表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/53

22 (摘出手術)

 戦闘から3日後…。

 ミハル警備 作業塔…医務室。

 ユキナの熱が引いて体調が安定した所で、ブドウ糖の点滴に繋がっている 胃が空っぽの病院服のユキナと、赤い十字架がプリントされた白衣に 記録用のカメラ付きヘルメットを被ったミハル()が、無菌の手術室に入る。

 ストレッチャーの手術台に ユキナを上半身裸の状態で乗せて、心電図の電極を…腕に血圧計を…爪にパルスオキシメーターを それぞれ取り付け、輸血用の針と全身麻酔用の点滴の針を入れて 眠らせる…全身麻酔だ。

「それじゃあお休み」

 ユキナが眠った事を確認した後で 尿道にカテーテルを入れて、鼻に気管チューブを入れて酸素を供給し、消毒液であるポビドンヨード液を傷口周辺に過剰な位かける。

 よし、手術の開始だ。

 天井からライトを降ろして傷口を照らす。

 5.56mmを前から受けて、パイロットスーツを貫通…。

 皮膚を抜いた辺りで 真っすぐ進んでいた銃弾が 縦横無尽に回転するタンブリング現象が起き、周辺を臓器を無茶苦茶に破壊する…これが5.56mmの特徴になる。

 ちなみに これが 7.62mmだと、威力が高過ぎて貫通してしまうので 傷口が直線になる。

「さてと…如何(どう)なっている事やら…」

 トニー王国で 動物実験は 何度もやっているが、あの国は 無人機を主体とした戦術を取るので 兵士が被弾する事が無く、実際にパイロットスーツを着た人が撃たれた時の実証データが無い。

 なので、今回のユキナの治療データは 高く買って貰えるだろう。

 被弾ヶ所を塞いでいる 血と反応してゴムみたいに固まった 合成ハイドロゲルをメスで丁寧に切除して行く。

「硬いな…通常メスでも 出来ない事も無いが、切除が難しい…。

 電気()メスを使用…うん、上手く行った。」

 私は記録の為に実況をしながら手術をする。

 固まった合成ハイドロゲルを丁寧に切除して行き、ピンセットで取り出す。

 普通の医師なら手振れを気にする所だが、全身義体の私の手は 外科医の最大の悩みである 手振れが一切無いので、迷う事無く、簡単に素早く 切除が出来る。

「おっ…嬉しい誤算…ハイドロゲルが弾を包み込まれている」

 撃ち込まれた 5.56mmの周辺を合成ハイドロゲルが包み込み、固まった事によって、体内に残った弾が ユキナの移動中に他の臓器を傷付けてしまう二次災害を防いだ。

 鉗子(かんし)で 変形した弾を包みこんだ 合成ハイドロゲルごと 引っこ抜いてステンレス製のトレイに乗せる。

「ふう…血管まで辿り着いた。

 出血が始まった…電気()メスで血管を焼く…」

 電気メスの先端はジュール熱により数百度の温度になっており、この温度を調節する事によって組織を焼き、止血する事も出来る。

 後は縫合(ほうごう)…表面では無く 内側の皮膚を縫い、丁寧に糸を結んで行く。

 こうする事で表面の傷を目立たなく出来る。

 忙しい前線の野戦病院なら、もっと簡単な医療用ステープラー(ホッチキス)で 傷を塞いでしまうのだが、これだと傷が目立ちやすくなる。

 今後、ユキナに彼氏が出来るかは 分からないが、治す時間は 十分にある やっておいて損はないだろう…。

「ふう…終了…」

 普通 2~3時間は掛かる怪我の手術を、合成ハイドロゲルと 私の()のお陰で、1時間程度で済んだ。

 通常の圧迫(あっぱく) 止血の場合、こうはいかない。

 出血の量も少なく、患者への負担も少ない。

 それに…確かに切除が面倒ではあるが、明らかに手術がラクになったな…。

 私は ライトを消して上に上げ、カテーテルを外して 気管チューブを抜いて、酸素マスクに切り替える…。

 心電図、パルスオキシメーターは そのまま、輸血、麻酔の点滴を止めて、手術前にユキナが点滴をしていた 生理食塩水に ブドウ糖を混ぜた栄養液に切り替える。

 私は ユキナの病院服を戻して 無菌室に置いたまま、医療器具を片付けて行った。


 見慣れない天井…点灯していないライト…。

 ユキナ(アタシ)は目を開ける。

 ここは 何処だ?

 アレ?身体が動かない…金縛りか?

 目は如何(どう)にか動かせる あ~手術室か…。

 おい!ミハル…麻酔が切れているぞ!…口は まだ開かない。

 下を見る…手術をしているはずのミハルが いない…手術は 終わったのか…。

 しばらくして 全身の感覚が戻って来る。

「あ~ダルい…」

 アタシは 如何(どう)にか起き上がる。

 口には酸素マスク…。

 胸には 心電図の電極…腕には 血圧計と輸液用のケーブル…。

 指には パルスオキシメーター…。

 病院服をめくって 右脇腹を見て見ると、ちゃんと縫合されている…成功した見たいだ。

 もう 動けるが、どのケーブルを引っこ抜いて良いのか分からない。

 あー ナースコールがある…押してみる…。

 しばらくして、ミハルがやってきた。

「おはよう…気分は?」

「あまり良くない。

 頭が回らない…状況は?」

「手術時間は1時間程…バイタルは 安定している。

 ゲルの切除が面倒だったけど、これと言った出血も無かった。

 消化器系は 触ってないから、明日には 食事が出来る様になる。

 1週間は 激しい運動は無し…傷の具合を見て、1~2週間位で抜糸をして 終わり。

 経過観察も含めて 全治1ヵ月って所かな…。」

「1週間 運動が出来ないのか…ツライな…」

「リハビリも必要だし…ルームランナーで ウォーキングなんて どうだ?

 低速なら良いぞ」

「いいね、それ……で、いつまで この機械を付けてるんだ?」

「今でも 問題無い良いんだろうけど、記録と念の為、術後 6時間かな…。」 

「分かった…寝て過ごすよ」

「ああ、毛布 持って来る。

 今は ゆっくり休め…」

「助かる」

 麻酔が完全に抜けていないのか…やけに眠い。

 まぁ自分の無事を確認出来たし、ゆっくりと眠るか…。

 アタシは ミハルから毛布を掛けて貰い、もう一眠りを始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