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18 (山の中で 隠れんぼ)

 的射 銃砲店。

「ペイディの本拠地が見つかった?」

 ナオ(オレ)甚平(じんべい)姿でガンケースを担いでいるナオキに言う。

「ああ、場所は 群馬県の山の中にある大量の大型倉庫の中…。

 えーとここだな。」

 ナオキは地図アプリを開いてオレに見せる。

「よし、これで組織を壊滅出来る。」

「何だが…如何(どう)やら、強盗は陽動だった見たいだ。

 特戦経由で奴らの本命の作戦が発覚した。

 この国の重要人物を人質に取って 政府と交渉するのが 彼らの目的みたいだ。

 これが ペイディが政府に送って来た人質リストと、人質の詳細情報」

 ナオキは 名前が書いてあるエクセルのリストと、人質を履歴書の形式にまとめた書類をミハルに渡す。

「なんだこれ…政治的な発言権が多いヤツばっかりじゃないか?」

 ミハルがそう言い、オレは 横からリストを見る。

 捕まったメンバーは、12名。

 野党と与党の大物 国会議員に、反戦主義者、この日本の格差社会の元凶を作った政府 御用達の派遣会社の社長…松中さん。

 ネットでの発言権を持つ、大物ユーチューバーが3人…。

 その中の1人は、オレでも知っている男性嫌悪(フェミスト)で有名なユーチューバーだ。

 そして、ここで 一番の大物は安生(あんじょう)財務大臣…。

「おいおいおい、ロクに訓練も受けていない素人集団に、何で財務大臣が誘拐されているんだよ…。

 セキュリティ甘過ぎだろう。」

「渋滞で車が止まっている所に、遠距離から狙撃された。

 乗っている車は 防弾仕様だったが、ライフル弾は防げず、運転手とボディガードは、頭を撃ち抜かれ、その後、財務大臣は拉致された。

 目撃情報だとAKを装備していたらしい。」

「発覚が遅れたのは?」

「目撃者の話題が強盗で騒いでいたのと、政府の情報規制だ。

 国の高官が 多少訓練した位のテロリストに簡単に誘拐されたなんて事がバレたら、国際問題に発展する。

 しかも、コイツらが全員 殺された場合、派閥争いで国が機能不全を起こして くたばるからな。

 そんな情報、報道出来る訳が無い。」

「なるほど…で、この国は テロリストに譲歩するのか?」

「いや…昔、バングラデシュで、日本赤軍が DC-8をハイジャックした事があってな…。

 その時、日本政府は『一人の生命は地球より重い』とか言って超法規的措置を取って、身代金と囚人の解放を飲んじまったんだけど、後から テロリストに譲歩した事で、国際社会からボロクソに叩かれてな…。

 あんな事は、今の保身しか考えていない政府には もう出来ないだろうな」

「それで、武力で取り返すのか?」

「そう、派遣されるのは 特戦メンバーの5人と俺の6人。

 表向きは 特戦がテロリストを殺して、人質を救出してヒーローになる。

 ただ、俺達は 少数精鋭である以上、数の暴力には敵わない。

 向こうは まだ60人近くの戦力があるからな…。」

「そこで、ミハル警備に頼むって事か…国の要人救出に1億って安いな~」

 ミハルが言う。

「ミハル警備の仕事は、人質がいる部屋以外の制圧と陽動…。

 人質が混ざっているより、全員が敵の方が撃ちやすいだろう。

 後は 人質を護衛しつつ 車に乗せて、こちらの指定の位置に運ぶ。

 後は 死体の始末だな…。」

「それって、要人の救出 以外の大半じゃないか…」

「そう、でも 国民に対して この作戦を正当化させられるのは、特戦(俺達)だけ…。

 ミハル警備は 報道されたらマズイだろう…」

「分かった。

 5000万追加で…」

「分かった。

 上に通す…通らなかったら俺の金で出す。」

「よし、暇しているヤツは全員 参加だ。

 今入っている仕事は、全部 キャンセル。

 全員、フル装備で集まれ!」

「「はい」」

 ハルミが皆に言い、オレ達は返事をした。


 しばらくて 殺し専門のナオ(オレ)達は、パイロットスーツの上から防弾チョッキ、ミラーシールド付きのフルフェイスヘルメットを被り、それぞれの銃一式を持って集合する。

