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02 (逃がし屋)

 土曜 深夜…。

 普段は通行量が減る時間帯なのだが、峠下のセルフガソリンスタンドでは、車の列が出来、ガソリン、ハイオクがバカ売れする。

 燃料を入れた車は 軽快なエンジン音が鳴り響き、自分の車を見せつける様に車が峠を上って行く。

 カーブ地点には 見物人が集まって来ており、カメラを構えて撮影を行っている。

 マシロ()は 軽自動車のスポーツカーの後ろに付き、ドリフトをせずに大人しく減速して、カーブを確実に曲がって上がる。

 私の軽トラに対して 見物人の反応は、色々だ。

 笑って私の軽トラをバカにしたり、見た目が軽トラなだけの中身が化け物の車だ。

 とか、中には銀色妖精と呼ばれている私を知っている人までいる。

 私が走り屋になったのは、1980年…。

 70年代の暴走族が主流だった時代から、公道でスピードを競う 街道レーサーが増えて来た時代で、これが名前が変って走り屋と呼ばれる様になった。

 何と言うか、私の見た目に反して この中で 一番の走り屋 歴が長い古参ドライバーだ。


 私の軽トラが峠の頂上にたどり着く。

 峠の頂上には 大きな駐車場がありに、既に大量の車が集まって来ている。

 車のメンツを見ると値段の高いスポーツカーが明らかに少なく、今の主流は軽自動車だ。

 この国の意図的な経済停滞により、自動車ユーザーの所得が低下…新規ユーザーは、本体代や税制面に有利な軽自動車を多く求めた。

 まぁAE86(ハチロク)が流行った様に、新規ユーザーが性能より 安価な車を好むのは いつの時代も変わらない。

 とは言え、今では そのドライバーも金がカツカツで、若者世代が少なく、走り屋は 中年、高齢が主流の構成だ。

 そのままだと、2020年~2025年までに走り屋が消滅し、そのスポーツカーの国内需要の減少は スピードより安全性と燃費に重点を置いたファミリーカーしか製造しない自動車産業になって しまうだろう。

「後進の育成をしたい所ではあるが、肝心の人材がいないんだよな~」


 私は軽トラを降りて、外に出る。

「キミが外環の銀色妖精か?」

「そうだ。

 今日は楽しませて貰う。

 良いだろうか?」

「ああ、構わないよ…お手並み拝見と行こうか?

 ここの ルールは?」

「知っている…ここは タイムアタックだろ。

 追い抜きは無し…車間時間は?」

「10秒…順番は 後でこっちが指示する。」

「了解した。」


 現在 主流のレースは、追い抜きをしない タイムアタックレース。

 これは、先頭から間隔を空けて スタートして行き、ゴール時のタイムを競う物。

 ここは 上り下りの合計2車線…後もう0.5射線でもあれば 安全に抜けるんだが、危険な追い抜きをして十が一ミスした場合、ガードレールを突き破って、崖の下に落ちる…実質 死亡だ。

 なので、医療費、修理費、何より自分の命を賭けてまでやる人はいない。

 まぁ三車線以上の高速だったら追い抜きレースもまだやっているのだが…。


「3、2、1、GO!!」

 峠に心地良い風が吹き抜け、1列に並んだ30台の車が10秒間隔で次々とスタートをして行く。

 10秒事に私達の車は前進をし、前を詰めて行く。

 列が残り僅かだ…。

「GO!!」

 前の車がスタートした、私は軽トラを スタートラインまで車を前進させる。

「5、4、3、」

 私はブレーキを強く入れたまま、アクセルを踏み、タイヤを空転させて摩擦熱でタイヤに熱を加え、グリップ力を高める。

「1、GO!!」

 合図と共に私は ストップウォッチを入れ、一気に加速して行く。


「おいおい…最初のカーブまで距離が無いんだぞ。

 そんなに加速して大丈夫か?」

 銀色妖精のスタートを見て観客が言う。


 私の軽トラに積み込まれた明らかに過剰なエンジンが元気な唸り声を上げ、キンコンと速度警告音がなる。

 時速100kmでのカーブへの進入…ギアを落とし、ハンドルを回し、ブレーキとアクセルを調節…2車線道路に私が思い描いた仮想のラインを正確になぞって行く。


「おいおいおい」

 軽トラが明らかに頭がイカれている速度でカーブに進入する。

「アイツ…タイムを焦っているのか?死ぬぞ」

 削られたガードレールを突き破ってしまえば、下は崖…確実な死が待っている。

 普通なら怖くて スピードを上げられていカーブに、銀色の車体の軽トラは突っ込む。

 軽トラは カーブ前で いきなりブレーキを入れ、車体を滑らせ、アスファルトがタイヤを削り、暗闇の中で光るブレーキランプの赤い軌跡を美しく描きながらコーナーを曲がっていく。

 確信した…彼女にとって この速度は、完璧にコントロールが出来る手慣れた速度なのだ。

 車の性能向上で ドリフト自体が パフォーマンスの意味しか持たなくなっている中で、銀色妖精は 速度を追求した綺麗なドリフトを決めている。

 それは まさに芸術だ。


 カーブを抜け、私はアクセルを踏み、ギアを戻し、再加速に入る。

 短い直線道路をすぐに使い果たし、次のカーブも ドリフトで決めて行く。

「うん…良い調子だ。」

 永遠を生きる私達にとって、スリルは 必要不可欠だ。

 行動が最適化されてしまったルーチン作業の日常に価値は無く、定期的に生活に刺激を加えて行かないといけない。

 それが私が走り屋をやっている理由だ。


「うわっ…なんだよ、あのドリフト使い…。」

「すんげー…あの車、ガードレールギリギリを走ってたぞ」

 観客達が歓声を上げる。

「しかも、すんげータイム…」


 キキッ…。

 私の四本の脚が地面を掴み、カーブを曲がる。

 この車との一体感が たまらない。


 最後のカーブを曲がり切り、再加速して直進を一気に抜ける。

 ゴール…タイムは…良い感じ。

 駐車場に行き、私が測ったタイムと ゴールでストップウォッチを持っていた計測係のタイムを比べ、不正が無いかを調べる。

 それを紙のリストに記載して、タイムの集計を行う。


「まさか…あの軽トラ3位かよ…。」

「しかも、1位2位は金を積んだ電子制御型…。

 アナログの しかもドリフト操作では 間違いなく1位だな。」

「何者だよアイツ…。」

「銀色妖精の謎は多い、ウチの爺さんが その名前を知っている位だからな。

 多分、アレは2代目か3代目…」


「凄いタイムだ。

 もし良かったらウチのチームに入らないか?

 キミなら即戦力になれる」

「いや…済まないが、私はソロで行く。

 いつ時間が空くかが、分からない仕事をしているからな。

 これからも いつも通り、気の向いた時に飛び入りで参加する。」

「分かった…いつでも来てくれ」

「ああ、今日は 楽しかった…では」

 私は軽トラを走らせ、高速に乗り、都心に戻って行った。


 1週間前…昼。

「私だ…逃がし屋の仕事か?」

 私は耳に手を当てて言う。

『ああ、今、ある人物が警察から取り調べを受る為に勾留(こうりゅう)されている…それが、今後 一時帰宅する事になる。

 その後は 正式に警察に捕まって、形だけの裁判をして、刑務所行きだろう。』

「分かった…今から そちらに行く。

 詳しい内容はそこで…」

 私はそう言い、通話を終えた。

「さて…またスリリングな事になりそうだ。」

 私はそう言い、軽トラに乗って ミハル警備に向けて車を走らせるのであった。

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