、僕もあだ名でいいんでお二人の事もあだ名で呼んだりとかは......?」


サーチ「何故そのような必要がある? まぁ長いといえば長いからのう。わらわ達がお互い呼び合っておるように、サーチとマークと呼ぶのを特別に許しても良いぞ?」


マサヤ「あぁ、じゃあまぁはい、取り敢えずはそれで」


N:猫耳幼女はサーチさん、美少女騎士はマークさんか。まぁ、もっと親しくなれば別のあだ名で呼べるようになるかもな。いつ迄もさん付けで敬語で喋るのも正直固っ苦しいしなぁ。


サーチ「お主さっきからちと失礼な事ばかり考えすぎではないか? 誰が猫耳幼女のおっさんじゃ」


マサヤ「いや、天の声は僕の意志じゃないんで。全く、これっぽっちも言われてる様な事は考えてないです。話を戻しますね、ダンジョンマスターについてと、お二人がそれぞれ名前の後に言ってたダンジョンなんちゃらっていうのは一体?」


サーチ「そこまできっぱり言われるといっそ清々しいのう......。まぁよい、コホン。ダンジョンマスターとは読んで字の如くダンジョンの主のことじゃ。DPの管理、部屋の設営、調度品の用意、モンスターの召喚、トラップの配置、ご近所付き合いなどその仕事は多岐に渡る。ま、殆どはリストから選んで選択するだけで済むでの、そこまで気負わんで良い。

そしてわらわはダンジョンコア。このダンジョンの核でありいわば心臓じゃの。故にわらわに何かあればこのダンジョンは崩壊する。当然その主であるお主諸共な」


N:え? 俺死ぬの? 悠々自適なお気楽生活とか言ってなかったあのおっさん? もしかして騙された?


マーク「そしてわたくしがダンジョンナイト。コアの守護を司った騎士ですわ。基本的にあって欲しくはないですが、もしもこのマスタールームに賊が立ち入った際には、わたくしが全力を以って斬り伏せさせて頂きます」


N:そう言ってトントンと、自らの腰に下げられた剣の柄を叩くマークさん。大分物騒じゃん。じゃあつまりはここまで辿り着かれてマークさんがやられれば俺達おしまいって事か。話が違くない?


サーチ「まぁそう心配するな。ここは土地的にもそこまで冒険者達が強くないでの。余程の事が無い限りここまで辿り着かれるような事はない。来てもマークがおるしの。それに最悪マークがやられてもわらわも多少は武の心得がある、そうそうやられはせんて」


マサヤ「取り敢えずいのちだいじにって事は分かりました。それでダンジョンを作るっていうのは具体的にどうしていけば?」


サーチ「そうじゃの、全部説明してもいいがいい加減面倒臭くなってきたしの、そこら辺の情報はもう直接インストールしてしまうか」


N:言い終わると球体の前に立ち球体をポンポン叩くサーチさん。すると半透明のホログラムみたいなのが現れ、よく見るとそれは多量の文字が書かれた何かのリストとキーボードの様な物が表示されていた。

それをサーチさんがポチポチと操作していくと、球体の上部が開きそこから一本のアームが現れた。

するとサーチさんはこちらを振り向き手招きする。


サーチ「ほれ、こっちへ来い。ここに立つんじゃ」


N:そう言って地面を指差すサーチさん。おっかなびっくりそちらへ向かい指定の場所に立つと、サーチさんが再びポチポチと何か操作する。途端にアームが動き出し俺の方へ向かって来て慌てて避けようとするも。


サーチ「動くな!」


N:と、サーチさんに一喝されてしまい思わず動きを止めてしまう。その隙にアームは俺の頭をガッツリと掴み、脳天に針のようなモノが刺さった瞬間俺は気を失ってしまった。

 

N:目が覚めると俺は変わらず球体の前に立ったまま、頭を掴んでいたアームはどこにも無くなっていた。

二人の笑う声が聞こえたので後ろを振り返ると、何処から取り出したのか木の椅子に腰掛けた二人の間には机が置かれ、その上には湯気の立ったティーカップが置かれていた。

おいおい、俺にあんだけ怖い思いさせておいてお前らは優雅にティータイムかよ。良い御身分だな。


N:取り敢えず二人の事は放っておいて球体へ振り向き操作する。するとサーチさんの時同様ホログラムが現れたので、取り敢えず寝床とマスタールームの補強の為、新たな部屋と調度品を用意する。

部屋の購入をすると、ガコンという音と共に俺達を囲んでいた洞窟の一部分に穴が開いた。

その音を聞きつけたのか椅子に座ったままの二人から声がかかる。


サーチ「おぉ、起きたか。無事インストールは済んだようじゃの。なにか解らぬ事はあるか?」


マサヤ「いや、取り敢えずダンマスとしての仕事と設備の使い方は分かったんで二人はそのままお茶してて下さい。

寝床はこっちで整えとくんで」


マーク「あら、なんだかすみません。手伝える事が御座いましたらすぐ仰有って下さいね」


マサヤ「はいはい、それじゃ後で」


N:俺が新しい部屋へ向かうとダンジョンの設備の全権を担うでっかい方の球体こと、ダンジョンクリエイターが一緒について来る。こいつが壊されてしまうと一時的とはいえ復旧までダンジョンの全機能がシャットダウンしてしまう為、自分の意志で動けるサーチさんよりもある意味よっぽど気をやる必要がある。

その為こいつは自分達が一番よく居る事になるであろう寝床に置いておく。弄りたい時にすぐ弄れないと不便だしな。

クリエイターを起動して寝床に必要な物を色々とリストアップしていく。カートを確認して一先ず必要な物は揃ったので購入のボタンを押す。


N:するとクリエイターの購入済み商品画面と、自分の頭の中に買った物が反映されたので今度はそれを部屋の中に並べていく。

三人用に取り敢えずベッドを三つ、部屋の仕切りも必要かと思い部屋の構造を少し弄る。その他色々と買った物を適当に配置して、なんとなく部屋を見回ってみる。うん、とりあえずはこれでいいんじゃないかな。二人から要望があればまた足せば良いし。さて次はマスタールーム、謂わば最終決戦場だ。ここに関しては実際に戦う人達の意見を聞いておいた方がいいだろう。

俺が寝床のドアを閉じ二人の元へ戻ると丁度お茶会もお開きのところだったらしい。


マーク「あら、おかえりなさいまし。寝所の準備は済んだんですの?」


マサヤ「はい、取り敢えず最低限は。なんか必要な物があったらまた言って下さい」


マーク「感謝いたしますわ。今回のマスターは気遣いの出来る方で非常に頼もしい限りですわね」


N:そうかこの二人はダンジョンマスターに与えられるある意味支給品みたいなものだから、前のマスターも当然いたんだよな。さっきもおっさんが前も仕事しなかったってキレてたし。前のマスターがどうなったのかは気になる所だけど取り敢えずマスタールームを弄ってからだな。


マサヤ「えーと、それでですね。次はこのマスタールームについて弄っていきたいんですけどお二人はなんか要望とかあったりします? 

援護射撃はあった方がいいのかとか、逆に下手な援護はいらないから集中して戦える空間にした方がいいのかとか」


マーク「そうですわね、わたくしの信条は使えるものは何でも使えですので、

邪魔にさえならなければ幾らでも援護を頂ければと存じますわ」


マサヤ「モンスター配置して後方から援護させるとか?」


マーク「はい、ただ位の低いモンスターですと攻撃の精度が低いですから下手に配置されると逆に邪魔になってしまうかと。

最低限こちらと意思疎通が出来て作戦も理解でき、魔法なり遠距離攻撃の精度が高いモンスターでないと」


マサヤ「それは結構限られる上にポイントもかかりそうですね」


マーク「えぇ、ただここが最後の砦ですからね。ある程度ポイントを割く価値はあると思いますわよ」


マサヤ「仰有るとおりで。しかし貰った初期ポイントだと道中の部屋も作らないといけない事考えると、

暫くはマークさん達になんとか頑張って貰うしか無さそうなんですよねぇ」


マーク「ホントにあのボンクラは使えないですわね。大体娯楽中心のダンジョンを作れと命じられたのでしょう? 

