23 (アフターケア)
更に2日後…。
ミハル警備…食堂。
「それじゃあ、ユキナの生還…メンバー全員の帰還を祝って…乾杯!」
「乾杯~」
生還したメンバー達がグラスを傾け、それぞれが飲み物を飲む。
「これ…ワインか…」
ジュースだと思っていたナオが思わず言う。
「おおっ…ナオは酒が飲めるのか?」
「普段から飲んでいる訳じゃないけど、爺さん家では 毎年 祝い酒があってな。
オレは ビールは 如何も苦手で、いつも缶チューハイを飲んでいた。
まだ未成年だってのに…」
「でも、酒を飲む慣習で 本人が同意していれば、飲めたはずですよね。
あーこれ良い酒…。」
隣のグローリーが酒を飲みながら言う。
繋げられたテーブルの上には、様々な料理が並んでおり、立食形式で それぞれが 皿に好きな物を盛っている。
その中で一番目立っているのは、バクバク料理を食べているユキナだ。
「そんなにガッツかなくても、料理は逃げないよ…」
オレがユキナに言う。
「胃の中を空っぽにする為とは言え、点滴だけじゃ全然 足りないんだよ。」
ユキナは 成人男性の2倍の食事量だから点滴で補うにも限界があるのか…。
「最初はちゃんと基準値で点滴していたんだけど、一時的に 軽い低血糖状態になって、点滴のスピードを上げる事になったからな…」
せっせと肉を焼いて供給している ミハルが言う。
「ん?これ?見慣れない料理だな…」
緑色でマヨネーズの様なペースト状の食べ物だ。
少し よそって食べてみると 程よい甘味を感じる。
その隣には 緑色の焼きパンがあり、チーズやハムなどの具や調味料を自分で塗ったりして 挟んで食べる サンドイッチになっている。
「緑色のコーンミール?ポレンタか?」
「おっ知っているのか?」
「ああ…確かイタリア料理だっけ?
前にロボットアニメで見た。
それにしては緑色だけど、そう言う品種のトウモロコシか?」
「いや、ミドリムシ…」
「あ~これが ソイフードか…トニー王国の…」
「そう」
ミドリムシは 人が生きる上で必要な栄養素のすべてを バランス良く持っており、それが 1ヵ月で10億倍まで増える事が出来る…。
トニー王国の食事は全部 このミドリムシを加工する事で出来ていて、土から作物を育てる 農場が存在せず、食料は全部 工場で生産される。
この工場で生産された ミドリムシに、味覚剤、食感剤、着色剤の割合を忠実に守ってブレンドし、型に入れて成型すれば どんな食べ物でも再現 可能で、トニー王国の食品加工技術は 世界一だと言われている。
「うん、美味い…けど、何で大豆なんだろうな…」
「ん?確か、月に不時着したトニー王国を建国した 宇宙人達は、昔、大豆からソイフードを作ってたんじゃなかったっけ?
そこからソイに ミドリムシの意味が含まれる様になったと…」
ミハルが言う。
「それじゃあ、語源的に不自然しいんだよ。
ソイは日本の醤油からオランダに行ってソジャ、そこから英語圏で豆の事をソイと呼ぶ様になったんだが、宇宙人が月に不時着する前に 大豆をソイと呼んでいるのが不自然しい。」
「………。
だったら逆じゃないのか?
宇宙人がミドリムシをソイと呼んでいて、地球に降りた時にソイフードの代用品として大豆を選んで、ソイと呼んだ。
もしかしたら、ソイの語源の歴史にトニー王国が噛んでいるのかもしれない。」
「そうなのかな…。
なんか、調べれば 調べる程トニー王国を建国した宇宙人って語源を無視した言葉を多用しているんだよな…。」
「歴史なんて そんなもんさ…。
実際、不時着したスペースコロニーが月で見つからなかったら、ただの建国神話になっていた だけだし…。
現代訳をされた可能性も十分にある。
そんな事より…ほら、始まるぞ」
「始まる?」
「おおっ~」
何?
いきなりの拍手と声援にオレはテーブルを見る。
そこには 甚平の上からエプロンをしたナオキが、カクテルシェイカーに酒を入れ、ジャグリングをしてる。
「ほっほっほっほ…」
その洗練されている様子から ナオキがジャグリングに慣れている事が分かる。
まぁカクテルシェイカーを回す事に化学的な意味は無いから、ジャグリング自体が無駄なのだが、視覚的には盛り上がる。
「はいお待ち…」
グラスに 注いだカクテルを皆に振る舞う。
「おお美味い…」
続いて、ナオキは ガラスの酒瓶を派手に回し始めた。
それを次々とテーブルにあるタンブラーに入れて行き、7個のグラスを横に並べる。
端からグラスに酒を注いで行くと グラス事に色が分かれ、鮮やかな7色のカクテルが出来上がった。
「おお…レインボーショットだな」
ミハルが言う。
「何と言うかバーテンダー?」
「フレアバーテンディングだな。
後はトランプなんかの手品を複数出来たな」
「本当にナオキは多芸だな…。」
「紀元前から どの地域でも酒を飲む宴会はあるからな。
こう言った宴会芸を身に着けていれば、どの組織でも それなりに気に入られる。
しかも酒を飲めば 話が軽くなるから、諜報員なら 必須のスキルだ。」
「なるほど…ナオキが居酒屋メニューが得意なのは そのせいなのか…」
その後、皆が腹いっぱいなるまで 飲み食いを食い続けて、最後まで賑やかに終わる。
主に殺しをしたのは オレ達で、彼らは占領地点の維持だったが、多数の死体を見てメンタル落ち込んでいた彼らも楽しくパーティを終えられた。
これも ミハルのメンタルケアなのだろうか?
そう思い、オレは私室に戻った。
次の日…二日酔い患者が大量に発生して診療所が賑わったのは、言うまでもない。