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01 (銀色の妖精)

 とある峠…夜。

 街灯が照らす暗闇の夜…。

 今の時間は午後11時…仕事帰りの労働者が帰ったこの道は、一気に車の数が減って来る。

 その中で、1台の軽トラが 明らかに頭が不自然(おか)しいエンジン音とスピードで走り、カーブに突っ込んで行く。

 軽トラに乗るドライバーの銀髪の少女は、左足でクラッチペダルを踏むのと同時に、左手でクリスタルガラスを取り付けた シフトレバーでギアを落とし、右足を斜めに傾けて アクセルとブレーキをタイミング良く踏む…。

 キンコン…キンコン…キキーッ!!

 キンコンと時速100kmのレトロな速度警告音が鳴る中、軽トラがドリフトを始め、擦ったり凹んだりして酷使されているガードレールをギリギリ接触しない姿勢で、滑って行き、カーブの出口でアクセルを踏んでカーブを突き抜ける。

 軽トラに乗っている 銀髪の少女は免許を持っているのか疑わしい程 幼く、足がペダルに届くのか疑わしい位に身体が小さい…見た目の年齢は10~12歳位の小学生だろう。

 そんな少女が、軽トラに不相応な爆音のエンジン音を慣らし、峠のカーブをドリフトを使って最速で降りて行く。

「ん?」

 バックミラーに光?

 少女が乗る軽トラとは別のエンジン音がして、こちらがカーブをドリフトをして横滑りをしていると助手席側にピッタリとついて来る。

 車種は赤のトヨタの86のオートマ…運転席に座る40位のオッサンが私の姿を見て驚いている。

 彼の車はドリフトをしておらず、タイヤのグリップ力だけで曲がっている。

 最近の車は、電子制御で細かくタイヤをコントロールされているので、わざわざドリフトをなんかを使わなくても、比較的簡単に曲がれる。

 と言うか、あの車には 空転防止機能や、横滑り防止機能なんかが付いており、制御装置を無効化しないと そもそもドリフトが出来ない。

 なので私の様にドライバーテクニックを磨くなんて事はしなくても良く、金を出して良い車を買えば ある程度 優秀なドライバーになれる。

 何というか…車の目的は『安全に』『速く』『快適に』する事がコンセプトな訳だから こうなるのは当たり前なんだが、車が高性能化しているせいで、どんどん車がドライバーの手から遠ざかって来ている…それが少し不満だ。

「流石に抜かれない自信はあるが…」

 自作で製造したレース用エンジンを積んでいるこの軽トラは、明らかにイカれているパワーを私に与えてくれるが、直線の道路が短い為、性能が行かせない。

 エンジンの出力では こちらが圧勝だが、カーブの性能は互角…。

 ただカーブを抜けた後の再加速と距離が短い直線加速では こっちが上…多分、ドライバーテクニックと 単純に こっちの重量が軽いからだろうな…。

 最後のカーブを通過…一応の勝利…。

 峠を抜けて私はウインカーを出して道路横の駐車場に軽トラを止める。

「ふう…やっぱり車の性能差は大きいな」

 私が今まで走ってきた峠を見ながら言う。

 おっ赤い86が駐車場に入り、私の軽トラの横に止まって来る。

 

 コンコン…。

 86ドライバー()は、車を降りて少女が乗る軽トラの窓ガラスをノックする。

 少女は窓を降ろして私に顔を向ける。

「何か?」

「いや…良い走りだったんで、ちょっと顔と車を見たくて…。

 キミ…年齢に見合わないテクニックを持っているみたいだけど…無免かい?」

「いえ…その年齢が間違えです。」

 銀髪の少女は免許書を見せる。

 名前は蒔苗(まきな)真白(ましろ)…。

 生年月日から計算すると…。

「は?この見た目で26歳…。

 しかも この歳で免許書をフルコンプ?」

 教習所代だけでも 大体200万は吹き飛ぶ上、しかも この軽トラも軽トラには過剰な競技用のエンジンに換装されている。

 更に彼女が座っているシートはレース仕様で、シフトレバーの上には昭和に流行ったクリスタルガラス。

 エアコンの近くには プラスチックコップに半分位の水を入れられたドリンクホルダーが取り付けられている。

 これは、水が零れない様に車を安定させる 一昔前に流行った訓練方法だ。

 何と言うか26なのに、内装や訓練の仕方が かなりレトロだ…両親から譲り受けたのだろうか?

「信用して貰えましたか?」

「ああ済まない。

 その…幼く見えた物で…」

「いや、この身体ですからね…もう慣れてます。

 それでは…」

「あっ…何処でキミと会えるかね?

 所属のチームは?」

「いえ…個人です…ただ、明日の土曜日の深夜に またここに来ます。

 では…」

 少女はそう言うと軽トラを走らせて去って行った。

「明日の深夜って…公道レース?

 そっか…明日、ここを走らせるための慣らしだったのか…。」

 私はそう言い、車に乗り込んで走らせた。


 翌日、ガソリンスタンド。

「あ~そいつか…『銀色妖精』」

 周りの車がセルフでガソリンを入れる中、私達は整備室で車検で来た車を見ている。

「銀色妖精?それが あの子の通り名か?」

「そっ…所属チームは無し…。

 主な出現場所は 東京付近の外環…。

 各チームの土日の大規模ドライブに飛び入りで参加して、軽トラや軽自動車で高級スポーツカーを 追い抜かしたりして おちょくって来るのが特徴…。

 ドライバーは、銀色の髪を持った見た目 女子小学生…。

 なのにヤケにテクニックが上手い…」

「26らしいよ」

「銀色妖精と話したのか?」

「ああ、無免か?って聞いたら免許書を見せて貰った。

 しかも、あの歳でフルコンプだった。」

「マジかよ…てか、そんなに金持ちだってのに、何で軽トラに乗っているんだ?

 もっと良い車を買えるのに…」

「だよな~」

 私達は少しでも劣化している部品をリストアップし、水増し請求する。

 世間ではもう 安いセルフスタンドが一般になっていて、こうでもしないと採算が合わない。

 酷い所だと いつ事故が起きるか分からず、どの位の損傷なるのかも分からないのに、上から修理の金額ノルマが設定されて ドライバーで車体に傷をつけたり、ゴルフボールを靴下に入れて振り回して車を叩くなどして、保険会社に修理費の水増し請求が普通に行われている。

 これも滅多に壊れなく、事故も起こさず、起こしたとしても安い部品の修理だけで済んでしまう 今の車が悪いとの事だが…。

 そんな車が好きで入った この業界だが、今は自分の愛車の為に他人の愛車を傷つける事が普通に行われている。

 私達も、自分の愛車の維持費を確保する為に 一線を越えてしまう事になるのか…。

 そんな不安の中で私達は今日も車の整備をしている。

「そうだ…今日の夜、また銀色妖精が出るらしい。

 多分、また飛び入りだな…見に行くか?」

「ここじゃあ、そうそうお目に掛かれないからな…。

 行くよ」

 私達は そんな会話をしつつ、仕事をするのであった。

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