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04 (亡命する技術者)

「あ~面倒だな…。」

 とは言え、これを放置すると 経験上より面倒な事になる…夏休みの宿題と同じだ。

 ミハル()は そんな事を思いながら エアトラでミハル警備の作業塔にエアトラを着陸させて電源を落とす。

「お帰り」

 退避用の階段のドアを開けると、A部隊のメンバーが迎えに来ている。

「ただいま…仕事だ。

 それも かなり厄介な…ただ やりがいは あるかな。

 詳しい話は 的射銃砲店で話す」


 的射銃砲店。

 私は 今回の任務に参加するA部隊を的射銃砲店に集めてテーブル席に座らせる。

「さてと…依頼内容を説明する。

 今回の依頼は 要人の亡命への手助け。

 つまり、対象を護衛しつつ国外逃亡させる訳だ。

 依頼料は2億…前の1億5000万を越えちまったな」

 普通、武装警備会社に この金額は明らかに法外なんだが、今回の任務の都合上、多いとも言い切れない。

「よく 武装警備員にそんな金を出すな…。」

 正面に座っているナオが言う。

「仲介手数料を払って、専門の殺し屋を雇うより まだまだ安いからな。」

「そんなにかかるのか…」

「ようは 向こうは ウチの会社の確実性を買っている訳だ。

 ウチは 顧客満足度は業界トップだし…。

 とは言え、相場が多くても1億のウチの会社に2億を積むって結構 異常なんだよな。

 まぁ仕事内容から見れば妥当な金額なのだけど…。

 さて…話を戻すぞ。

 逃がすのは、スーパーコンピュータ開発者である佐藤正義(さとう まさよし)博士。

 現在 この博士は、アメリカ、ロシア、中国の最低3国から狙われている。

 彼の創ろうとしているコンピューターのスペックを手に入れれば、世界の覇権を握れる力を手に入れられる…つまり、彼の重要度は 大量破壊兵器の類より上になる。

 実際、彼の為に核戦争を仕掛けたとしても、手に入れさえすれば 採算が合うと各国の政府に思われている。

 出方次第では 世界大戦にも発展するな。」

「マジか…。

 この仕事を達成すれば、オレ達 世界を救ったヒーローじゃないか?」

「表に出せないけど、間違いなく英雄だよ。

 これに対して アメリカは穏便に彼を引き抜く為に契約金で 既に100億円を提示している。

 中国とロシアは 現地の工作員を使い、彼の拉致、もしくは 敵国に技術が渡らない様に暗殺する事が想定されている。」

「100億か…ちなみに日本は?」

「手取りで月給25万、しかも契約社員だな。」

「うわっ…世界を変える重要人物が オレより待遇が低いのか…。」

「まぁ技術者を(ないがし)ろにするのは この国の特徴だし…。

 実際、調べて見たら 研究費がかさむのに 予算が一向に降りず、研究員の給料すら危うい状況だった。」

 普通、技術者への資金投入は 国の未来を決める重要な投資だ。

 なのに日本は、重要性を知っていた上で彼を(ないがし)ろにする。

「だから水増し請求と脱税をしたのか?」

「と言うか 国のトップが スパコンの予算を中抜きしていたんだよ。

 だから現場に入って来る予算は これより圧倒的に少なかったはず…多分、やらかした責任を博士が被ったんだろうな。」

 この業界じゃよくある事だ。

「まぁ中抜きも この国の伝統だしな。

 それで、中国とロシアの工作員を突破してアメリカに引き渡すのか?」

「いや…亡命先はトニー王国だ。

 トニー王国は、西側にも東側にも組さない中立国だからトニー王国でスパコンの研究を完成させて、両陣営に技術を渡すのが一番良いと佐藤博士が判断した。」

「となると、スパコンの覇者はトニー王国になるのか…。」

「そう言う事…博士をあの国に送れば、他の国との共同開発って言う手も使えるから…」

「トニー王国に世界を任せて良いのか?」

「さあな?でも一番マシな選択かな…。

 取りあえず、今は ここまで覚えてくれれば良い。

 詳しい段取りは、これから決める」

 竹島を出てから まだ一日も経っていない。

 これから、警備の穴を見つけて 佐藤博士の救出計画を立てないといけない。

「警察を襲撃しに行くのか?」

 ユキナが言う。

「いや…可能な限り死者は出したくない。

 作戦はこれから立てる。

 それじゃあ、A部隊は射撃訓練をやって後は、ユキナに任せるよ」

 取りあえずは訓練…絶対に銃は使うだろうからな…。

「了解…負荷を少し下げとく。

 アタシの新しいパイロットスーツは?」

「持って来たよ…後で着てみると良い。」

 撃たれたユキナの使用済みパイロットスーツは、竹島に持って行き、現在 解析中だ。

「了解…」

「そんじゃあ、頑張りましょうか…」

「はい」

 皆が元気 良くそう言い、私は作戦を立てに社長室へと向かった。


 翌日…夕食前。

 ミハル警備、寮…談話室。

「う~ん…確実性が低いな…。」

 私がタブレット端末を見ながら言う。

「なんだ まだ作戦に悩んでいるのか?