なのに初期ポイントは他と一緒とは、ほんとケチくさいですわね!」


サーチ「因みにその娯楽関係の施設を作るのに必要なポイントはどれくらいなんじゃ?」


マサヤ「分かり易い娯楽っていうとやっぱカジノ辺りでしょうか。それだと10万でしたね。

あと健康センターは6万ちょい。でもこっちの人ってお風呂入る習慣あるんですかね? 

あんまり頻繁に入らない感じだとしたら最初に作るのはちょっとリスクがあるかなーと」


サーチ「10万に6万じゃと!? 確か初期ポイントは1万じゃったろう!? そんなもんどうやって作れっちゅうんじゃ!」


マーク「ゴブリン一匹が10ポイントですから、単純計算でカジノ一つ作るのにゴブリン一万匹分ですか......。

それでダンジョンを一つ埋め尽くしてしまった方がよっぽど手っ取り早いのでは?」


マサヤ「なので取り敢えずは再利用の利くトラップで適度に冒険者達を倒すなりなんなりして、節約していくしかないかと」


サーチ「世知辛いのう」


マーク「ホントですわね」


マサヤ「じゃあ申し訳無いですがマスタールームに関しては一先ずこのままということで。ご迷惑おかけします」


マーク「いえいえ、こちらこそ」


N:さて、方針も決まったし暫くこのダンジョンの要となるトラップ部屋を作りますか。

えーと人間一人の死体をダンジョンに吸収させれば100ポイント。一時間このダンジョンに滞在する毎に10ポイントか。渋いなー。だからなるべく長い時間居させて憔悴しきったらやっちゃう感じで良いのか? それとも速攻で監禁して食べ物与えて長い時間いさせる? 若しくは回転率重視でバンバン殺しまくるか。手っ取り早いのは三番目の案だよなぁー。はぁー、まじでアミュジョンだのなんだのはどこいったんだよ。これじゃ普通にコツコツダンジョン経営じゃねぇか。

まぁボヤいててもしょうがない、やる事やるか。


N:そんな事を考えながら寝床に戻りクリエイターを弄る。リストを眺めてなるべく安くて再利用出来て効果の高い罠を探す。

うーん、やっぱり落とし穴はベターだよなぁ。偽装のかけ直しのコストも安いし。お、迫って来る天井意外と安いな。しかも地面に着いたら勝手に上に戻ってくれるみたいだし。それじゃあ取り敢えず一部屋目はこれで行くか? 落とし穴多めに配置して気とられてる間に天井迫って来てグッシャー的な。監禁しようにも食べ物代で足つくから意味無いんだよなぁ。だからやっぱり冒険者達には悪いがうちの肥やしとなって貰う方向で。


N:そうして色々と考えながら一先ず三つのトラップ部屋を作った。それを自分なりに効果的であると思われる順番で設置する。この三つの部屋を越えられてしまえば後はもうマスタールームしかない。まぁ、この辺の冒険者は弱いとサーチさんも言っていたし何とかなると思いたい。

作り終わったので報告がてら二人に確認に行こうと思ったらもう既に真後ろに居た。


マサヤ「おぉ、びっくりした。でも丁度良かったです。一先ず部屋が完成したんでお二人にも確認して頂こうかと。あ、寝室はどうでした? 問題無いです?」


マーク「お疲れ様ですわ。えぇ、概ね問題は無かったのですが寝室のドアにかけてあったまーちゃんという掛札は一体?」


サーチ「わらわの所にはさっちゃんと書いてあったぞ。もしやあれがさっき言っておったあだ名とやらか?」


N:あー、ついノリで掛けてしまったのを忘れていた。


マサヤ「すいません、つい。でもあれぐらい親しみがあった方が今後一緒に暮らしていくんですしいいんじゃないかなー、なんて」


サーチ「ふむぅ、まぁこれよりは運命共同体じゃからのう。ちょっと馴れ馴れし過ぎる気もするが、まぁこの際よいか」


マーク「そうですわね、初めての経験ですがこれもまた何かの糧になることでしょう」


マサヤ「えー、ではまーちゃんさん、さっちゃんさん改めてこれから宜しくお願いしますね」


サーチ「あぁ、それとこの際その慣れぬ敬語もいらんぞ。さっきからむずがゆうてしょうがない」


マーク「えぇ、何たってわたくし達のマスターなんですから。遠慮は無用ですわ」


N:おぉ、思いがけずこんなにも早くあっちからOKが出された。敬語って肩凝ってしょうがないから苦手なんだよな。


マサヤ「じゃ、遠慮なく。まーちゃん、さっちゃんこれから宜しくー」


サーチ「ホントに遠慮ないの。ま、それぐらい肝がすわっとる方がこちらとしても頼り甲斐があるか。

期待しておるぞ、マサヤ。いや、主様よ」


マーク「こちらこそよろしくお願い致しますわ、マスター」


N:胸を張りながらニヤリと片方の口角を上げて笑うさっちゃんと、深々と綺麗なお辞儀をするまーちゃん。ほんと対照的だなこの二人。好戦的な所は似通ってるみたいだけど。

 なんて考えながら俺も軽く頭を下げておく。遠慮は無用でも礼節は大事に。親しき中にも礼儀ありってやつだな。まぁ、まだそんな仲が良いわけじゃないけど。これからだこれから。


