11話「その後のワルフリート・エメリッヒ伯爵令息」最終話・ざまぁ
――エメリッヒ伯爵令息・視点――
その日は朝からむしゃくしゃしていた。
エリーゼ・ローレンシャッハ公爵令嬢に中庭に呼び出されたから、告白のOKの返事だと思って喜び勇んで行ったら……。
「あなたとは付き合えません。もう告白してこないでください」と言われて振られた。
なんでもローレンシャッハ公爵令嬢は、ルイス・クッパー子爵令息と付き合うことになったらしい。
クッパー先輩のことは知っている。
何年か前の卒業パーティで婚約破棄された男だ。
公衆の面前で、長年婚約していた女に振られるようなダサい先輩だ。
顔は平凡、実家は子爵家、文官試験は最下位合格、文官になって三年経つが大した仕事を任されていない。
そんな冴えない先輩のどこがいいんだ?
その点ボクは学生時代の試験はいつもトップ。
学園を首席で卒業し、文官試験も首席合格。
文官一年目にして皆の期待を浴びる、出世街道まっしぐらの超エリート。
実家だって裕福な伯爵位だし、公爵令嬢のエリーゼ嬢とも釣り合いが取れる。
絶対に結婚するならあんな野暮ったい先輩より、ボクの方が絶対いいのに、見る目がない女だ。
エリーゼ・ローレンシャッハ公爵令嬢。金色のサラサラした髪に青い瞳の美少女。
王立学園で一番可愛くてスタイルが良いから、彼女が学園に入学したときから目をつけていた。
父親が宰相で兄は宰相補佐だから、簡単に手を出したり、遊びで付き合えないこともわかっている。
だから少しずつきっかけをつくり、卒業パーティの前日に満を持して告白したのに……振られた。
あのときはショックで立ち直れないかと思った。
完全無欠のこのボクが、あんな可愛いだけのお嬢様に振られるなんて、信じられなかった。
そしてこの夏、学園の夏休みにインターンとして働きに来たローレンシャッハ公爵令嬢と再会した。
三か月ぶりに見た彼女は、少し大人びて見えた。
この前は告白の返事を急がせたのがいけなかった。
前回の彼女は、ボクみたいな素敵な男に告白されてどうしたら良いかわからず、つい断ってしまったのだろう。
今度は彼女に時間の猶予を与えよう。
よーく考えて、世間の評判を聞けばボクと付き合いたくなるはずだ。
……なのにまた振られた。
完膚なきまでに叩きのめされ、バッサリと縁を切られた。
ローレンシャッハ公爵令嬢は見てくれがいいから連れて歩くのに最高だし、彼女と結婚したら宰相である父親に気に入られ、ボクの出世はさらに早まる……そう思っていたのに。
……クッパー先輩のような出世しそうにない冴えない男を掴まえるなんて、ローレンシャッハ公爵令嬢は見る目がない。
彼女にしつこくつきまとって、宰相や宰相補佐に睨まれても面倒だ。
仕方ない、ここはスッパリ諦めるか。
こうなったら多少年が離れていても構わないから、どっかの王族の姫君と婚約を……。
そう考えていたら城を出て少し歩いたところで、人とぶつかってしまった。
「失礼」
ボクがぶつかったのは、茶髪のボサボサ頭のこぎたない衣服をまとった男だった。
身なりからして平民だろう。
「眼鏡、眼鏡……」
平民の男はボクとぶつかったはずみで眼鏡を落としたようで、目を「3 3」にして眼鏡を探していた。
今どき眼鏡を外したら目が「3 3」になる奴なんているのか? 笑える。
ボクはキョロキョロと辺りを見回す。
よし、誰も見ていないな。
ボクは誰も見ていないことを確認し、男の眼鏡を蹴飛ばした。
ボクに蹴飛ばされた眼鏡はぽちゃんと音を立てて、ドブ川に落ちた。
そうとは知らず、男は地面に這いつくばってまだ眼鏡を探している。
『一生探してろバーカ』
ボクは心の中で悪態をつき、帰路についた。
見知らぬ他人に嫌がらせをしたことで、少しだけ気分が良くなった。
明日からまた可愛い女の子に声をかけるとしよう。
どこかに完璧なボクに釣り合う、淑女がいるはずだ。
☆☆☆☆☆
後日、ボクは宰相補佐室に呼ばれた。
人事のことか? 勤務して三か月で出世するのか?