 もうメシの時間だぞ」

 ナオがやって来て言う。

「あ~作ってない。

 今から作る…よっと…」

 私は立ち上がりキッチンに向かう。

「やっぱりエアトラで刑務所の上から懸垂下降(ラペリング)で突入か?

 日本の刑務所では基本銃の携帯はしていないし、武装は催涙スプレーと警棒。

 牢屋も鉄製だから テルミットや、バーナーを使えば 簡単に融かせる…爆薬で壁に穴を開けるのも良いな…。」

「良く知っているな」

「ブチ込まれるはずだったからな…。

 それで、能力的にもA部隊の技量なら簡単だと思うんだが…」

 私は鍋に水を入れて火にかけ、ナオは カウンター席に座って私に言う。

「刑務官の犠牲を考えなければね…。

 ただ、これをやった後の警察、日本政府の出方が地味に怖い。

 国は自分達のちっぽけな プライドを守る為なら、戦争も法律違反もするからな。

 だから、各国のプライドを傷つけずに負けさせないといけない。

 何か案はあるか?」

 無洗米と水を炊飯窯に入れてそれを 炊飯器に入れフタを閉じてスタート。

「う~んそうだな…。

 今回の亡命って、博士が日本で犯した犯罪の容疑は問えるのか?」

「亡命したからって言って、罪状が消える訳じゃない。

 だから 亡命者が帰国したら普通に捕まるな。

 ただ、亡命した国が犯罪者の引き渡しを拒否してくれるから、実質 許されている感じか?」

 冷蔵庫から野菜を取り出して 切り分ける。

「そうか…なら、こっちが裏で博士の脱獄の手伝いをして、後で回収した方が良いんじゃないか?

 全部 博士が悪いって事にすれば どの組織も痛まない。」

「ふ~ん…あっ…そっか…確か 佐藤博士は前科が無かったよな。

 と言う事は一時的な保釈が可能か?

 となると その期間中に 亡命させれば良いのか…。」

 力ずくでの奪還を考えていた私からしたら結構 盲点だった。

 やっぱり人に話して、情報を整理するのは 新しい発想が得られて良い。

「それは逃走罪になるのか?」

「いや…逃走罪は 刑務所からの脱獄で掛けられる罪状。

 裁判を受ける前の保釈中の逃亡は 警察が逮捕出来ないから 検察庁が担当する。

 検察は基本的に非武装で、万年 人手不足だから、逃亡者を捕まるまで何年も掛かる場合もあるとか…」

「なら前科も付かない訳だ。」

「だけど、結構な額の保釈金が吹っ飛ぶ事になるな…。

 そもそも この事情を知っているやからが 保釈を認めない可能性すらある…そこは 高い弁護士雇って交渉かな…。

 まぁ金で解決出来れば安いか…問題は赤字にならないか なんだけどな。」

 私は炒め物を作りながら言う。

「そんなに金が掛かるのか…」

「正直、工作員なら ともかく、各国の特殊部隊が本格的に投入されたら勝ち目がないからな。

 金は十分に掛けないと…。」

 A部隊は パイロットスーツなんかの補助を付ければ、特殊部隊としても一応やっていける性能になる。

 が、当然ながら長年の経験から来る索敵能力は身に着けておらず、基本索敵はセンサーによる機械式…。

 なので 一番 重要な初撃を特殊部隊側に決められて頭を撃ち抜かれてしまう。

 その為、非常に相性が悪い。

「生きて帰れるのか?」

「まぁ…撃たれるリスクは 今までの通り、ヤバくなったら敵に投降しちゃっても構わない。

 後で政治的に取り戻せるから…死なない程度に頑張って」

「分かった」

 ナオはそう答え、皆が夕食に集まってきた。

「あ~もう少し待ってて…今作っているから…」

 方法は決まった…後は、その方法を実現させる為に裏工作をして行くだけだ。

 私はそう思いながら料理に集中した。

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