深淵の死霊姫②
「――アンタらが何者かは知らんがね、シーカーとは凡庸な冒険者クランの荒くれ物連中には務まらない仕事なんさ。奴らは探求のエリート、未開拓領域の進み方を熟知したほんの一握りだけがなれる役職。身の上の分からないやつには、簡単に教える訳無いさね。。。」
――――――
地底迷宮アミテイル。小規模都市兼、第1主要前哨基地グランマ(メインサバイバルベースキャンプ)。ここに住む婆さんの話によれば、アミテイルは大陸屈指の高難易度ダンジョンであるそうだ。しかし、まるで荒い運転の地下鉄道に乗っているような調子で、キャラバンは穴倉の中を悠々と進んでいってしまう。
{洞層ダンジョン・アミテイル}
第1前哨基地・グランマ
第2前哨基地→崩落により壊滅。×
第3前哨基地・サンドロス
第4前哨兼監察基地特区・ジーナ
第5前哨基地・アルタイ
第6前哨基地・レイス(幻の基地)×
第7前哨基地・パルマ
第8前哨基地・リミット
「崩落によって失われた2つの前哨基地の1つ、第6前哨基地レイス。噂では第7空洞と第5空洞の間に存在するそうだ。今では第5と第7は接続され、第6空洞は崩落の歴史に消えた。第6空洞に我らが狙う死霊姫がいることは確定的だろう。しかし、現在その第6空洞は第5空洞からの進入が計れない。」
エルノアは徴収した話をまとめていく。そういうのはキャラバンを進める前にするものだ。何を焦っているのか。
「じゃあどうするんだ……。」
「掴んだ情報によれば、第6空洞は第7空洞から戻る形で入ることが出来る。レイスの目撃情報も第7空洞が最も多発する。魔法を没収するこのダンジョンで、人類史の開拓者であるシーカーを襲う死霊姫は、ボクらの手で必ず潰すんだ。しゃんとしたまえ、ナナシ。」
「あぁ、分かってる。」
目的地までのガイドは、本当に魔女に任せて良さそうだ。
「世界樹の忌み史によれば、この先にいる死霊姫は今後、ガレス復活に必要な魔石を集め得る力を持つ。この情報が必要かは分からないが、第3前哨基地の名前で勘づいたことが有る。恐らく標的はアレクサンドロスの血筋だろう。マウスリィの悲劇で死んだ有力者の中には、ダリル・アレクサンドロスという西方の領主が存在した。彼は第3前哨基地の由来と成った人物だと聞いたろう?これは初めて伝える話だが、今から君が倒す四人は全て、マウスリィの悲劇で亡くなったものの血縁だ。」
……カルト信者の、遺族か。いや、それよりも注視すべきはアレクサンドロス家だという話。ウェスティリア魔術学院にいた同期らが束に成っても敵わないような名門貴族騎士の家系だ。その遺伝子は、生まれながらに武力の才を獲得し、男のみが生まれるという。言わずもがな、最高位の武人一族。
「もし仮にダリルに子供がいたとすれば、災厄の苗床はアレクサンドロスの血の元に有ろうと不思議ではない。この高難易度ダンジョンに居を構える潜在能力も、その経緯もな。だが敵も魔法が使えない。この環境下はそういった公平性も担保する。倒すんだ。何が有ってもな。」
そんなことは、言われなくても分かっている。しかし沈黙は時間を止めてはくれない。俺の心は次第に締め付けられていく。命を懸けた戦闘は、魔術学院では起こらなかった。つまり久しく始まるのである。本物の"殺し合い"というやつが。
「……着くぞ。第7空洞だ。」
時間とは無慈悲だ。巻き戻ることは無い。そして、人手及ばぬ階上の深淵に、必ず死霊姫はいる。