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深淵の死霊姫④


「……?」


 キャラバンの天井。そして美しい魔女が丸い瞳を輝かせ、俺を覗いていた。


「フフッ……、お疲れ様。」


 左脚には奇妙な違和感が有った。身体を起こして理解する。木製の義足だ。


「久方ぶりにしては、善戦だったんじゃないのか?」


 善戦で片足を失くすのか……。


「片足で済んで良かったのかもな。」


 魔女エルノアはまた、俺の心を読んだ。嫌気がさして外に出る。アミテイル第6空洞、そこに倒れる少女の元へ。


「………。」


 血の気が収まらずに理解出来ていなかった。相手にしていたのは、こんなに可憐で、か弱そうな少女だったということを。俺は彼女の首巻とペンダントを取り、彼女が掘った穴へ彼女を運ぶため、その身体を持ち上げる。


「死体漁りとは良い趣味だな……。」


 キャラバンの戸の前で、エルノアが腕を組みながら言った。全くもって不愉快な魔女だ。


「……弔いだよ。……お前には、分からないかもな。」


「ふん。」


 エルノアは呆れた様に息を漏らす。もっとも確かに、俺にだって、自分の所業を理解出来てなどいないのかも知れない。ただ、本当に人の寄り付かなくなるであろうこの地のように、心の底にはポッカリと、穴が開いていた。



―――――――


{第1主要前哨基地・グランマ『探索ギルド』}


「最近レイスを見なくなったって……」


「あぁ。そうだな……」


 噂が流れていた。そんな噂が。エルノアによれば、俺は戦闘後、第6空洞のキャラバンの中で二日程眠っていたらしい、つまりこの地上は二日後の世界だ。レイスの消えた二日後の世界。もう皆、安心していいのだ。俺は酒場のテーブルで話し込む探索隊の男へ声を掛けた。


「もう大丈夫……」


 その時の、振り返った男の顔が忘れられない。目をひん剥き、俺の目を覗き込むようにしたその顔が、ずっと忘れられない。


「大丈夫……だと、いいですね。」


 俺はそう言い遺し、首巻を掴みながら、そそくさとギルドから出ていった。死霊姫を倒して以降、アミテイルのダンジョンには良い噂が流れていた。第7空洞の死霊が消えたという噂である。噂が流れた日を境に、アミテイルのダンジョンには多くの人が集まった。若い新手のシーカーを中心に、高難易度ダンジョンと謳われたアミテイルへの挑戦者が増えたのである。そして街は盛況を極めていた。しかし同時に、多くの探索者がダンジョンで死んだ。


「――必然だ。挑みし者の母数が増えたのだから。至ってそれは自明の理。」


「そうだな……。」


 俺は家族写真の入ったペンダントを開く。少女の名前は{テツ・アレクサンドロス}。やはり標的はアレクサンドロス家で、父親はガレスを崇拝したカルト教徒であった。詰まるところ世界樹のお告げは正しかったと言えた。


「君は良くやった。」


 エルノアが腕を回し、そう囁いた。そして木製の左足を叩き、指で撫でる。


「この義足は君の肉体と合成されている。つまり変えは効かないが、常人と同じように動く優れたものだ。無論、特殊領域でも稼働する。ボクからのプレゼントだ。」


「………。」


 エルノアはそう言うと、キャラバンに埋め込まれた木版へ手を触れ、サッと目を閉じた。


「ンフ……、さぁ行こう。次の旅だ。」










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