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第9話 遺物(3)

「なあ、荒戸。女の子と一緒に夜を過ごしたなんて、ドキドキするよな」

 耳元で三船が思いもよらぬ言葉を囁く。

 席についた時から嬉々とした表情をしているなとは思ってはいたが、そのようなことを考えていたとは思いもしなかった。


 それにしても、内容はそれとして何で小声?

 一瞬そう訝ったが、それが何故かすぐにわかった。

 俺たちの陣取る席の真向かいに涼宮と羽峰が座ったからだ。


 なるほど、三船。それは斬新な考え方だ。

 確かに学校の女子生徒たち、それもクラスが同じ女子とひとつ屋根の下で寝るなんて、林間学校や修学旅行くらいしか機会はないだろう。

 女子、特に羽峰にこのような話を聞かれたらマズい気はするが、場をわきまえず俺にその気持ちを共有したい気分はよくわかる。


 そう思った俺は、三船へとアイコンタクトを送った。彼もそれに反応し、目配せを返してくる。


 このようにお互い透明人間である三船と俺の間では、言葉を交わすこともなく一種のテレパシーと思しき通信が可能だ。

 

 そんな彼が、今やりたいことはこれしかない。

 この環境下にいるだけで、もしかすると何かあるんじゃないかというイベントが期待できる。もちろん、俺たち透明人間はそれに絶対関与できないことだろう。

 だが、それを妄想することはできる。

 つまり、彼がやりたいことはそのただひとつ。今からふたりで妄想を用意して後で俺と共有することだ。


 俺と三船がそのようにニヤニヤしていると、何かに勘づいたのかジロリと羽峰が冷徹な視線を送ってきた。

 ビクッと身体を震わせる俺と三船。オレンジジュースのストローを咥え、どこか違う方向へ顔を背けようとした。

「どうしたの? ふたりとも。何かあったの?」

 羽峰が尋ねてきた。

「いや、その……みんなで一緒に寝……」

 三船が馬鹿正気に答えようとした。

 すぐに俺は彼の腹を肘で突き、その先を静止する。

「寝る? どういう意味なのかしら?」

 羽峰は鋭い質問を重ねてくる。

「委員長。寝るとは言ったけど、それは僕と荒戸の話でそういう意味じゃ……」

 三船はしどろもどろになりながらそう言うと、涼宮の方へと目を一瞬向けた。

 まさか涼宮も……

 そう思ってそろそろと彼女の方をうかがったが、我関せずといった感じでパンを頬張っているだけだった。

 ということは、未だ目を細めて俺たちに向けている羽峰の疑念を払拭するだけで良い。

 そうして、俺が彼女に対し何かを画策しようとした矢先のことだった。


「はい、みんな。聞いてくれ」いつの間にか食堂中央にいた二階堂が大声でそう呼びかけ、皆の注目を集める。「今からメンバーを募集する。興味のあるやつは是非手をあげてくれ」


 突然の申し出に何事かと、食堂内でざわめきが起こった。

 その様子を見た二階堂は、満足げに辺りを見回し、肝心の内容をいつまでも述べようとしなかった。


「二階堂先生、何のメンバーを募集するつもりなんでしょうか?」

 たまりかねたのか、羽峰が手をあげ質問した。


「おお、羽峰。そうか、手をあげてくれるのか」

 二階堂はそう感嘆の声を漏らすと、俺たちがいる座席まで駆け寄ってくる。

 彼の行動に対し、羽峰が怪訝そうに眉を顰めた。

「で、何のメンバーなんですか?」

 たどり着くなり、もう一度確認する。

「何のメンバーって決まっているじゃないか、羽峰」二階堂は、テーブルの上に手を置き言う。「もちろん、モンスターハントだ。遺物も探窟できたりするぞ。落ちているのもあるけど」

 そう説明し終わると、白い歯を見せた。

 次に、彼女の周囲にいる俺たちにも、目配せで合図らしきものを送ってくる。

「ちょっと、先生。違うでしょ。あれはどう見ても動物の一種じゃない」

 三年の松宮瑞穂が二階堂に並びかけながら、そう声をかけた。

 食堂にいることは認識していたが、彼女の身体が間近にくると、俺の心臓は自然と鼓動の速度を速めた。

 一方の瑞穂は、額から汗を流しかけている俺へと冷たい視線を送ってくる。

「それもそうだな、松宮。でも、あれは動物とみんな思わないんじゃないかな」

 二階堂が瑞穂へと顔を送りながら言う。

「だけど、先生。モンスターっていうのはおかしいと思う」

 俺から目を切り、瑞穂はそう言い返した。


 ふたりが何を話しているのかは不明だが、ハントというからには何かしらの狩りのようなものをこの世界で行うということなのだろう。

 それより気になるのは二階堂による勧誘の台詞一部に出てきた遺物についてだ。

 探窟、落ちていると一見相反するような言葉をそれに対し彼は述べていた。

 キャンセルが使った遺物とどういう関係があるのだろうか。

 電気やガスを賄えるレベルの物が道端に落ちているとは到底思えない。それにも増して、土の中に埋まっているなどは考えるに値しないことのようにさえ思える。


「なるほど……それはそうかもな。まあ、そんなことはいいとして。羽峰。手を上げてくれたのはきみだけだ。先生は嬉しいぞ」

 俺の考察を遮るかのようにそう言うと、二階堂は羽峰の肩に手をおいた。

「え……」

 と、羽峰は声を失う。

 彼女がこのような態度を示すのは、彼女に出会ってからこの半年一度も見たことはない。

 そして、この場にいる全員が一様に困惑の表情を見せる中、二階堂は告げる。

「では、行こうか。羽峰――きみたちの冒険の始まりだ」

 

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