04 (的射 銃砲店)
作業塔 地下…的射銃砲店。
作業塔の1階の階段を降り、ドアを開けると すぐ近くに受付があり、その奥には 大量の鍵付きロッカーと、巨大な工作機械。
受付の横を見ると 長さ200mの軍用 シューティングレンジがある。
「おお新顔か?…ウチは ここのボスのマトイや…よろしゅーな…。
ようこそ、的射銃砲店へ…。」
20代後半と思われる作業用のツナギを来た女性が、関西風の日本語で言う。
「会社の中で銃を撃っているんだな…。
オレは 神崎 直人…コールサインは ナオと言う事になっている。」
「あ~活躍は聞いてる…レンジャーと混じって教育課程の前期を耐えたって言う。」
「やっぱり アレで半分なのか…。」
座学は一緒だったが、部隊と一緒に行動する時は 常に隊員達の足枷用のお荷物と言う扱いで、戦力外判定だった…。
何度か戦闘訓練に組ませてもらって 連係も とって見たが、追いつくのが やっとで、得点面では オレ抜きの時と比べて、少しだけ得点が上がった位で、戦力としては あまり貢献 出来無かった。
つくづく殺しに特化した部隊だと言う事が分かるし、オレが起こした 立てこもり事件で、もし レンジャーや特戦が動いていたら、1人2人は 殺せても その次は無く、絶対に生き残れなかっただろう。
それだけの絶対的な 技術的差を 感じる。
「そな、後期は 食料が制限されてぇ、空挺部隊らしく 敵地で孤立した場合の想定でぇ、精神をどんどん 追い詰めて行くかんなぁ~。
殴る、罵倒が当たり前の軍隊に対して、ウチはぁ民間企業やから 社員の人権は守られるぅ。
戦闘技術的な事はぁ 前半に集中しているし、それで 十分だと社長は 考えやったん じゃない のかねぇ?」
「なるほど…それで、オレの銃を造って貰えるって聞いたんだが…。」
「ほな…近接戦闘の訓練でガスガン 撃ったんやろ…何ぃ使ってたぁ?」
「ウージーマシンピストル…。」
「ほう…理由は?」
「セレクター周りが気に入った…。
親指で押し込んで撃って、押し戻すだけで 簡単にセーフティが掛かるからな…。
上下とかダイヤル式は 面倒で、ずっとフルオートにしたままだった。」
「なるほど…。
そんじゃあ、デフォルト状態のウージーマシンピストルで、弾は2マガジン60発 出してやるさかい。
ちょ待てなぁ…。」
そう言うとマトイが ツナギの腰のベルトループに 繋げている鍵で、防弾ガラスになっているドアを開けて、中に入ると すぐにドアに鍵を掛ける。
大量のコインロッカーの壁にある 鍵かけのケースの鍵を外して、番号札が付いたロッカーの鍵を取り出し、ロッカーを開けて 下にスポンジが引かれているロッカー中から銃を取り出す。
そして、更に奥の黒いコンクリートで囲まれた 頑丈そうな 多分 弾薬倉庫の鍵を開けて中に入り、中で電動で空のマガジンに弾を入れ、また全部の鍵を掛けて、鍵の掛け忘れが無いか確認した所で、銃を持って防弾ガラスの鍵を開けて、ようやく銃が出てくる。
相当な回数を こなしているのか 動きが 洗練されており、ここの銃管理が徹底されている事が分かる。
そして、マトイは A4用紙位の大きさのタブレット端末をオレに見せる。
「ここに アンさんの名前を書いてぇ、使用目的は 射撃体験。
で、次が内容確認、ここが貸し出した 銃の名前とぉマガジンの数、ホルスター、でぇ、こっちがぁ弾薬の種類と出した弾の数、出した実物を確認して 間違え 無けぇば ここに受け取りのサイン、頼みますぅ」
オレは 物を確認した後に タッチペンを使ってサインを書く…。
「この射撃体験ってのは?」
「ライセンスが のぅ一般でも 指導官の監視の元、銃を撃って体験出来ぅって言うコースや…。
ウチが把握しているやけだけと 日本国内だと ここやけ なんやで…。」
「まぁ この規模の射撃場と厳重な銃管理が 実現出来る所は そうそう無いだろうしな…。
よし、これで良いか?」
「はい どーも…。
さて、今回は 射撃体験と言う事で、指導官としてウチ、マトイが付きますぅ…よろしゅー。
銃は 人の命ぃ奪う 危険なぁ武器ですぅ…扱い方 間違えれば 簡単に人 が死にますぅ…。
ウチの言う事、良ぉく聞ぃて安全に射撃を楽しんで行って下さいぃ。」
マトイは 無茶苦茶な発音の日本語を使って言う。
「はい、よろしく…。」
オレが 壁に掛けてある防弾繊維で出来ている シューティングベストと耳を傷めない為に必要なヘッドホン型のイヤーマフを付けながら言う。
「まずは ここでの銃の管理…。
セーフティはぁ常に掛けてぇ、マガジンは レンジにぃ入るまでぇ入れない。
