永遠の探索士
「んまんま。」
「え...」
「んまんま、うんま。」
ボロ雑巾のようになった俺の横で、そいつはカレーを貪っている。
「なんで......」
「んま。」
永遠の放浪者は俺の作ったキーマカレーの鍋に素手を入れて掬って舐める。
「エ、エルノアっ……!?」
「ん?」
そいつは俺に気付くと興味無さげに鍋へ視線を戻し、再びカレーを舐め始めた。
「エル、エルノッ、エッ」
喉に力が入らない。
「あの子はどこか行ったんよ。」
崩れた箱舟の天板に埋もれた四肢からは、天に登る植物が生えていた。どうにも声が出にくい訳だ。もうこの身体は、人の要素を植物が上回っていた。
まるで苗床。
「敗けたのか、俺は。ここまでやって……。」
ゴポゴポと血が喉から上って来る。随分と末期。声も掠れる。世界が淀む。瞼がゆっくりと落ちていく。
「まだ終わってないんよ。」
プーカは手を舐めながら振り返る。俺はその光景を必死に捉える。どことなく流暢。呂律が回っていて。先程までの狂人とは一線を画すような、彼女の様相。
「ただでは利用されんかったね。ボンボンは知ってたんよ。だからプーカに託した。記憶だけはほんもんだかんね。だからこの事実すらも天命になる。だからきっとわかってた。」
「何をワケの……」
「ならボンボンとはどっちが強いんかね。まぁでもきっとナナが勝つんよ。それよりどうせ死ぬんなら最期に人助けするんよ。プーカにもっとカレーよこすん。」
プーカは鍋を傾ける。ダンジョンではこまめに料理が出来ない。だから作った数日分のカレー。もう、ほぼ無い。
「へへっ。」
美味かったろう。俺に勝ったアイツらは俺に何かを与えてくれた。ならば、こいつより先に死ぬ俺は、コイツに何か与えるのが道理なのかもしれない。
「そっち、に……、ふっくら、した粒粒」
「――白いやつ?え、喰えるんこれ?」
「あぁ。」
「どうするん?」
「なべに、入れる、……まぜる。」
「はいよっと。」
プーカはいそいそとお釜の米をカレーを入れた鍋に傾け、素手で混ぜる。
「んんまぁああああああ!!!!」
どうやら食ったらしい。バカめ、一生その完成されたキーマカレーに恋焦がれ、素材の前で四苦八苦しながら野垂死ぬが良い。ははは。きっとお前みたいなガサツなやつに、世間知らずに、料理はできんよ。
「んま。ねぇー。ママって呼んでいいん?ナナ?これまた作ってん。」
「死んでも、やだ」
「じゃあ死んだら作ってん。」
「はは、ふざけるな。……俺はなぁ、お前探すのでもう疲れたんだよ。一体どれほど探したと思ってんだ。死んでも尚、わざわざ、お前に会って、なんで俺が」
「じゃあプーカが探すんよ。」
閉じた瞼の向こうで、声が近付いてくる。遠のく耳にも聞こえるように。
「次はプーカが探したる。どれだけ経っても、何処に居ても。」
寒気が身体を支配する。
「、……んのか?
「出来んよ。探すのは得意ねん。というかナナ達見つけたのプーカやん。」
「……
「出来んよ、ナナ。きっと出来んよ。……だってプーカは」
世界が終わる。
「探索士ねん」