マサヤ「それじゃあ早速作った部屋の確認して貰いたいんだけど、いいかな?」


N:二人とも頷いてくれたので、クリエイターを弄って作った部屋を壁に映像として映し出す。


マサヤ「先ずここが一番最初の部屋、落とし穴と落下天井の部屋ね。大きい落とし穴が二つと小さいのが三つ。

普通に落とし穴に引っ掛かってくれれば御の字、落とし穴に気やり過ぎて天井に潰されてくれればラッキー。ま、そんな感じっすわ」


サーチ「ふむ、まぁ可もなく不可もなしといった具合かの。ルーキーならそこそこヤれるんではないか」


マーク「配置が意外と絶妙ですわね。気を抜けばポンポン落ちてくれそうですわ」


N:おぉ、意外と上々の反応。まぁでもこの部屋は次の部屋の布石みたいなもんです。再びクリエイターを弄り別の部屋を映す。


マサヤ「んでこれが次の部屋。さっきの部屋と地続きだから抜けてくれば強制で入らざるを得ないんだけど」


N:言いながら装置を起動させる。


マサヤ「そうすると生きた人間が全員入った時点で出入り口が閉まります。

因みに扉は一番固い素材選んだからよっぽど怪力でも無い限りはぶち破れないと思う。

んで、それと同時に部屋の中に毒ガス注入開始。大体二分くらいで一般的な体格の人間の致死量を撒き終わるかなー。

あ、因みにちゃんと逃げる為の方法は用意してあるよ? 不可避トラップはただの理不尽クソゲーだからね。

死にゲー覚えゲーならともかくこっちは現実だから」


サーチ「なんじゃそのゲーゲー言うのは。そっちの方言か何かか」


マサヤ「あぁ、ゲームっていうんだけどそれこそ娯楽そのものみたいなもんだね。

俺の世界の人間が余暇で、若しくは人生使って遊ぶおもちゃ。ジャンル毎に色々あるんだけどそれを略して何々ゲーっていうのさ」


サーチ「ふむ、まぁよくわからんがよし。して逃げる方法とはなんじゃ?」


マサヤ「毎回ランダムで部屋のどこかにスイッチが配置される様になってて、

それを押せば毒ガスが止まって部屋の出入り口が開くって寸法。

対処法知ってて入る分にはそこまで難しい部屋じゃ無いと思うんだけど、その前に気張らせてるし意外とここでヤレると思うんだよね」


マーク「その毒は後遺症が残るタイプですの? 若しくは暫く体内に残って体調に異常をきたしたりですとか」


マサヤ「後遺症はないと思うけど吸い込み過ぎたら暫く前後不覚にはなるぐらいの強さはあると思う。

まぁ、まだ実証実験出来てないからなんとも言えないけど」


マーク「そうですか、出来ればどうせ戦うのなら毒が残ったままの方が有難いんですけれども」


N:あーそうか。言われてみれば確かに。トラップだけで片付ける事ばっか考えてた。いかんいかん。


マサヤ「それだと次の部屋はまーちゃんの要望と違う感じになっちゃうな。ごめん」


マーク「いえ、あくまで出来ればですから。それで最後の部屋というのは?」


N:言われて映像を切り替える。


マサヤ「小さい休憩所。人が四人も入れば一杯になるぐらいの」


マーク「わざわざ休憩所を設けるんですの? それは一体こちらに何の得があって?」


マサヤ「大丈夫これも布石だから。そこで気緩めて休み始めた所に上からドーンと休憩所押し潰すぐらいの落石。

からのダメ押しでゴブリン数体投入」


マーク「成程、毒を吸っていればいるほど効果覿面ですわね。でもコスパ悪くありませんそれ?」


サーチ「そうじゃ、毎回休憩所を建て直そうにもそれでは消費ポイントの方が多いのではないか?」


マサヤ「だいじょーぶ。なんかこの休憩所罠扱いらしくて修復コスト無茶苦茶安いんだよね。

正直ここで二人やれればもうポイント的にはプラス」


サーチ「なんと、そんな格安なのか。そもそも今まで休憩所を設けるマスターなどおらなんだでの。初めて知ったぞ」


マーク「わたくしも。あれ罠なんですのね」


マサヤ「という事で作った部屋の発表会おわりー。はい拍手ー」


N:俺が手を叩くと二人もつられて手を叩く。


マサヤ「で、どうでしょう。ダンジョン経営初心者の初めて作ったトラップ部屋達は」


サーチ「うむ、概ね問題ないじゃろう。これなら全部はやりきれんでもある程度は相手を疲弊させられるじゃろうし、

マークがやり切ってくれると思うぞ」


マーク「そうですわね。わたくしとしても問題はないかと。いざという時はお任せあれですわ」


N:うむ、反応は中々上々の様で何より。よかったー、ボロクソ言われなくて。


サーチ「して、これでどれくらいかかったんじゃ? ある程度余裕を残しておかんと後がきついぞ」


マサヤ「えーと、4000ちょっとかな。ホントはもっと抑えるつもりだったんだけどガス部屋が思ったよりかかっちゃった」


サーチ「残りは六千か。お主意外とやりくり上手じゃの。これならいざという時強力なモンスターの召喚も出来そうじゃ」


マーク「えぇ、本当に。それでは後は実践あるのみですわね」


サーチ「そうじゃな、早速ダンジョン起動といくか」


N:おぉ、遂に始まる訳か俺のダンマス生活が。上手くいきますよーに。


マサヤ「それで、ダンジョンの起動方法は? 何故かこれだけ情報としてインプットされてないんだけど」


N:俺がそう言うとさっちゃんが懐から何かを取り出し俺に差し出す。


サーチ「うむ、取り敢えずこれを嵌めよ」


N:言われるがまま渡されたシルバーリングをなんとなく右手の人差し指に嵌めた。

 すると頭の中にこれまでなかった膨大な量の情報が流れ込んでくる。さっきのインストールで終わりじゃなかったんだ。ていうか指輪嵌めるだけで良いんなら俺にあんな怖い思いさせなくても良くなかった?


サーチ「うむ、これで正式に契約完了じゃ。これよりわらわと主様は文字通り一心同体、生死を共有する仲となったわけじゃな」


N:つまり今までは仮契約だった訳か。でもわざわざなんでそんなまだるっこしい事を?

 俺がそんな事を考えていると顔に出ていたのかまーちゃんが答えてくれた。


マーク「一度契約してしまえばそう易々と破棄は出来ませんからね。幾ら神の使徒とはいえわたくし達にも選ぶ権利はあります。

それで一先ず最初の部屋作りまでしていただいて、僭越ながら評価をさせて頂いた次第でございますわ」


マサヤ「じゃあ取り敢えずは合格を貰えたって事で良いのかな」


マーク「えぇ、合格も合格花丸を差し上げたい気分ですわ。こんなにまともなマスターは一体何代ぶりでしょうか」


サーチ「うむ。前は会って早々セクハラしてきおったからマークが切り伏せ、

その前はたった一部屋で初期ポイントを使い切りしかも抜け穴だらけのとても罠部屋とは言えぬお粗末な出来じゃった。

その上無駄に偉そうでのう、腹が立ったから己が作った罠で殺してやったわ」


N:え、失格だと二人に殺されてたの? えぇーこっわー。まじであのおっさん詐欺だろこれもう。


マサヤ「あれ、ていうかさっき生死を共有って言ってなかった? もしかして今後は俺も死んだら駄目なの?」


サーチ「そりゃあダンジョンマスターは文字通りダンジョンの主じゃからな。

死ねばダンジョンごと滅ぶ。そしてダンジョンマスターはダンジョンの一部じゃからな、

不老で飯を食う必要もなくなるがだからといって無敵で不死になるわけでは無い。

故にマスターとしての才能があるかどうかを最初に見極めたんじゃ」


N:まじかよ、それならやっぱり戦闘系のチートなんとしても貰うべきだったじゃん。Wikiでどうせいと。


サーチ「ま、ここまで来たら後は習うより慣れろじゃ。早速起動といこうぞ主様」


N:まぁ、確かに今更どうこう言ってもしょうがない。それに二人には認めてもらえた訳だし。取り敢えずあのおっさんに文句言うまでは絶対生き延びてやる。そして戦闘系チートを付与させる!


マサヤ「そうだな、それじゃあ二人とも準備はいいな?」


N:二人の顔を見回し、頷きで返されたのをもって了承と見做す。リングに触れて頭に浮かんで来た文言をそのまま口に出す。


マサヤ「ダンジョン、オープン」


N:言い終わるや否やリングが淡く光り、ダンジョン全体に響きそうな程大きなゴゴゴゴという音が鳴り響いた。それと同時にダンジョンマスターとしての直感なのかダンジョンが起動したと確信した。


サーチ「さてさて後は冒険者が来るのを待つだけじゃ。はようくるといいのう」


マーク「それではわたくしは万一に備えて英気を養う事に致しますわ。部屋にいますので何かあれば呼んでくださいまし」


サーチ「そうじゃの、まぁ暫くは暇じゃろうしわらわも部屋で過ごすかの。じゃあの主様」


N:そう言って二人は各々の部屋に戻ってしまった。まぁ、リングで念話飛ばせるから別に良いか。

 俺も軽く寝ようかな。体的には疲れてないけどなんか起きてから色々あり過ぎて精神的にちょっち疲れた。

 カメラをダンジョン入り口に固定して、ベッドに寝転ぶ。おぉ、低反発で寝心地いい〜。枕もフカフカだしこれならすぐ寝ちゃいそうだわ。にしてもリングさえ嵌めてれば念じるだけである程度クリエイター弄れるってのは楽でいいなぁ。

 この楽な感じのまま調子良く進んでいってくれれば何よりなんだけど。そのままうだうだと色々考え事をしていたら良い具合に眠気が来たのでそれに任せるまま眠りに落ちる。どうかただの夢オチだなんて事はありませんようにと願いながら。



