09 (お守り-アミュレット‐)
「よっ来たなぁ」
時刻は 9時…的射銃砲店の営業時間の始まりだ。
「早速だが良いか?」
銃の調整に来たナオが マトイに言う。
「良いでぇ…てか調整には 3時間位ぃ掛かるから ハヨしよかぁ…。」
「分かった。」
「さて、まずは これ…ナオのじいさんから送られて来たで…まずはこっちからやぁ…。」
受付のテーブルに置かれたのは 今日 調整して貰う ウージーマシンピストルと、6発式のリボルバーだ。
「おお…じいさんに貰った銃だ。」
神崎家は 山奥だった事と じいさんが狩猟をやっていた事もあり、オレは10歳の時に野生動物からの自衛の為にリボルバーの使い方を教えて貰っていた。
「銃登録はぁ、済ませてあるぅ…。
何んか、オリジナル銃みたいでぇ、申請にぃ登録用の名前がぁ必要なもんでぇ…テキトーに こっちで決めといたわぁ」
「オレは ずっとリボルバーって普通に呼んでいたけどな…。
で、コイツの名前は…。」
「アミュレット…アミュレット リボルバー」
「アミュレットか…気に入った。」
「そんで、この銃はぁ 完全にぃ子供用にぃ 調整されてるぅ…。
オリジナル銃に なったぁのも ナオに合わせたぁからやな。
相当、使いやすく なかたかや?」
「まぁ 多少反動がキツイ位で、両手でしっかり持って構えれば ガキでも普通に撃てたからな。」
「そんで…弾はぁ?」
「45スーパー」
45口径弾の中では 一番威力が高く、ある程度の大型動物にもダメージを与えられる。
「45スーパーACP弾、ユキナと同じぃか…36発出すからぁ とりあえずぅ6発だけぇ撃ってみぃ…。
手のサイズも 変わっているぅだろうからぁ…。」
「分かった…。」
タブレット端末の書類にナオが サインをし、イヤーマフを耳に付け、防弾ベストを着て 弾をベストのポケットに入れ、愛用のホルスターごと マトイから リボルバーを受け取って右腰に装着…。
シューティングレンジで弾を装填し、再度ホルスターに入れる。
「良いか?」
ウチは ナオの斜め後ろに付き、腰を落として銃を抜く姿勢になっている彼の後ろ姿を見る。
「ブザーがなったら、6発 撃ちぃ」
「OK…。」
ブーーッバババッ。
「は?」
瞬時に6発を撃ち終わり、ウチは タブレット端末でハイスピードカメラによる リプレイを見る…。
0.5秒でリボルバーをホルスターから抜いて 腰で構え、その後 1発0.3秒で敵に向かって撃っている。
しかも、10m先の的に 真ん中では無い物の 全弾命中している。
「……2.3秒…。」
後0.3秒…一般的に この条件で 2秒を切れば 実銃の大会で好成績を残せるレベルになる。
「うん良いタイム…」
ナオが満足そうに言う。
「ガンマン撃ちぃかいなぁ~。」
開拓時代のガンマンは 銃弾が黒色火薬なのと 銃自体の命中精度が良くなかった事もあり、構えるまでの時間を短縮して、弾を出来るだけ早く相手に撃ち込むと言うやり方が主流だった。
ナオの撃ち方は このやり方で、ガンマンと同じく 長年 同じ銃で撃ち続けて来た経験から、弾道をある程度 予想 出来るレベルになっている。
「緊急時は 相手との距離が そんなに離れていないから、ロクに狙わずに最速で全弾叩き込む。
それが一番生存率が高いってじいさんが言っていた。」
「そりゃそうやけどぉ…。
よし、空薬莢を、網ん中ぁ入れてぇ銃を見せぇ」
「残弾確認…OK…」
「よし、トリガー位置は と…」
ウチは メジャーを取り出し、グリップからトリガーまでの位置を測る。
「16㎝やなぁ…手ぇ出し…こっちはとぉ…18cmかぁ…。
トリガーのベストポジションからぁ2cmもズレてるぅ…。」
「ベストポジション?」
「指の腹や…具体的ぃ言うならぁ…指紋部分の中心やなぁ…。
こん部分でぇトリガー抑えてぇ第二関節部分を動かしてぇ真っすぐ引くんがぁ…銃の基本。
