03 (国家機密技術者)
ミハル警備、寮、談話室。
業務時間が終わり、ハルミが寮に入ると談話室のソファーにナオが座って 今日もテスト勉強をしている。
ここ最近は ずっとそうだ。
高校の試験まで残り1ヵ月だからな…。
「ナオは本当に真面目だな」
私がナオの姿を見て言う。
クズの集まりであるウチの従業員の中でも ナオのキル数だけは 異常なのだが、その前科には似合わない位にナオは真面目だ。
「貰った機会は有効活用しないとだからな。
ただでさえ内申点は最低だし…。」
ナオはタブレット端末で勉強しながら言う。
「公式にはナオは前科者では無いし、スマホの持ち込みがOK。
今の成績から言って余程の事が無い限り合格はするだろうに…。」
「その余程に備えているんだ。
ミハルも死者を出さない様に大金を はたいて装備を使うだろう。
しかも実際にユキナとオバサンが撃たれて役に立った。
こう言うのは 少し過剰な位が丁度良い」
「まぁそれを言われると納得するしかないんだが…」
私はそう言いつつテレビを付ける。
テレビではニュース番組がやっている。
今ではネットで確認も出来るが、やっぱりまだ世論を作り出すのはテレビだ。
都合の良い様にテレビ局により情報が加工されているとは言え、まだ価値がある。
とは言え、私にとってテレビのニュース情報は日経平均株価指数の放送より価値の低い訳だが…。
私はスマホを見ながら流し聞きを始める。
『スーパーコンピュータ開発者である佐藤正義博士が 本日午後2時に詐欺の容疑で東京地方検察庁特別捜査部に逮捕された事が警察からの発表で判明しました。
警察の発表では 佐藤容疑者は、おおよそ2億円の水増し請求を行って政府から助成金を騙し取り、また 法人税2億3000万円を脱税していた容疑も掛かっています。
これに対して 警察は、佐藤容疑者に更なる余罪があると見て、捜査を進める方針です。』
テレビのナレーターが淡々と原稿を読み上げる。
「あららら…こりゃあマズイな…」
私はテレビを見ながら言う。
「佐藤正義って シンギュラリティ コンピューターを作ろうとしていた人だよな。」
ナオがタブレット端末から顔を上げて言う。
「良く知っているな…。
そう…次世代のスパコンを設計する スパコン…シンギュラリティコンピューターの開発する人だ。」
マジで歴史の偉人となる人だ。
「また技術者を潰して、海外に技術を流すのか?
前もファイル共有ソフトで金子さんが捕まってたし…あれも今では革新技術だった訳だけど…。」
「まぁお国柄しょうがないんだろうけど。
この人の場合、1エクサのスパコンを作らせた国が地球の覇権を握れる国家機密技術者だからな…。
普通なら国から出して貰えないし、海外に技術が渡るなら殺される事も普通にある。」
「そんなに そのコンピューターは凄いのか?」
「ああ、そうだな スパコンが設計した3代目と1代目のスパコンでは 桁外れにスペックが違う事になる。
つまり、最初にコンピューターを作って進化させ続けた国があらゆる面で有利になり、他の国が技術の後追いをしても絶対にスペックで負ける事になる。
あらゆる新技術を開発して 特許をいち早く取って新商品を売り、ハッキング なんかも今では 投入している演算リソースが重要になっているから、不正アクセスし放題。
開発力の爆発的増加に、新技術の開発と大量の特許、世界の市場を独占する商品の開発。
で、それがコンピューターが進化し続ける限り 永遠に続く訳だ。
さて、どれだけの利益を産むんだろうな。」
「それを自ら捨てちまうのか この国は…。
流出先は 中国かアメリカか?
過去に千人計画で、国家主導で先端技術を流していた実績からして中国か?
軍関係ならアメリカだろうが…」
ナオは 一切、日本が技術を独占する気は絶対無いと確信してやがる。
まぁ私も同じ意見な訳だが…。
「あ~キナ臭くなるな…あ~来たよ」
私がバイブレーションするスマホを見る…竹島のトニー王国 大使館からだ。
私は嫌な感じをしつつ電話に出る。
「はい…お電話ありがとうございます。
ミハル警備です。
あ~そっすか…了解…はぁ…」
私は大きなため息を付き、電話を切った。
「また仕事?」
「ああ、竹島のトニー王国大使館から…」
「大使館とも繋がりを持っているのかよ…顔 広いな…」
「あまり広くても嬉しく無いけど…トニー王国はスポンサーの1つだしな」
「依頼か?」
「多分な…ケータイの回線を使わないで直接話すって事は面倒な事になるのは確実…。
さてエアトラで行って来る…食事はレーションを食ってくれ」
「分かった…とは言っても、8時までに帰って来れないよな。」
今は午後6時45分…この付近の住民との騒音問題で、午後8時から午前8時までは 緊急時以外 飛行禁止になっている。
「多分泊まりだろうな…ゆっくり話してくるよ」
私はまた面倒な事を押し付けられるな…と思いつつ、作業塔の屋上のエアトラに乗り、また竹島まで向かった。