リーダー『おぉ、ここが新しく現れたダンジョンか!』


N:聞き慣れぬ声が鳴り響き、パチリと目が覚めた。カメラの方を見てみると三人の人影がダンジョンの入り口に立っていた。

 あれからどれくらい寝ていたんだろうか、なんて考えながら二人に念話を飛ばす。


マサヤ「お客様一組ご案内でーす」


N:すると起きていたのか二人ともすぐに部屋から出てこちらへ向かってきた。


サーチ「おぉ、意外と早かったのう。うむうむ幸先よし」


マーク「たまたま近くに居たんでしょうか? 少なくともギルドから派遣されてきた調査隊ではないですわよね」


マサヤ「なぁ、あれから何時間位経った? 今起きたばっかでさ」


N:時計を置くべきだな、なんて考えながら時間を聞くと意外な答えが返ってきた。


マーク「まだ二、三時間ぐらいですわよ。普通は発見されてから先ずギルドの調査隊が派遣されてきて

ようやく探索の許可が出るんですけれども、それも知らないルーキーか若しくは脛に傷のある方達ですわね」


マサヤ「へぇー、許可とかいるんだ。人里もめんどくさいのねぇ。冒険者なんてもっと自由なもんかと思ってた」


マーク「そうしないと実力が足りない者達が勝手をやって全滅したり、

逆に明らかに過剰な戦闘力でダンジョンを潰して回る不届き者が出てきてしまいますからね。

意外と持ちつ持たれつなんですのよ、ダンジョンと冒険者ひいてはギルドというのは」


マサヤ「じゃあこいつらがルーキーである事を願うばかりだな。いきなり潰されちゃかなわんぜ」


サーチ「まぁまぁ、一先ずは見守るとしようぞ」


N:さっちゃんに促され全員でカメラを見やる。するとあちらでも動きがあった。どうやら中へ入って来る様だ。


ヤーべ『それにしてもツイてるでヤンスねぇ。出来立てホヤホヤのダンジョンに巡り会えるなんて』


リーダー『ハッハッハ、やはりあの呪い師の言葉は本当だった様だな。俺が次代の勇者だという予言は!』


アイリーン『あんたほんとにあれ信じてるの? まぁ確かに偶然ここが出来上がるのに立ち会えたのはラッキーだったけど』


N:個性的な口調の盗賊風の格好をした男が一人、無駄に煌びやかな鎧を着て豪快に笑う戦士風の男が一人、少々ダウナー気味の魔導士風の女が一人か。勇者がどうのと言っているがホントだとしたらだいぶ厄介だな。


マーク「あー、これは典型的なボンボンの坊ちゃんですわね。よく居るんですのよ、小銭稼ぎに馬鹿そうな金持ちの子を捕まえてあなたは選ばれし勇者ですー、なんて言って占い代をとる魔術師が。ま、その程度でその気になる方が悪いんですけれども」


サーチ「ついとるのうー。早くも初陣は勝利という事か」


マサヤ「じゃあ安心して見られるな。はい、これお茶とお菓子」


N:そう言ってポイントで出したお菓子とペットボトルのお茶を二人に渡す。まさかリストの中に日本で手に入る物が大体あるとは思って無かったから見つけた時はビックリした。しかもかなりお安い。


マーク「なんですの、これ? どうやって開ければ……」


マサヤ「あぁそりゃそうか。ごめんごめん。こうすれば良いんだよ」


N:言って実演して見せる。二人はおっかなびっくり俺の真似をして先ずはお茶から飲んでみる。


マーク「あら、意外とサッパリしているんですのね。わたくし結構好きですわこれ」


サーチ「うむ、飲みやすいのう。今まで飲んだ事ない味じゃ。なんという茶じゃ?」


マサヤ「麦茶。あとそっちのお菓子はうんまい棒ね」


サーチ「ムギ茶? また聞き慣れん言葉じゃのう。それになんじゃウンマイボーとは。食い物なのかそれは」


マサヤ「食ってみりゃ分かるよ。ほら、こうして、こうパクッと」


N:二人は麦茶が美味しかった為か今度は然程抵抗感もなくうんまい棒を口にした。


マーク「これは、お菓子ですの? わたくしの知るお菓子とは大きく異なりますわね。でも、意外と、うん、癖になるといいますか」


サーチ「口の中ですぐ無くなるのう。美味いが食い出が無い! もっとくりゃれ」


マサヤ「じゃあ今度はこっちは?」


N:そう言ってミニカルパスを渡す。勿論食べ方も教えて。


サーチ「おぉ、これは噛み応えがあって中々……」


マーク「うぅーん、美味しいんですが脂が多くてわたくしにはちょっと……」


N:大体好みも分かったのでうんまい棒のセットをまーちゃんに、ミニカルパスの箱をさっちゃんに渡した。


マサヤ「よし、準備も整ったし鑑賞といきますか」


サーチ「ほうじゃのう。あ、マークその黄色いのくりゃれ、美味そうな気がする!」


マーク「はいはい、どうぞ」


N:うんうん、美少女が美幼女にお菓子を譲る姿、実に微笑ましい。

 さてさて、ボンボン君達はどうしてるかなー。なんて考えながらカメラの方へ意識を戻すと同時に雄叫びが響いた。


リーダー『アイリーン!!!! くそう俺がついていながら! こんな、こんな落とし穴に……!』


ヤーべ『す、すいやせん。まさかあっしの罠感知に引っ掛からないとは……。アイリーンさん、惜しい人を亡くしてしまったでヤンス……』


リーダー『ぐ、ぐぅぅぅぅ!! しかし幾ら悔やんでももうアイリーンは帰ってきはしない……! 絶対に、絶対に仇を取ってやるからな!』


ヤーべ『ヤンス! こっからはあっしも全力中の全力で臨むでヤンス!』


N:早々に一人やられてた。しかも一番分かりやすいでっかい落とし穴に。おかしいなぁ、あれここに落とし穴ありますよーって緊張させる為のものだったんだけど。因みに落とし穴の中は針山地獄だ、落ちればほぼほぼ生き残れない筈。