弾が入ってのーても、銃口の位置をつねぇに意識してぇ下に向ける…。
トリガーは撃つ直前まで 指ぃ掛けない。
まっナオなら 分かっとるよな」
「ああ…そこら辺は 知ってる…。」
オレは ウージーマシンピストルを手に取るとセレクターがセーフティになっている事を確認し、ホルスターに入れ、右腰にぶら下げる。
これで銃口は常に下になる。
マガジンは ベストの腹に付いているポケットに突っ込む。
「さぁて、1番レンジに入って下さい~」
オレは1番レンジに付き、オレの斜め後ろにマトイが立つ。
レンジは、透明な仕切りで区切られており、銃の空薬莢が排莢される右側には 虫取り網が設置されている。
「銃 抜いてぇ…マガジン入れぇ初弾 装填。
目標はぁ25mの的、セミオートで6発、両手で しっかぁり 持ってなぁ」
オレは言われた通り、ホルスターからウージーマシンピストルを抜いて、マガジンを入れる。
「初弾装填、よ~し…セミオート、よ~し…撃つよ」
コッキングレバーを引いて、マガジンから初弾が薬室に入る。
セレクターを押し込んでタに入れ、両手で銃をしっかりと持ち、的の真ん中にアイアンサイトで 狙いを付ける…。
「ど~ぞ、発砲許可ぁ…」
パンパンパン…。
1発撃つごとに1秒程 狙いを付ける時間を作り、再度撃つ。
「全弾命中ぅ…10点に2発ぅ、5点に4発ぅ…精度も良いなぁ…。」
マトイは タブレット端末で、シューティングレンジ上のカメラで的を見ながら言う。
「次ぃ フルオートのバースト撃ちぃで、空にぃなるまで、撃ちぃ…素早くぅリロード…。」
オレは セレクターを押し込んでフルオートに切り替える。
「OK…フルオート…バースト撃ち、撃つ。」
ダダダ…ダダダ…ダダダ…。
3発を意識しつつ、指切り射撃で的に弾を撃ち込み、弾が無くなった所で、リリースボタンを押して空マガジンを重力で落とし、すぐにマガジンを入れて、コッキングレバーを引いて 初弾を装填…狙いを付ける。
「当たってる やけど、着弾点が上ぇ行ってるでぇ…。
次、フルオートで撃ち切りぃ…止めるなや」
「OK…撃つよ…うっ…」
フルオートで撃つとやっぱり、弾着がブレる…反動制御も難しい。
「撃ちぃ終わったら、セーフティ入れてぇマガジンを抜いてぇ薬室の残弾を確認しい…。」
「OK…セーフティ入れ、マガジンリリース…薬室確認、OK…ふう…。」
オレは 落としたマガジンを拾ってポケットに入れ、銃をホルスターに入れる。
「お疲れぇ…飛び散った空薬莢ないかや?」
「大丈夫…全部、網に落ちた。」
虫取り網の中には オレが撃った60発分の空薬莢が入っている。
使った弾薬を数える為だろう…出した数と使った数が合わなかった場合、誰かが弾を持ち去ったと扱われ、全部隊で空薬莢の捜索が始まる。
マトイも周辺に空薬莢が無い事を確認する。
「よし、銃を持って受付まで きぃ…。」
持って…ホルスターに入れたままでも 持ってになるか?
安全を考えるなら、銃をホルスターから抜かなくても良いか…。
オレは マトイに付いて行く…文句も言われていないし、如何やらコレが正解見たいだ。
受付の椅子に座ったマトイはPCを操作し、ディスプレイをこちらに向ける。
「これが、さっきぃの射撃のハイスピードカメラでぇの映像や…。
セミは問題ないんやが、ここ…バースト撃ちの際にぃ…銃口が若干、上ぇ向いてるなぁ…。
フルオートだとぉ…これや…。」
「うわっヒド…。」
最初の1発目から3発目までは 当たっているが、5発目で反動にビビッて 手がブレ、目も閉じている…。
7発目で的の外に弾が行き、10発目で銃を下に傾けて反動を押さえ付けて修正を掛けようとする…。
制御に苦労して着弾地点がばらけ、3割命中…7割外れ、反動が制御出来始めたと思った所で、弾切れ…ハイスピードカメラの映像によると 実際は、弾が無くなって反動が無くなった事で、制御出来た後に弾切れになったと錯覚した みたいだ。
「まっデフォルトの銃での初見でぇ これだけ撃てれば 十分やな…。」
「200m以下の射撃では A評価 貰えたのに…。」
「銃はぁ? 」
「P-90」
「なら、原因はぁ ストックやな…。
あれぇ付けるだけでぇ だいぶぅ言う事を聞く様になるぅ。
この映像を解析して ナオの癖に合わせた専用銃を造ってぇ、後は細かな調整やなぁ…。
まっ1週間て とこかなぁ…入社までにぃは 間に合わせとくぅ…。
それじゃあ、銃の返却ぅ頼みますぅ」
「あ~ハイハイ」
オレは銃とマガジン、ホルスターを返却してマトイに渡し、タブレットの書類にサイン、ベストとイヤーマフを脱ぎ、壁のハンガーにかけ、地上への階段を上がって行った。