箱船の咎人②
気が付けば闇の中にいた。ただの闇では無い。背中越しに煌々と明るい何かが光っていた。振り返ればそれが分かる。クドイ程に眩しく輝く世界樹だ。それはこの世界の中央に聳え、世界を見守る存在。……ボクはただ、それを呆然と眺めていた。暫くしてボワッと明るさが増し、幹の中腹から清廉な女性が出てきた。ボクは彼女を知っている。あれは人ならざる者。そして世界樹そのもの。つまり、あの木の精霊だ。そして思い出す。ボクは罪人だ。
足元の木目には見覚えが有る。僕を捉える木製の動く牢屋が、四輪の付いた快適な牢屋が、パネルを倒すように四方に開いたものだ。ボクはあの日から、ここに囚われている。世界皇帝と呼ばれた鬼の少女が、カミサキ・サテラという英傑に敗北したその日から。そして悪鬼の支配から抜け出したその日から。
『罪人ノア。貴女の行いを確かめさせて貰いました。……三年かかりましたね?』
「はい………。」
『………しかし、三年かけて。貴女は貴女自身の手で、自らを縛る巨悪の根源を穿ちました。……これは、貴女の信頼を取り戻し、称賛と贖罪に値する行為です。……ノア。慈しみ深き我が子よ。私は世界樹の名の元に、貴女の罪を許しましょう。』
「え………?」
『………ですが。誰に操られていたとは言え、世界が貴女の罪を許す日は、遠い未来の話でしょう。ですから貴女には、現実世界で三年間の贖罪を果たしてもらいます。……それからは、自由にお行きなさい、願わくば"強き人"に守って貰いなさい。私からは……それだけです。』
精霊はそう言って静かに目を閉じた。そして光の届かぬ深淵の闇から、タンタンと、軽い足取りの少女が姿を見せた。
『頼みましたよ。我が英傑。』
世界樹にそう言われ、少女は「ハハッ」と笑って返した。
「あんのユグドラシルたんも、子ッ供には甘いんだね~?」
その声はチャランポランで、陰りから露わになったその顔は、太陽のように眩しい笑顔だった。
「――カミサキ・サテラだよ。三年間、よろしく頼む。」