ヤーべ『あ、リーダー! そこに落とし穴が!』


リーダー『お、おう助かったヤーべ! この調子で頼む』


N:そうしてえっちらおっちら進む二人はなんかもう見てるこっちが気の毒に思えて来るほどトロ臭かった。

 で、そんな牛歩で進んでれば当然もう一つの仕掛けが迫って来るわけで……


ヤーべ『リーダー待つでやんす! なんか上の方から変な音が』


リーダー『上? おいヤーべ、さっきより天井が近くなってないか?』


ヤーべ『ヤンス! リーダー、これ落下天井でヤンスよ! 急がないと潰されっちまいます!』


リーダー『なんだとぅ!? 次の部屋は、あっちか! 急げヤーべ走るぞ!』


ヤーべ『いやでも気を付けないと落とし穴が』


リーダー『馬鹿野郎! それで潰されたら一緒だろうが! 怪しい所は全部飛び越えろ!』


ヤーべ『ヤンス! リーダーも気をつけて下さいね!』


リーダー『応!』


N:そうして走り出す二人。幸い落とし穴には引っ掛からずそのまま次の部屋の入り口まで辿り着く。

 しかしそこでボンボンが首元をしきりに触って何やら慌て始める。


リーダー『はぁ……はぁ……、ようやく……あれ、ない、ない! まさか落としたのか!?』


ヤーべ『どうしたんでヤンスリーダー、早く入らないと天井が!』


リーダー『形見が、母上の形見のロケットが無いんだ!』


N:そう言って後ろを振り返るボンボン。すると何かを見つけたのかもうかなり天井が迫って来てるというのに踵を返して走り出す。


ヤーべ『待つでヤンスリーダー! もう間に合いやせん!』


リーダー『すまんヤーべ、俺にとってアレを失う事は死に等しい! 必ず戻る、待っていてくれ!』


N:そう言ってマジで戻るボンボン。いやー、流石に間に合わないでしょこれ。


サーチ「阿呆じゃのーこいつ。状況がわからんのか?」


マーク「失くすのが死に等しいと言いながら自殺しに行くのでは意味が無いのでは? 人間の考えというのはいまいち理解が及びませんわね」


N:お菓子片手に言われ放題の哀しきボンボン。でも二人の方が正論言ってると思うわー。

 なんて思ってる間にボンボンは無事形見を取り戻した模様。そして走り出そうとするが天井はもうかなり間近に。

 ギリギリまで走るが頭に天井が触れた所で諦めたのか、歩みを止める。


ヤーべ『リーダー! 何してるでヤンスか! 早くこっちへ』


リーダー『すまん、ヤーべ。俺はここまでのようだ。どうか俺の代わりにコレを持っていってくれ!』


N:そう言ってヤンスに形見を投げつけるボンボン。形見は無事ヤンスの手元に届きそれを受け取るヤンス。


ヤーべ『リーダー! 駄目でヤンス、リーダー!!』


リーダー『行け! ヤーべ! 俺とアイリーンの仇、頼んだぞー!!!』


N:言いながらどんどん姿勢が低くなっていくボンボン。ヤンスはその最期を見まいとするかの様に背を向け次の部屋へと入る。


ヤーべ『お二人の仇、必ず、必ずあっしが取るでヤンス……!』


N:形見を握りしめ涙を流しながら決意を口にするヤンス。ただもう部屋の中に入っちゃってるのでそんな事をしている間にもドンドンガスは充満していく。

 ようやく異変に気付いたのかヤンスがやっと動いたのは一分程経った後。


ヤーべ『ゲホッ、ゴホッ……。な、なんでヤンスかなんか胸が苦しく……。視界も滲んで前が……! あ、あれ入り口が、いつの間にこんな! くそ、び、ビクとも……! ゲホッ、ゴホッ…!』


N:入り口閉じてたの今頃気付いたのかよ。今の今までお前背預けてたじゃねぇか。

 その後も見守るも特にスイッチとかを探す素振りもなくどんどん下に沈んでいき二分を待たずとして地面に沈んだ。三半規管弱かったのかな?


マサヤ「えー、はい。という事で第一冒険者、無事に撃退できた訳ですが、お二人ともご感想は」


サーチ「このカルパスとやら気に入ったぞ。あとムギ茶も。主様の世界の食べ物は中々趣深いのう」


マーク「わたくしはこのめんたいこ味とレモン味なるものが特に気に入りましたわ」


N:それはお菓子の感想だろう。あいつらの事観てなかったのか?


マサヤ「いや、そっちじゃなくて冒険者君達の感想ね」


マーク「言うに及ばない典型的なアホアホルーキーでしたわね」


サーチ「うむ。ま、肥やしとなってくれた訳じゃし感謝だけはしておくかの」


N:そう言って手を合わせる二人。わードライ。まぁ、見所無かったしねぇ。

 注意力散漫とただの自殺と自己陶酔だもんな。それでも300ポイントか。お菓子代引いてもまぁ全然プラス。

 ただずっとこの調子じゃカジノはおろか健康センターも遥か遠くだな。もっとドカーンと稼ぐ手段は無いものか。


N:ボンボン君達が呆気なく召されてから早一週間。あれから何度かダンジョンへの来客が続いた。

 最初は普通の冒険者達が来て、入り口で何やら話した後さっさと帰ってしまった。

 その翌日今度は大所帯でなんか雰囲気のある人達が来た。これがまーちゃんの言っていたギルドの調査員だったらしい。


N:その人達は一人の犠牲も出す事なくマスタールームまで辿り着き、すわ戦闘かとこっちが緊張していると軽く確認だけしてさっさと帰って行った。まーちゃん曰く、彼らの仕事はあくまで調査だけでありダンジョンコアに手を出す事は先ずないらしい。

 そして彼等が帰ってから数日後無事許可が下りたのか、遂にこのダンジョンに挑む者が現れた。

 内訳は騎士一人、戦士一人、僧侶一人、魔法使い一人とテンプレのようなバランスの取れた集団だった。


N:しかしオツムの方はそうでも無かった様で、まさかの最初の落とし穴で前衛二人が死亡。残された二人はガス部屋で最後はお互いを罵り合いつつ絶命。いやぁー、やっぱ人間切羽詰まると本性というか本音が出ちゃうよねー。

 それから更に二週間ちょくちょくやってくる冒険者達を順調に肥やしにしていたら、ある日突然おっさんが現れて文句を言ってきた。


神「ちょっとちょっと君ぃ! 僕アミュジョン作ってって言ったでしょう!? なんでこんな不穏なダンジョン作ってるのさ!

 もう町じゃこのダンジョンの噂で持ちきりだよ!? ランクC判定なのに誰一人帰ってこない呪いのダンジョンだって!」


マサヤM(え、そんな事になってんの。てかC判定ってどれぐらいの扱いなんだろう。口ぶり的にそんな高くは無さそうだけど)


神「Cは駆け出し卒業間近から中級の下位ぐらいまで。丁度一番近くの町に多く滞在している冒険者達のレベルと合致するんだよ。だから皆腕試しにここへ来ているんだけどこれ以上殺し続けてたら本当に誰も寄り付かなくなっちゃうよ!」


マサヤM(しかしそうは言われてもポイント全く足りないし。この三週間でようやく三部屋の元が取れるかどうかって所なのに)


神「それは申し訳ないと思うけどしょうがないじゃ無いか、君だけ特別扱いして初期ポイント沢山あげる権限なんて私は持ってないし。それに殺すだけじゃなくてもうちょっとやりようもあるだろう? 出来るだけ長く居させて退路をしっかり確保してあげるとか。やっぱりリピーターを作っていかないと。死んだらそれで終わりだからね」


マサヤM(あー、確かに監禁とは言わないまでも出来るだけ閉じ込めて帰らせるってのもありなのか。でもポイント大分しょぼいよなぁそれ。ていうか俺さっきから喋ってなくない? なんで会話が成立してんの?)


神「そりゃあ私はこの世界の神だからね。審判場では力を発揮できなかったけど、ホームのこっちじゃ読心なんてお茶の子さいさいさ」


マサヤM(ほぉ、そりゃ凄い。まるで仙人か神様みたいだ)


神「だから神だって言ってるだろう!? 一応君も最初は納得してくれてたじゃないか」


マサヤM(えーでも別にこれと言って神らしい事してくれてないしなぁ。あ、そうだ)


マサヤ「おっさんあんたよくも騙してくれたな! 何が悠々自適なダンジョンマスターライフだ! 俺普通に死ぬし、さっちゃんが死んでも駄目じゃねぇか!」


神「騙しては無いよ、人聞きの悪い。ただ説明するのを忘れただけさ」


マサヤ「OK、一発殴らせろ。話はそれからだ」


神「ちょっとちょっと、暴力反対! 大体神相手に暴力振るうなんて君気は確かかい!? どんな天罰が下っても知らないよ!」


マサヤ「じゃあ戦闘系のチートを寄越せ。さっちゃんと自分の身は守れるぐらいの」


神「いやだからさっきも言ったけど私にはその権限が与えられてないんだって! Wiki見る能力あげたでしょ!? あれもかなり特例なんだよ? というか君さっきから敬語はどうしたのさ! 出会った頃は使ってくれてたじゃないか!」


マサヤ「詐欺師を敬う精神は持ち合わせてない。つかさっきからその権限権限って何なんだよ、あんた神なんだろ? じゃあ好き放題出来るだろ」


神「いや、私はただこの世界に派遣されてるだけの謂わば平社員みたいなものだから……」


マサヤM(使えねー、神使えねー。そりゃ神によってランクとかあるだろうけどよりによってただのヒラかよ。

 まぁ、常時ジャージだしな。しょうがないか)


神「良いじゃないかジャージ! 機能的だしデザインもいいし! 何より着心地がいい!」


マサヤM(そこでキレんのかよ。ジャージの世界の神にでもなった方が良いんじゃねーの?)