それは知ってるやろぉ」
「ああ…。」
「そんで、こん銃はぁ 手首から指の先までがぁ…16㎝で調整されてるぅ。
で、今はぁ指が成長してぇ18㎝…。
ハイスピードカメラの記録を見ぃ…2cmズレた事でぇ、指の第一関節辺りでトリガー 引いてるぅ。」
ウチは ナオにタブレット端末の映像を見せる。
「あ~確かに…まぁこの銃 撃つの何て、3年ぶりだったからな。
後、トリガーが 軽くなった気がした。」
「指ん筋力も上がってる んだろうしなぁ…。
それとぉレーザーサイトもぉ付けて置くでぇ…。」
「レーザーで 敵に位置を知られないか?」
「スモークでも焚かん限りぃレーザーは線に見えへん…。
空気中にぃ反射するぅ物が無いんと見えへんからなぁ…。
目に直接ぅ当てん限りぃ赤い点にしか見えん。
まぁ相手が 暗視装置使ってるならぁ…見えるんやけどぉ…。
それもトリガーに指を掛けたタイミングで作動する様にすれば 問題にならへん。」
「分かった…。」
「そな…調整に取り掛かるでぇ…。」
ウチはそう言うと 奥に行き、工具箱を受付に持って来た。
ナオの目の前で マトイが リボルバーを分解して行く。
オレは近くにあった折り畳みの椅子を受付の前に持って来て座る。
「やっぱ 良い銃やなぁ…。」
マトイがそう言い 分解して行く。
「そうなのか?」
「まぁな…トリガー位置はぁ 変えられる様にぃなっているしぃ、トリガープルも変えられるぅ…。
明らかにぃナオの成長に合わせてぇ 調整出来るよう 組んであるぅ…。
しかもぉ パーツに使われている素材がぁ、炭素鋼で、パーツ事にぃ炭素含有率が違う…普通、ここまでせぇへん。
一緒にぃ送られて来たぁ銃の設計図にぃ…合金の比率ぅ…造ったぁ 合金屋の名前までぇ描いてあるぅ…。
補修パーツの素材はぁ こっちにぃ頼む事にぃなりそう なやぁ…。
とは言えぇそこまで、パーツが消耗するかぁ怪しいがなぁ…。」
「う~ん 全く分からん。」
「やろな…。
簡単にぃ言うならぁ…設計図レベルで ナオ個人の為に造られてぇ、軽くする為ぇに 高級素材を惜しみなく使っているぅって事や…。
しかも その素材のお陰でぇパーツの消耗がぁ限りなくぅ少ないぃ…。
多分、ナオが引退するまでぇ使い続けてもぉ…簡単な掃除とスプリングの交換だけで 済むやろうな…ほんと 芸術品やな。」
マトイの目が 有名絵画を見た人の様に輝いている。
「まっオレには 芸術はサッパリだが、金掛かっているから大切に使えって事だな…。」
「そ…よしぃ出来たでぇ、残りの弾ぁ撃ち込んで行きぃ…。」
「ああ…助かった。」
オレは アミュレット リボルバーを受け取り、ホルスターに入れてシューティングに行く。
ブーーッバババッ。
「2秒…まだ行けるか…。」
ブーーッバババッ。
「1.98…」
レーザーサイトを付けた からだろうか?
リボルバーの前が重くなり、45口径の跳ね上がりが軽減されている。
狙いも付けやすくなり、弾の集弾率も高い。
あ~理解出来た…コイツの性能を…確かに良い銃だ。
コイツとなら、どんなヤバイ状況でも 最速で銃を抜いて敵を撃ち抜ける。
それを確信出来るだけの性能をコイツは持ってる。
弾数の問題から メインで使うには 心持たないだろうが、危ない時のお守りとして使うなら、これが一番信用が出来る。
「はっや…」
マトイは ナオのタイムと銃の精度が上がった事に驚く。
ハイスピードカメラで見ても問題無し…ウチが調整した事で、ナオの真の性能が見える…。
そして、ナオは ホルスターを左腰に付け直し、左手で抜いて撃つ…右手は使わない片手撃ちや。
これは 右手にウージーマシンピストルを持っていると言う想定なんやろう。
「おっと仕事、仕事」
ウチは そう思い ストック無しのウージーマシンピストルの分解作業を始めた。