絶対無双の狂戦乙女②
{戦争前夜・レナルカ野営地付近}
「杜撰な宿だったな。」
エルノアはそう言い、野営地から盗んできた地図を広げた。
「アドスミス平原から北東には、逃げるには都合の良さそうな森が広がっている。戦場は綺麗にぶつかれば北西のアドスミス軍、南東のレナルカ軍とで、この地図では斜めに二分されるだろう。」
エルノアは衝突の起こりそうな場所に、斜めに線を引いた。
「して、このキャラバンは神がかり的に強靭だが、無論壊れる心配も有る。君が狂戦乙女と事を構えている間、ずっと戦禍に置いておく訳にもいかない。だから君が対象と交戦を始めたら上空へ光弓を放つんだ。ボクは南西の丘隆から戦いを見ておく、それから独断で決着がつきそうと思ったら、或いは決着がつき二本目の矢を君が放ったら、ボクがキャラバンで君を拾いに行く。」
ツーと杖で矢印をなぞり、その線は南西の丘から北東の森へ、さも簡単そうに流れていく。
「そんなに上手くいくかね?」
「行くさ。キャラバンは全速力で戦禍を横断する。奴らは敵かも味方かも分からないだろう。君は近くにキャラバンを捉えたらアンカーガンを放つんだ。そうすればノンストップでその場を去れる。まぁ、馬よりも速度が出ている的だ。君が外せば頓挫する計画だがな。」
「なるほど。」
俺は地図上で狂戦乙女がいそうなポイントにクリクリと穴を開けて言った。
「最悪、速度を落とすさ。二回くらいはチャンスが有るさ。」
エルノアは伸びをしながらそう言った。しかし、安定を取るならもっと良い方法が有るはずだ。
「……エルノア、お前はこの戦争。どっちが勝つと思う?」
その質問にエルノアは膝を抱えながら答えた。
「十中八九アドスミスだ。レナルカは戦力推移も戦術も杜撰なものが多い。地の利もアドスミスに有る。」
俺もそう思う。
「なら狂戦乙女には気持ちよく戦って貰おう。」
「ん……。つまり?」
「――レナルカが全滅するまで消耗させるんだ。後は、俺と狂戦乙女がサシで戦う。決着がつけば後ろに待機させたキャラバンにアンカーガンを撃って離脱する。」
そう言うと、彼女は呆れた様に溜息を一つ吐き、応える。
「あのなぁ、そんなに上手く行くと思っているのか?」
だが俺には確信が有った。
「絶対乗って来る。特段俺が少し貶してやれば、赤髪を逆立てて勝負してくる。相手は武人だからな。問題は恐らくその後、多大な軍勢から撒けるかが焦点。そこはまぁ、光弓で牽制しつつだ。」
「一対一の勝負に乗って来なかったら?」
エルノアは眉をひそめてそう聞いた。
「全員殺すさ」
俺は淡々と答える。自信、というよりかは、この力を振るってやりたいという”衝動”を抑えながら。




