絶対無双の狂戦乙女①
「狂戦乙女はアドスミス王国の第4王女と記されてある。奴は自身で鍛えた武器や武装を用いて、破壊的な力を有しているそうだ。」
エルノアはトマトパスタをクルクルと巻きながら話す。旅をし始めてからはずっと彼女が料理を作っているが、パスタとチャーハンしか出てこない。パスタとチャーハンしか。
「チャーハンなら世界一のを作れるぞ。飯に現を抜かすな、ナナシ。」
「チャーハンにプライドを持つな。お前は男子中学生か。」
ふいっと顔を背けたエルノアを横目に、壊滅させた暗殺者隊の荷車から拝借した新聞を、義指の先でめくる。大陸きっての暗殺者との戦闘で失った指先が、新聞をめくるたび、何故だかピリッと痛んでいる。
「幻肢痛か。」
「なんだそれ」
俺はエルノアの言葉を流し、余した手に掴んだフォークでパスタを口に運ぶ。
「話を戻すぞ、ヴァルキリーはこの旅で一番厄介な相手となるんだ。」
「素性が分かれば”集団戦力”か、もう俺たちの手に及ぶ相手じゃないだろ。」
俺の溜息にエルノアが言葉を返す。
「そうだな。だが、君がやらなきゃ誰がやる?誰の手が空いている?そんな都合の良い人材がいれば、初めからボクらに用は無いんだ。いいかナナシ。彼女の力は大陸の脅威なんだ。厄災のシナリオにそのまま沿えば、死霊姫と彼女らは背中合わせの戦い方をしていた。つまり裏では死霊姫が、表では狂戦乙女が、カルトの部隊を牽引し災厄を引き起こす。そこにガレスが復活したなら、確定的な終末は免れない。災厄の苗床は、例え一人で有ろうと必ず脅威なんだ。」
エルノアはパスタの置かれた机をパンパンと叩いていった。俺はカチャカチャとなる皿を手に取り、パスタを片手間に巻く。
「あぁーあ、……分かってるよ。じゃあどうするんだ。今度の相手は一名家の行商人なんかじゃない。本当に国を相手にするようなもんなんだ。」
往々にして思う。このパスタ、意外と美味い。
「ふー-ん。そうだろ。……いやいや、じゃなくて。――そうだな。だが今回は良い作戦が有る。」
「本当かな~?」
ズルズルとパスタを啜り、イカリングにフォークを刺す。海鮮トマト、旨味強め。
「アドスミスは今、隣国のレナルカ共和国と戦争状態にある。武力衝突は日常茶飯事だ。逆に言えばそういった環境が狂戦乙女を産み落としてしまったとも言えるが、幸いにも奴は最前線で敵を蹴散らす様に戦ってくれる。この状況は大いに利用できる。」
戦争に乗じる訳か。問題はサシの勝負にならないこと。
「しかし、ボク自身は{苗床}さえ死ねば、その他の被害など気にも留めないが、健全な大義の為には狂戦乙女だけを……」
何を今更。
「――全員殺るさ。邪魔する奴は。」
エルノアは「そうか」と呟き、音を立てず綺麗にトマトパスタを口に運んだ。
「ふむふむ。……やはりイケるな。」