参ったな、あまりにも出世が早いと周りにやっかまれるんだよな。
それともローレンシャッハ公爵令嬢が、クッパー先輩と付き合ったのは間違いだと気づき、ボクと付き合いたいと言い出したんだろうか?
直接ボクに言うのが照れくさくて、宰相補佐を通じて伝えてきたのかな?
モテる男は困るな。
ローレンシャッハ公爵令嬢がどうしてもっていうなら、考えてあげないこともないけど。
ボクはうきうきした気持ちで、宰相補佐室のドアを開けた。
「失礼します。
ワルフリート・エメリッヒ、お呼びにより参りました」
部屋に入ると鬼の形相をした宰相補佐と目があった。
「ヒッ……!」
ボクは思わず悲鳴を上げてしまう。
執務用の椅子に座っている宰相補佐の頭にはたんこぶがあり、顔には擦り傷まであった。
「宰相補佐、そのお怪我は……?」
「ああこれ、この傷ができた理由を聞きたい?」
そう言ってボクを睨んだ宰相補佐の顔は悪魔よりも恐ろしかった。
「いえ……結構で……」
「実は先日、お忍びで街を歩いていたら男性とぶつかって眼鏡を落としてしまってね。
眼鏡が見つからなくてふらふらしながら歩いて帰ったから、身体中あちこち傷だらけだよ」
宰相補佐はボクの言葉を聞かず、話し始めた。
「えっ……? お忍び? 眼鏡……?」
「僕は時々、茶髪のかつらを被って、よれよれの服を着て、瓶底眼鏡をかけて街に視察に行くんだよ」
茶髪、瓶底眼鏡、よれよれの服、眼鏡を落とした男……思い当たる節がありすきだ!
「ワルフリート・エメリッヒ伯爵令息。
先日は僕の落とした眼鏡を蹴飛ばしてくれてありがとう。
君が独特の香水をつけていてくれて助かったよ。
その強すぎる薔薇の香りは忘れたくても忘れられるはずがない。
おかげで声と匂いだけで犯人を特定できたから」
宰相補佐が口角を上げた。
彼の口元は笑っているのに眼が全然笑ってなくて、ボクは寒気がした。
「ワルフリート・エメリッヒ伯爵令息、君の香水の匂いがきつすぎることに、同じ部屋で働いている文官から苦情が出ている。
他にも、陰で君にブスと言われた、落とした万年筆を蹴り飛ばされた、お気に入りのペンダントを池に捨てられたなどなど……様々な苦情が寄せられているよ」
「そ、それは誰かが優秀なボクを陥れようと……!」
ボクが陰でしていたことが、全部宰相補佐にバレてる!!
「エメリッヒ伯爵令息、城は学園とは違うんだ。
君の三文芝居に騙される人間ばかりではないんだよ」
その時鈍く光った宰相補佐の目を見て、ボクは自分の順風満帆な人生が終わったことを悟った。
その後、様々な苦情が出ていたことを宰相補佐に追求され、ボクは生意気な新人を更生させる施設に送られた。
そこで一年間、地獄のしごきを受けることになる。
一年後、ボクが城に帰って来たとき。
宰相補佐は宰相に出世し、影が薄かったクッパー先輩は宰相補佐に大出世。
クッパー先輩はローレンシャッハ公爵令嬢と婚約し、順風満帆な人生を歩んでいた。
ボクは裏の顔が女性たちにバレて、女性から爪弾きにされている。
――終わり――
読んで下さりありがとうございます。
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最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
10話と11話だけ、後から後日譚のつもりで書き足しました。
色々と設定を忘れているところがあって、辻褄が合わないところがあったらすみません。
※感想貰えると嬉しいです。
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