 その後ろには 防弾チョッキと普通のヘルメットを被った一般の武装警備員と特殊清掃員がいる。

 数は全部で25名…内、戦闘員が18名の構成だ。

 使う車は ワンボックスカーの特殊清掃車両が1台…防弾仕様の輸送用が2台…。

 そして、指揮所と野戦病院を兼任している パラメディックが1台の計4台になる。

「今までの様に今回は現地の詳しい情報が無い。

 訓練通り、引き締めて行こう。」

「はい」

「それじゃあ、搭乗…」

 次々と指定されたワンボックスカーに乗り込み、ミハルは パラメディックの運転席の後ろにある冷蔵庫に、輸血用 血液を入れて運転席に乗り、ユキナが助手席に、オレ、ナオキ、グローリー、ユイは、後部ドアを開けて乗り込む。

 中の席は横長で、壁には自動体外式除細動器(AED)…棚には各種 医療器具が入れられている。

 中央には ストレッチャーがあり、ここで負傷者を治療するのだろう。

「こちら指揮通信車(CCV)、全車両…無線は聞こえるか?」

『1号、感度良好』

『2号、良』

『3良…』

「よし、じゃあ行こう…」

 ミハルは そう言うと 車を走らせ、草加ICから外環を通って高速道路に乗り群馬を目指した。


「本当に作戦 無しなのか?」

 パラメディックが高速道路を走っている中、ナオ(オレ)は 隣の席にいる 甚平(じんべい)の下に指輪のネックレスと防弾チョッキを着ている場違いな服装のナオキに聞く。

「いや~施設の規模と人数は分かったんだけど、半日も偵察をしていないからな…。

 今、現地では赤木(レッド)の部隊が偵察をしている。

 山の中で、今時 珍しい ケータイの圏外地域…電話もネットも使えない。

 だから、奴らは トランシーバーなんかの無線機を使っている。

 本当に電波が無い綺麗な地域だから、こっちが 無線なんか使ったら一発で発信場所を特定されるな」

「暗号無線なのにか?」

「無線の盗聴は まず出来ない。

 だけど、何処(どこ)から無線用の電波が飛んでいるか までは分かる。

 ケータイなんかの電子機器で(あふ)れている場所では、使えない手なんだが…。

 だから、偵察をしているレッドも無線封鎖していて連絡が取れない。

 直接行って情報を集めるしかないな…」

「なるほど…」

「と言う訳で、ハル…現場から1km地点で無線封鎖だ。」

「短距離無線は?」

「最大で10m位まで…現場に付いたら 俺が森に入って特戦を見つけて 回収する。

 で、俺達のガイドで隠密で敵施設を包囲して、突入と同時に無線を解除…」

「了解…」

「さあて…結構、長丁場になるぞ…」

 ガンケースからF-2000を取り出して、一通り確認すると ナオキは暢気に寝始めたのだった。

 はぁ…オレも この位、図太く慣れればな…。

 オレはそう思いつつ、気を張り詰めながら車の中で過ごした。


 敵拠点から500mの距離にある道路。

「それじゃあ行ってくるね~」

 ナオキ()は サンダルからブーツに履き替え、F-2000が入ったガンケースを背負い、森に入る。

 服は相変わらず甚平(じんべい)姿…。

 俺の場合、迷彩服を着て森に溶け込むより、一般人の服を着て 山を歩きに来た おっさんになる方が良い。

 しかも 和服の甚平(じんべい)は 目立つので、目撃者がいたとしても『甚平(じんべい)姿の男』としか言われず、顔をしっかりと見られない。

 なので、逃走の際に忍者の得意分野、早着替えで服を変えてしまえば、追っ手を巻く事も簡単に出来る。

 まぁ ぶっちゃけ、この服が 着慣れているからなんだけど…。


 特戦との 隠れんぼは かなり面倒だ。

 アイツらは 自然に溶け込んでしまうので 特定が難しく、数m先にいると言うのに 敵に気付かれないと言う事も珍しくない。