神「私だって出来るならそうしたいさ! でもあそこ競争率激しくて私程度の業績じゃ到底無理なんだよ……」


マサヤM(ホントにあんのかよ、ジャージの世界。どういう世界なんだ)


神「それはそれは素晴らしい世界だよ! そう、私が早くそこに行く為にもね、君には早くアミュジョンでこの世界を満たして欲しいわけさ! そうすれば私は異動出来るし、君は襲われる心配もなく悠々自適なスローライフ!」


マサヤM(ほぼほぼ自分の欲のためじゃねーか。やっぱ神なんてのはどこの世界でも碌でもねぇな)


サーチ「なんじゃか騒がしいと思ったら来ておったのかハゲ。よくもまぁわらわ達の前に姿を現せたもんじゃな?」


マーク「全くですわね、このうすらトンカチときたら。覚悟はお済みなんでしょうね?」


マサヤM(おっさんと話していたらいつの間にか二人が後ろにいた。二人とも青筋をピキピキと立てていて、非常に怖い)


神「え、な、なんでそんなにブチ切れているんだい? 私何かしたかな?」


マサヤM(おっさんは視線で俺に助けを求めるが知ったこっちゃぁない。存分にしばき回されるといい)


サーチ「そういう所含めて全て諸々じゃぁ! 覚悟せい!!」


マサヤM(叫びながら飛びかかるさっちゃん。俺は邪魔にならない様避けようとするが、まーちゃんから静止の声がとぶ)


マーク「お待ち下さいましマスター! わたくし達だけでは逃げられてしまいます! そのボンクラを捕まえて下さいまし!」


マサヤM(言われるがまま結構近くにいたおっさんの腕をガシリと掴む)


神「ちょ、君、何してるの離して! もう来てるからもう来てるから!」


マサヤM(言ってる間にさっちゃんはシャーとか叫びながらおっさんの頭目掛けて飛び込んできている)


神「本当に、洒落にならないから! マジで、マジで離して! そうだ、戦闘、戦闘のチートだったよね!? あげるから! ちゃんと戦闘チートあげるから早く離してー!!」


マサヤM(そう言われて思わず手を離しそうになるが、この詐欺師の今までの所業を思い直し再び掴む手に力を込める)


神「なんでよりガッツリ掴むんだい! 話聞いてた!?」


マーク「いいですわよ! その調子で掴んでいてくださいわたくしも今すぐ向かいます!」


マサヤM(まーちゃんがそう叫ぶと同時にさっちゃんがおっさんの頭に張り付いた)


サーチ「M字ハゲをO字ハゲにしてやるわ! おらぁー!!」


マサヤM(そう言ってブチブチブチとおっさんの少ない髪を引きちぎるさっちゃん。容赦ねー)


神「いだだだだだだだだ!!!!!!!! マジで痛いし禿げるからやめてぇぇぇぇぇ!!!!!!!

 お願い、お願いだから早く離してぇぇぇ!!! 私のおでこがM字な内にぃぃぃぃ!!!!」


マサヤM(そういえばなんで俺が掴んでると逃げられないんだ? さっちゃんがもう頭に張り付いてるし俺必要ある?)


神「彼女達は一応私の権限下にあるからワープすればこっちの意思で引き剥がせるけど、君は転生者だからワープすると一緒に着いてきちゃうんだよ! 下手な所に連れて行くわけにもいかないし、色々と都合が悪いんだよ!

 だから、わかったら! 早く、その手を、離してぇぇぇぇぇぇ!!!!!! いだだだだだだ!!!!!!」


マサヤM(あーはいはいなるほどね。そりゃまーちゃんも慌てて捕まえさせるわ)


マサヤ「で、おっさん。俺にどんな戦闘チートくれんの? 内容によっちゃ離してやらんでもない」


神「現在ダンジョン内に呼び出している最も戦闘力が高いモンスターと同じ特性、能力を得る!! どうだいこれなら文句無いだろう!? だから、早くっ! いだっ!! いだだっ!!!」


マサヤM(ほうほうほうほう、いやこれ中々良いんでないの? まぁそのモンスターやられた瞬間なす術無くなるけど。まぁこれぐらいなら妥協していいかもしんない。そう考え手を離そうかと思った所でようやくまーちゃんが到着、同時におっさんにコブラツイストをかける)


マーク「しゃー! くらいやがれですわー!!!」


神「あだだだだだだだだだ!!!!!!!!! ちょタンマタンマタンママジで締まって、あだだだだだだ!!!!!!!」


マーク「積年の恨み、今晴らしますわよー!!」


マサヤM(二人とも実にイキイキとおっさんをしばき回している。うんうん、ストレス発散は大事だからね。いい事だ)


神「こっちは良くないよ!!!! あだだだ!!!! 十分なチートだろう!? なにが不満なんだい!?」


マサヤ「いや、そういえばポイントドカンと増やす方法とかないかなーと思ってさ。知ってるなら教えてくんない?」


神「なんでそんな普通な感じで接せられるのさ!? こっちは、いだっ! あだっ! いだあだだだだだ!!!!!」


マサヤ「で、どうなの。あるの、ないの。無いなら二人の気が済むまでやってもらうけど」


神「ある!!! あるよ!!! だからっ、いだだだ!!!! 早くっ、あだだだだ!!!!!」


マサヤ「本当に? 嘘じゃ無い? チート含めてまた今度とか言って逃げない?」


神「逃げない! 逃げないから!!!!! 早くっ、早くぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」


マサヤM(俺は数秒おっさんの目をじっとみつめ、本当に切迫してる奴の目だと判断した為二人に呼び掛ける)


マサヤ「二人とも、もうやめたげて。交渉は済んだから」


マーク「まぁ、残念。もうですの? 今からスペシャルコンビネーションを決めて差し上げようと思っておりましたのに」


サーチ「うむ、わらわは大分抜けたし満足じゃ。あまり抜きすぎても次に抜くものが無くなるでの」


神「またこれやる気なのかい!? 勘弁してよもぅ……」


マサヤ「で、おっさん。ポイントガッツリ増やす方法って何なのさ? 徹底的な節約とか言い出したら俺の黄金の右ストレートが炸裂すっかんな」


神「言わないよ……。君達三人揃って無茶苦茶暴力的だなぁ。送るとこ間違えたかな……」


マサヤ「後悔はいいから答えはよ。 さーん、にー、い」


神「分かったからそんな急かさないで! 取り敢えず先にチート付与しておくね。はい」


N:そう言っておっさんが手をかざすと俺の中で何かが変化した感覚がある。ただ試そうにも今は無理だな。後でそこそこのなんか適当なモンスター召喚して試そう。


マサヤ「うむ、くるしゅうない。で、方法は?」


神「なんでそんな偉そうなのさ……。えーと、簡単に説明するとね」


N:そう言っておっさんが語った内容は俺のダンジョンなんかよりよっぽど物騒な方法だった。

 曰く、この世界には俺以外にも沢山ダンマスがいるのでそいつらの所へ出向いてタイマンを申し込む。

 条件設定が済み勝負が成立すればあとは戦うだけ。勝者には敗者が所有しているポイントの何割かが支払われるとの事だ。

 因みに戦うのは、勿論俺でもさっちゃんでもなくナイトであるまーちゃんであるらしい。


マサヤ「タイマンだぁ? しかも別のダンマスってどこにいんだよ」


神「お隣にいるよ。しかも結構溜め込んでる子が」


マサヤ「マジかよ、全然知らなんだ」


神「そりゃあダンジョンにずっと引き篭もってれば知りようもないだろうね」


マサヤ「まーちゃん、どうぞ」


神「ごめん! やめて! 調子にのりました!」


N:おっさんが慌てて謝るので仕方なくまーちゃんを下がらせる。ついでに気になっていた事を尋ねる。


マサヤ「そういやまーちゃん的にはいいの? 他のダンジョンナイトと戦わされるって。仲間みたいなもんじゃ無いの? それにさっちゃん護るのが仕事なんでしょ?」


マーク「あぁ、そこはお気になさらず。あくまでわたくしはこのダンジョンのナイトであって、他のダンジョンの者など敵みたいなものですわ。それにそもそもタイマンに関しては元々わたくしの仕事の一つですからね。こちらが仕掛けられるように、相手から仕掛けられる事もある訳ですから」


