15 (次の犠牲者を避ける為に…)
翌日の夜…。
救急車に似たワンボックスカー…パラメディックが移動し続ける。
今日は 結構、ハードスケジュールだ。
ピンポ~ン…。
木造のボロアパートのブザーを鳴らし、壁抜きをされない様にドアの右側に寄り、やせ細り、身なりが汚い男がドアを開ける。
「は~い、どなた?ッ…」
パスッ…。
男より身長が低いナオは、サプレッサー装備のウージーマシンピストルで、アゴの下から撃ち抜く。
撃ち抜いた死体を玄関に戻してドアを閉じて完了。
「事前に知っていたけど、普通の人だな。」
相手を確認せず、チェーンロックも掛けていない。
これが、昨日の朝に殺しをやった人物なのか?
オレは 素早く車両に戻る。
「着いた…そこの建物の7階からターゲットの部屋を狙撃出来る。
両親と同居しているから、気を付けて」
「今度は狙撃か…了解…僕達の出番ですね。
ユイ…」
「はい」
グローリーとユイは 建物の非常階段から上がって行き、しばらくして パスッと気の抜けた音と一軒家の窓ガラスが割れる音がして、戻って来る。
「終わりました、次…」
オレ達は、ターゲットに合わせて人員を選択し、次々と片付けて行く。
殺傷数が30を越えていると言うのに、今の所 敵からの発砲は一切無く、非常にラクな仕事だ。
「ゲーム見たいな銃撃戦は起きないな。」
「そりゃあ、相手に撃たせないで1発で決めちゃえば そうもなる。
銃を使うって言っても、この仕事は ひたすら地味だ。」
前で運転をしているミハルが言う。
オレ達とは別で、一般武装警備員の皆も動いているが、相手からの発砲されたと言う報告は 一切無く、それどころか、警戒すらロクにされていない。
襲撃時のテクニカルな行動に対して、あまりにも無防備だ。
「何と言うか…本当に貧困層なんだな。」
「不満か?」
「割り切っているけど 不満だな…。
早く、コイツらを仕切っている 6人を殺したい。
大本を叩かないで対処療法をしているだけじゃあ、加害者も被害者も どんどん増えて行く。」
「ビジネス的には 定期的に殺しの仕事が来る方が良いんだけど…。
相手は素人だから 本当に簡単な お仕事だし…。」
「そうやって誰もが利益を得られる構造にする事で、殺すのは惜しいと思わせるのが 向こうの戦略です。」
ユキナの隣に座るグローリーが言う。
「はぁ…でも殺すんだろ?」
オレがミハルに聞く。
「ああ…見つかれば だがな。
そこは 今 ナオキが追っている。
しばらくは 待機だな。」
「分かった。」
理屈は分かる…アイツらは殺しをやったんだ。
殺されて当然…それは、殺しを仕事にしている オレ達も含まれる。
ここでの収入が月に30万円に出動時の危険手当…。
更に面倒だったのか 未だに ナオキから毎月 振り込まれている仕送りの10万の合わせて45万…多分年収は、500万位。
年収の中央値は 越えているから、オレは 十分な高所得者なのだろう…。
「長期的な利益を捨て、短絡的に金を稼げるリスクがある方法を取る。
再生産に時間が掛かる客を殺して、経済は良くなるのか…。」
オレはそう つぶやき、車は高速を降りて春日部に向かった。
朝…。
ミハル警備 寮
『次のニュースです。
昨夜…関東全域にて、60名の殺人がありました。
警察は この事件を 個別の殺人事件では無く、同グループが行った犯行だと発表しました。
また、現時点では確定では無い物の、先日の宝石強盗事件への報復行為である可能性が高いと 考え、捜査を進めるとの事です。
この事件については、追加の情報がで次第、報道して行きます。』
「ふぁあ~おっやってる やってる。
それにしても60人か…殺したのは100人だよな。」
徹夜明けのフル装備姿のオレが、コーンスープを飲みつつテレビを見て言う。
「ああ…ただ、同居人がいる家はともかく、独り身も多い…アレは腐らないと気付かないだろうな。」
朝食を作っているミハルが言う。
「死体は片づけなくて良かったのか?」
「これがメディアで報道される事で、闇バイトをしようとしているヤツの意欲を削ぐんだ。
これで ペイデイも しばらくは勧誘が難しいはず…。」
「あ~なるほど…」
「おはよ~ミハルぅ…作戦はぁ」
「成功だよ」
「そなか…良かったぁ」
私室から出て来たマトイは ミハルから得濃茶を受け取って飲む。
その後 いつもの朝食を食べ終わった所で、今日のミーティングが始まる。
「まずは 皆、お疲れ…装備を返したら 今日は休みだ。
ゆっくり休んでくれ…。
マトイは?」
「あ~ウチかぁ…そうだなぁ。
ウチは 今日中に皆の銃のメンテとバレルの交換をするぅ」
「バレル交換か?ワンマガジンも使っていないのにか?」
「線状痕やぁ」
「あ~銃の指紋だっけ?」
「そっ、弾はぁ バレルの中の溝を通って回転しながら飛んで行くんやがぁ、この時に弾にぃ傷が付くぅ…それが 線状痕やぁ。
そんでぇ弾の傷ぅとぉバレルの溝を比較するぅ事でぇ、撃った銃を特定出来るんやぁ」
「あれ?前のカチコミの時はバレルを変えたのか?」
「いや…あの後ぉナオはぁ射撃訓練したやろぉ…。