 ただし、サーモグラフィには 引っかかる。

 人の36℃の体温を外気を同じ25℃に落とせば 死んでしまうからだ。

 施設を監視…狙撃出来る地点を絞り、その周辺を歩くと僅かに人の体温が見える。

 相手は 断熱効果の高いギリースーツ ポンチョを着ているので、熱が外に放射されず、目視でもサーモでも 人の輪郭が出ず、非常に見つけにくい。

 ただ、服の隙間から出る僅かな熱は消せない。

 今頃、スーツの中は 溜まった熱で かなり暑苦しく なっているだろうな…。

「よっ赤木(レッド)みっけ」

「お見事…相変わらず 見つけるのが上手いな…。

 よっと…」

 現地の植物と断熱ポンチョに取り付けて 伏せていたレッドが起き上がって しゃがむ。

「ルートは?」

「確認済み、はいコレ…」

 レッドは俺に メモ帳を渡す。

 めくってみると、そこには 敵拠点の詳細な情報が記載されている。

 しかも、人質が押し込まれている部屋、突入場所の記載までもがある。

「まだ半日程度だってのに、この量…。

 相変わらず、レッドは 偵察が早いな…」

()()()()ナオキ(グリーン)には 戦闘では敵わないからな…。

 だから自然と援護が上手くなる…」

「他のメンバー、ブルー、イエロー、ブラック、ピンクは?」

「森の探索中…1時間前に報告に来た時は、問題なかった。

 監視もいず、地雷や警報なんかのトラップは 今の所 無し、民間軍事会社(PMC)部隊は、ここまで 普通に入って来れるだろうな。

 今、突入ルートの確認をしている。」

「分かった…この通り、作戦を進める。」


 森の外の道路。

「戻った」

如何(どう)だった?」

 落ち着きが無く、車の周辺をぐるぐると警戒しながら周っていたナオ(オレ)は、森から出て来たナオキに すぐ近寄って聞く。

「森には敵はいない…安全に入れる。

 さて、皆集まってくれ…レッドから作戦付きで情報が入った。」

 ミハル達が集まって来る。

「まず、大型倉庫が 全部で5…。

 その内、この3つは、食堂や個室がある兵舎…。

 ここが スポーツジムや、ガスガンなんかを使った訓練場…。

 で、武器弾薬、食糧や飲料水が入っている倉庫だな…。

 それで、(おさ)えるのは この2ヵ所…。

 1つは 士官用の兵舎…人質もここ…。

 もう1つが、倉庫…これは 弾の補給を防ぐ為だな。」

「敵の武装は?」

 ミハルが聞く。

「基本は、45口径(45)コルト ガバメント(ガバ)

 指揮官が5.56mm(5.56)のAK。」

「つまり、優先度はAKが上だな。

 交戦規定は?」

「要人の顔は 徹底的に頭に叩き込んで、絶対に撃つな。

 それ以外は 射殺して良い。」

「了解…。

 そうだな…ユキナ達 アサルト(A)部隊は、ナオキ達と行動…。

 一般武装警備のバックアップ(B)部隊は 弾薬庫を抑える。

 その後、制圧した場所を再占領されない為の警備…。

 死体処理のクリーン(C)部隊は、ここで待機…。

 配置は 特戦が 人質の部屋に近い こっちから…。

 ユキナ達は 反対側の ここのドアから先に侵入…敵の陽動を行う。

 後は 現場の裁量に任せるから、自分で動けるなら私に確認を取らなくても良い。

 ただ、なにか困ったら 私に すぐに通信を入れろ…良いな。」

 ミハルが皆を見回しながら言う。

「はい」

「それじゃあ、今日も全員で無事に帰ろう…行ってこい」

「了解!!」

 オレ達は ナオキを先頭に周囲を警戒しながら森の中に入って行った。

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