N:あぁ、それは確かに。それも引っくるめてコア、引いてはダンジョンの守護が役割な訳か。


神「話はまとまったかな? それじゃあ今回は特別に相手のとこまで一緒に行ってあげるから、ほら手出して」


マサヤ「え、もう早速行くの? なんか菓子折りとか用意した方がいいんじゃ」


神「道場破りするのにお土産持参する奴はいないだろう? それと一緒さ、気にしない気にしない。 ほら、それより早く時間が勿体無いから」


N:促され三人でおっさんの手を掴む。するとその瞬間、どこか別の場所へ飛ばされた。


影丸「何奴!」


N:そう叫んだ男の体は目元以外全てを黒装束に包まれ、唯一見える目元からは綺麗な青い目が見えた。

 青い目の忍者。それがその男に抱いた第一印象だった。


影丸「む、そこに御座すは神殿では御座らんか。お久し振りで御座る」


神「やぁやぁ、影君いきなりごめんね。今日はちょっと紹介したい子と頼みたい事があってさ」


影丸「紹介したい者? もしや後ろの者達の風貌から察するに、ダンマスで御座るか?」


神「さっすが影君! 話が早くて助かるよ。彼は最近ダンマスになったばかりでね、えーと名前は何だったかな」


マサヤ「マサヤです。定岡誠也。宜しくお願いします」


影丸「マサヤ殿で御座るか。拙者は影丸、気軽に影ちゃんとでも呼んでくれれば嬉しいで御座るよ」


N:そう言って目を細め笑う影丸さん。やだ、影丸さん無茶苦茶人当たりいいー! えー、やだよ俺今からこの人にタイマン申し込むのー?


神「それで今日は影君にこの子とタイマンして貰いたくてさ。結構溜め込んでるんでしょー? やるねぇ、流石私が選んだ転生者!」


影丸「あぁ、やはりそうで御座ったか。ダンマス同士がどちらかのダンジョン内でやる事といえば、それしか無いで御座りますからな。しかし、ルール的にしょうがないとはいえあまり気は進まんで御座るな。こちらにほぼメリットは御座らんし。確かタイマン自体は断る事も出来たで御座ろう?」


神「いやー、そうなんだけどね。私この子にちょっとお願いしちゃった事があって、そこをなんとか受けてもらえないかなー?」


影丸「まぁ、神殿がそう仰るのであれば致し方無し。ふぅー、気が乗らんで御座るなぁ……」


神「わかった! そうだよね、結構無茶なお願いだもんね。それじゃあ今回は特別に僕が何でも一つ言う事を聞いてあげちゃおう!」


影丸「それは誠で御座るか! ならばこの勝負乗ったで御座る!」


神「良かったよかった、じゃあそう言う事で! 良かったねマサヤ君」


マサヤ「なぁ、それって俺にも権利あったりする?」


神「え? いやぁ、これはあくまで影君にお願いを聞いてもらう為の条件だから……」


影丸「いや、拙者はいいで御座るよ。勝者が神殿に一つ言う事を聞いてもらえると言う事で。ただ勝負するだけではつまらんで御座るからな。それにマサヤ殿のその欲深い姿勢非常にいいと思うで御座るよ、拙者気に入り申した!」


N:やだもう、ほんと影丸さん無茶苦茶いい人! 俺この人になら抱かれてもいい!


神「うーん、まぁ影君がいいって言うんならいいか。それじゃその条件で早速始めようか」


N:おっさんがそう言うと待ってましたとばかりにまーちゃんが前に出て来た。


マーク「ひっさしぶりのタイマンですわねー。腕が鳴りますわ! さぁさぁ、わたくしのお相手はどなたでして?」


影丸「申し訳御座らん。姿が見えぬので恐らく寝ているので御座ろう。すぐに起こしてくるで御座る」


N:そう言って影丸さんは素早く忍者走りで奥の部屋へと入っていった。少しして一緒に出て来たのは、頭巾は被っていないが他は影丸さんとお揃いの格好をした所々主張の激しい体形のくの一と、侍といった風貌の左目に眼帯を付けた大男だった。


デッド「ごめん、主。寝過ぎた」


バジリスク「わし相手にタイマン張ろうたぁ中々根性があるわ。どいつじゃ、相手は」


影丸「そちらの御仁で御座るよ。すまぬ、皆様遅くなったで御座る」


N:影丸さんが頭を下げつつまーちゃんを手で示すと侍は大声をあげて笑う。


バジリスク「ガハハハ! よりによっておなごか! 勝負になるかいのう?」


マーク「おほほほ、無駄にデカい体に栄養を持っていかれたせいでオツムの出来はあまりよく無い様ですわね!」


バジリスク「ハハハ、威勢だけは良いようだの! おしゃ、名前はなんじゃ?」


マーク「人に名前を尋ねる時はまず自分が名乗ってから、その程度の礼節も持ち合わせておりませんのね。まぁ、良いですわ。わたくしの名前はマーク・フォー・デス! 貴方を倒す事になる者の名ですわ、しかとその小さな脳に刻み付けなさいな!」


バジリスク「おぉ、こりゃすまなんだ。お嬢ちゃんの言う通りじゃ。わしの名はバジリスク! 隻眼の蛇とはわしの事よ!」


マーク「聞き覚えがありませんわね、ご自分で二つ名を付けるのはお止めになった方が宜しくってよ?」


バジリスク「ンナハハ! そりゃあお嬢ちゃんが世間知らずなだけじゃ。わしに挑んできた奴等が勝手に付けた名じゃ、何故蛇なのかわしも知らんわ! ガハハハ!」


神「まぁまぁ、二人ともそれくらいで。そろそろ始めようじゃないか」


N:おっさんののとりなしで二人は数歩の距離を空けて互いの正面に立つ。こうして立つと侍の大きさがより際立つ。下手すりゃまーちゃんの二倍くらいあるんじゃ無いか? てか元ネタ通りの名前だとしたらもしかしてあの眼帯外したらアレが発動するの? だとしたらヤバくない? 無茶苦茶強くない?

 俺が内心焦っているとおっさんは気にした素振りもなくさっさと勝負を始めてしまう。


神「それじゃ、二人とも正々堂々全力でね! 試合開始〜!」


N:おっさんが言い終わるや否や両者は己の獲物を相手に向かって振り下ろす。

 ガギンという鈍い音を立て鍔迫り合いをする二人。かたや西洋剣、かたや日本刀を構えた二人は共にニヤリと笑う。

 同時に間を開けた二人は同じ速度でまたも打ち合う。数号交わした所で侍の方が口を開いた。


バジリスク「マークと言ったか。今までの無礼を詫びよう。おしゃ、立派な剣士じゃ」


マーク「それはどうも。こちらこそ非礼を詫びますわ。貴方も立派な技量をお持ちですわね」


バジリスク「ならばここからはお互い本気でやり合うとするか」


マーク「えぇ、ちょうど肩慣らしも終わった所ですわ。いつでもいらっしゃいな」


N:その言葉を皮切りに二人の速度はさらに増した。正直もう目で追い切れない。うわー、なんか今一番異世界来た実感してるかも。

 キンキンキンという高い金属音だけが響く戦いの場に変化が起きたのは、二人の動きを追い切れなくて状況が理解出来ず、少々飽きが来て軽いあくびをかみ殺した時だった。


マーク「一つ」


N:そう呟いたのはまーちゃん。見ると両者は動きを止めていて、侍の袴に切れ目が出来ていた。


バジリスク「先手を取られたか、やるのう」


マーク「いいえ、残念ながら貴方はもう終わりですわ。わたくしの斬撃を一度でも食らったものに訪れるのは、死あるのみ」


N:そう言ってまーちゃんは侍へ向かって斬りかかる。それを受けながら侍は笑う。


バジリスク「ガハハ、大きく出たのう。たった一度切り付けただけで勝ったつもりになるとは、自信過剰にも程があるぞ!」


N:受けた体勢からそのまま侍は切り返すが、まーちゃんはそれを危なげなく躱しまたも一撃侍を斬りつける。


マーク「ハッ!」


バジリスク「ぐぅっ!」


マーク「二つ」


バジリスク「さっきからなんじゃその一つ二ついうのは、わざわざ斬りつけた回数を数えとるんか?」


マーク「いいえ、これは貴方の死へのカウントダウン。あと一度斬りつければ、貴方は終わりですわ」


バジリスク「面白い事をいうのう。わし如き、三度みたび斬りつければ十分と言うことか!」


N:激昂した侍は勢いそのままにまーちゃんへ斬りかかる。だが俺でも分かる程その単純で直線的な動きにまーちゃんが応じるはずも無く、華麗に躱して三度目の斬撃を侍の背中に浴びせた。