1000発もぉ撃てばぁ線状痕も変わるぅ…。
まぁ実はぁ あん時ぃ、代えのバレルが無かったからやんがなぁ…。
届いたのは昨日やぁ…」
「バレルは外注なのか…」
「そ、フィリピンの銃製造会社『ターゲット・シューティング』。
ウチの実家やぁ…。」
「ターゲット・シューティング…それで的射か…。
じゃあ下の名前は?」
「……茉莉花」
「まつりか…ジャスミンの事か?」
「そ、本名のサンパギータって呼び難いやからなぁ…日本国籍を取得する時にぃ変えたぁ」
「サンパギータ?」
「アラビアジャスミンの事、フィリピンの国花…日本で言う所の桜だな。
確か『永遠の愛を誓う』って意味だっけ?」
「愛したのはぁ男やのーて銃やったんやけどなぁ」
ミハルの言葉にマトイが苦笑いしながら返す。
「そんじゃあ、営業時間前に開けるから行こかぁ」
「ああ…」
ミハル以外のフル装備のオレ達は、装備を返しに的射 銃砲店に向かった。
的射 銃砲店…。
まだ営業時間外だが、オレ達は 鍵を持ったマトイと一緒に中に入り、装備の返却を行う。
マガジン内の弾は すべて吐き出して、これもマトイに返却。
そして、マトイは そのまま オレ達の銃のバレルの交換だ。
「なんや?ナオ…自分で分解するんかぁ?」
皆が寝に寮に戻る中、オレはウージーマシンピストルの分解作業をする。
「自分の銃は、自分でメンテしろって言ったのはマトイだろ」
「いや、最終確認さえして貰えれば 良いんやけどぉ…まっいか…ほなやってみぃ。
今日は 銃が多いからなぁ…」
マトイは ユイの銃 P-90の整備に掛かっている。
「それでバレルは?」
「ああ…そこに段ボール箱があるやろぉ…取ってやぁ」
「これね…」
宅配で受け取ってから まだ開封していない少し重い段ボール箱を取ってマトイに渡し、箱を開ける。
中には、ビニール包装された鉄パイプが箱一杯に綺麗に収められており、鉄パイプの中には 茶紙が入れられている。
「えーとぉ…あった、これやぁ」
マトイは ビニール包装と、鉄パイプの中に詰められている茶紙を外してオレに渡す。
「バレルって一般配達で送れるのか?」
「まぁ…クロームモリブデン鋼の鉄パイプやかんなぁ…。
バレルだけじゃあ銃と定義されへん」
「じゃあ、パーツ事にバラして個別で輸送すれば良いのか?」
「そ、ウチやと、モデルガンのプラモデル キットに偽装するって手があ~てなぁ。
パッケージを描いた紙箱の中に プラモデルの外枠…ランナーが付いた銃のパーツを重ねて、一般輸送で送ってぇ、現地でぇ説明書通りにぃ組み立てるぅ…。
ただぁ弾を撃てる構造にするとぉ銃になるんでぇ撃針やバレルは 別の日に別の箱で送るぅ。」
「何と言うか…ザルだな。」
「まぁ…昔は鉄の廃材を融かして、銃を作ってたんやからなぁ…やろうと思えばぁ一般人でも十分に自作出来るぅ…。
ただ、日本の場合ぃ銃弾だけは別やぁ…。
これはぁ他の国よりぃ厳しいぃ…」
「経済産業省に届け出を出さないと行けないんだっけ?」
「そうやぁ…まぁ供給元と使用元の帳簿が合ってれば、良いからぁ…色々と抜け道もぉあるんやけどぉ」
「うん出来た…マトイ」
掃除が終わった所のウージーマシンピストルをマトイに見せる。
「はいな…良さそうやねぇ…組んで良いよぉ」
しばらくして ウージーマシンピストルが組み終わる。
マトイは、P-90のバレル交換を終えてMP7に取り掛かっている。
「終わった…マトイ、30発出してくれ、試射したい。」
「良いよぉ…はい、内容を確認してぇここにサイン」
マトイが タブレット端末をオレに渡し、弾薬庫に行く。
えーと、目的は銃の試射、弾は30発…。
後はオレの名前とサイン…と。
と言うか、さっき、弾を返却せずに使えば良かったな。
オレがサインが終わった所で、マトイは、プラスチックの弾薬ケースに30発を入れて、持って来る。
タブレット端末を受け取って電子書類にマトイのサインを行い、承認。
弾が30発入った弾薬ケースが渡される。
「弾込めは セルフで頼みますぅ」
弾薬ケースの中は 格子状の仕切りになっていて、横10発、縦5発の50発が入り、今は30発まで入れられている。
オレは ロングマガジンにスピードローダーを押し付けてパキパキと弾を入れて行く。
「手慣れて来たやん…」
「まぁねぇ…それじゃあ、試射 行ってくんね…」
「あ~どうぞぉ」
オレはシューティングレンジに入り、イヤーマフをして試射に入る。
パンパンパン…。
「うん…良い感じ…」
撃ち終わり、イヤーマフを戻してマトイの所に戻る。
「感触はぁ?」
「問題無いな…それじゃあ、返却するよ」
オレは ウージーマシンピストル、アミュレットリボルバーの返却手続きをして、タブレット端末で返却書類を書き、マトイに見せる。
「うん問題無いねぇ…お預かりしますぅ」
マトイは 2丁の銃をホルスターごと受け取り、ロッカーに戻す…これで終わりだ。
「そんじゃあ、オレは寝に戻るよ~はぁ」
「お疲れぇ~」
マトイがそう言う、オレは自室に戻り、そのままベッドにダイブし、すぐに意識が落ちて眠り始めた。