絶対無双の狂戦乙女④
{レナルカ共和国『城下街の喫茶店』}
将軍エリザベス・アドスミスが死んで以降、度重なる進行を経て、アドスミス王国はレナルカ共和国により侵略された。街は壊滅、焼け野原となり、大勢が殺された。しかし、新聞の一面を飾ったタイトルは、アドスミスの技術力がレナルカの手に渡らなかったということだった。技術書は街の灰に混じって散ったのだろう。技術者は国外にでも逃亡したのか。俺は新聞を畳み、相席に座るエルノアの顔を見た。
「ここのスフレは最高だな。甘い。実にボクは甘味が好きだ。」
「そうか。奇遇だな、俺もだ。」
俺はフォークを手に取り、右手の指でクルクルと回す。
「義手は好調か?」
「見ての通りだ。」
俺はエルノアのスフレを削り、口に運ぶ。
「ちょっ、ボクのだ。君にはコーヒーを頼んだだろ?」
最悪のチョイスめ。
「コーヒーはダメなんだ。カフェインには不安作用が有る。摂り過ぎると心を壊す。」
「ゴミメンタルだな。」
「放っとけ。俺はこの手で、この短剣で、直接にも三人の命を奪ったんだ。そしてあと一人を殺した後に見える世界は、今と同じ平和な世界。俺はアルク・トレイダルを殺した時に気付いたんだ。この戦いには、見返りが無いとな。」
そう、現状維持こそ最大の成果だ。全くもって難儀である。
「何を言ってるんだ。ボクがいるだろ?可愛いボクが。」
――ベトリ、とスフレが机に落ちた。
「はぁ。はいはい世界一可愛いよエルノアちゃん。ちゅっ、ちゅ。」
俺は俯きながら、小声でそう言い放つ。
「キッ……モ!!」
死ねっ。
「口が悪い奴だ。」
ちらりと睨むと、エルノアはコーヒーを啜りながら言った。
「口にしてないだろ。何とも。」
俺は奪ったスフレを義指と親指で掴み、口に含んで言い返した。何故だか、義手より素手を汚したい気分だった。エルノアは眉をひそめて、溜息を吐いたあと、窓の外を見ながら言った。
「……君は、全てが終わったらどうする?」
「恋人と結婚する。」
そう言ってみせると、エルノアが眼を丸くした。
「……いないだろ?」
――いない。
「まずは告白からだな。失敗したらエルノアに乗り換える。」
「えぇ……、ボクは全然っ、無理だ。」
痛烈な返答。もう止めようぜこの旅。
「ん、まぁとにかく。……戦いからは身を引くさ。そしたらどうしよう。旅でもしようかな。」
「そうか、奇遇だな。一緒に来るか?」
エルノアは言った。俺は少し考えたフリをして、「あり。」と伝えた。