マーク「三つ」


N:まーちゃんがそう呟くのと侍が倒れ伏すのは同時だった。


神「そこまで! 勝者、マーク・フォー・デス!」


N:おっさんが宣告すると同時に侍がガバリと立ち上がる。


バジリスク「ガハハハ! 死んだのはいつ振りか! 負けじゃ負けじゃ! おしゃやりおるのう!!」


N:言ってまーちゃんの背中をバンバンと叩く侍。まーちゃんはそれを満更でもない様子で受ける。


マーク「痛い痛い、痛いですわもう。女性の扱いはもっと丁寧に! まったくもう」


バジリスク「おう、すまんすまん。ハッハッハッハ!!」


N:負けたってのに侍はすげー嬉しそうだ。良いのかそれで。


バジリスク「そういやなんでわしゃたった三度斬られただけで死んだんじゃ? 三度目に斬られたと思った時にはもう死んどったで全く意味がわからんぞ」


マーク「それがわたくしの能力ですわ。一度斬りつける度に相手に死の刻印を与え、三度目で死に至らしめる。

 それより貴方、能力を一切使いませんでしたわよね? やっぱりわたくしをなめていらっしゃったの?」


バジリスク「いんや、わしゃ全力で戦うたぞ。おしゃ相手に手など抜けるか。だがのうわしの能力は使えば必殺じゃ、もののふとしての意地が許さなんだ」


マーク「それがなめているというのでは? 死んでは元も子もないでしょう。使えるものは全て使うべきですわ」


バジリスク「ンナハハハハハ、おしゃとは価値観が全く違うようじゃのう。まぁ、安心せい。冒険者相手には遠慮なく使っとるでのう。おしゃとは一人の武人として戦いたかった。それだけの事よ」


マーク「そうですか。まぁ、何はともあれ今回の勝負はわたくしの勝ちですわね。後から文句は受け付けなくってよ」


バジリスク「言わん言わん、さっきから言うとるじゃろう全力で戦ったと。すまなんだな、影丸。力及ばなんだ」


影丸「いやいや、バジーは良くやってくれたで御座るよ。勝負は時の運、言っても詮無いで御座る」


デッド「相手が強かった、それだけの事。バジリスクはいつも通り笑っていればいい」


N:影丸さんとくの一が侍もといバジリスクさんを励ます。にしても必殺の能力ってやっぱ元ネタ通りなのかな。まーちゃんもなんか名前が由来の能力持ってるみたいだし。


神「よしよし、お互いに遺恨は無いようで何より! それじゃ早速ポイントの受け渡しといこうか」


マサヤM(おっさんに言われ俺と影丸さんは握手をする。すると大量のポイントが流れ込んでくる快感に体が支配される。うぉぉぉ、気持ちいいこれぇぇ!!

 俺がよがっている間に受け渡しは終わったようで気付けば快感は去っていた。お互いに手を離し、ポイントを確認してみるとなんとそこには11万の数字が! 確か今回は保有の三割受け渡しの筈だったから、えぇ、影丸さん30万も貯めてたの!? どうやって!? すご!!)


神「それでマサヤ君、何でも聞くって話だけど何にするの? あ、先に言っておくけどチートはもう流石に駄目だからね!」


N:えー何でもじゃ無いじゃーん。まぁ、いいや元々こっちは決めてたし。


マサヤ「もう一個ダンジョンくれ」


神「あ、良かった今回はまともな要求で。でも大変だよ? 一人で二つも管理するのは」


マサヤ「そう、そこでお願いついでにもう一個ワガママ聞いて欲しいんだけどさ」


神「えぇ、なんだい? ほんとに欲深いね君。まぁいいや聞くだけ聞いてあげるよ」


マサヤ「新しく貰うダンジョンを俺と影丸さんの二人で管理出来るようにして欲しい」


神「なんだそんな事。それぐらいなら全然いいけど。これまたどうして?」


マサヤ「いや影丸さんがあんまりにもいい人だからさ。なんかポイントだけ掻っ攫ってくのが忍びなくて」


神「はははは、いいねぇ。おじさんそういうの好きだよぉ〜。で、影君的にはどう? こう言ってるけど」


影丸「え、えぇ拙者としては何も問題ないで御座るが、本当に良いんで御座るか? マサヤ殿」


マサヤ「はい、勿論。先輩として教えてもらえる事も沢山あるでしょうし、ご迷惑でなければ是非!」


神「いやぁいいねぇこういうの! 殺伐としたのばっかじゃなくてこういうのが見たかったんだよねぇ! よし良いもの見せてもらったお礼におじさんからの特別大出血サービスだ! マサヤ君関係でもう始末書の山は確定してるしね、今更一山二山増えた所で関係ナーシ! ダンジョン運営用のポイントの贈呈と、二人でポイントを共有出来る様にしてあげよう! はいど〜ぞ!」


マサヤM(おっさんがそう言って手をかざすと再び体の中にポイントが流れ込んでくる感覚がする。確認してみると更に10万ポイント増えていた。あれ、なんかおっさんから後光が差してる気がしてきた……)


影丸「あの、神殿、拙者の方にも10万ポイント増えているんで御座るが……」


神「うんこれからは二人で一緒にやって行くんでしょ? それなら平等にね! それじゃ二人とも、十分なポイントは渡したし今度こそアミュジョン作り頼んだよ! 期待してるからね、それじゃバイバ〜イ!」


マサヤM(それだけ言うとおっさんは文字通りかき消えた。なんとも忙しないおっさんだ。しかし予想外の収穫が大量にあった。これでやっとホントにアミュジョンが始められるわ。俺が感慨深く思っていると、影丸さんが近づいてきた)


影丸「それではマサヤ殿、これから一同志として宜しくお頼み申すで御座るよ」


マサヤ「こちらこそ、影丸さん。色々いきなりで申し訳ないですが、これからお願いします」


影丸「同志なんで御座るから、この際敬語もやめましょうぞ。影ちゃんと気軽に呼んでくだされ」


マサヤ「えーじゃあ、うん。かげちゃんこれから宜しく! 俺のこともマサヤでいいから!」


影丸「うーん、それではマサヤんでどうで御座るか?」


マサヤ「じゃあ俺もカゲやんって呼んじゃおうかな」


影丸「それではこれよりマサヤんカゲやんと言う事で! なんだか一気に仲が深まった気がするで御座るな!」


N:そう言って笑うカゲやんの目は本当に嬉しそうに細められている。うん、やっぱりこの人をパートナーに選んだのは間違いなかった。なんかすげーやる気出て来た! よっしゃアミュジョン作り頑張るぞー!!

 そういやなんかこっち来てからずっと静かだったけどさっちゃんはどうしたんだ?

 そう思い振り返ると寝っ転がってスピースピーと可愛い寝息を立てていた。

 多分試合の途中で飽きて寝たなコイツ。まぁいいか、こっちはこれからやる事一杯だし。

 なんかやってもらう事があるかもしれんし、今の内に英気を養ってもらっておこう。


神「うんうん、やっぱり若者達に友情が生まれる瞬間てのはいいねぇ。

ついつい後先考えずに色々やっちゃったよー。自分でやった事とはいえ、今から始末書の事考えると憂鬱だぁ……。

まぁまぁ、楽しい事考えてる方がいいよね! ポイントも十分あげたし、ようやくアミュジョン始動かな?

それじゃあ次の機会まで、みんな、バーイバーイ!」

 

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