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14 (給料日-ペイデイ-)

 6月25日…東京…朝、10時…高級宝石店。

「いらっしゃいま…なっ!」

 パス…パス…パス…。

「クリア…」

「こっちも…」

 バイザーがスモークシールドになっている フルフェイスヘルメットを被った突入班の私達は、一切の躊躇(ちゅうちょ)も無く 店員達を射殺して行き、次々と部屋を制圧して行く。

 それと同時に回収班は 宝石が飾られているショーケースをハンマーで叩き割り、中身の宝石を速やかに 背負える程大きな ドラムバッグに 入れて行く。

「ざまあ、みろ…」

「そろそろ5分です。」

「ああ もうちょっと…」

「欲張るな」

「はいよ…終わった。」

 宝石だらけになって パンパンになったドラムバッグのチャックを無理やり閉めて、次々と背負う。

 通勤時間帯の為、宝石店の周りには 大量の人がいるが、逆らう者は容赦なく射殺して それぞれが排気量を(いじ)った原付に乗り込み、アクセルを吹かして逃走を開始…事前に決められた指定のルートを通り、逃げて行く。

 突入から逃走まで10分も無い…非常に手際の良い強盗だ。


 通勤時間帯は 終わりつつあるが、それでも辺りは東京名物の大渋滞を起こしており、私達は、加速性能を上げた原付で スルスルと渋滞を通り抜け、信号を無視して進む。

 逃走の途中で パトカーのサイレンが聞こえて来る。

 パトカーは サイレンを鳴らして、車に道を譲って貰うが、この渋滞でロクに前に進まず、近隣の交番の警察官(マッポ)が自転車を必死に走らせている。

 最高速度では車に負けるが、この渋滞を無理なく すり抜けられる には、原付などの小型バイクが適任だ。

 まぁ例え追いつかれたとしても、向こうは 小口径のリボルバー…こちらが仕込んでいる防弾プレートは抜けないし、また射殺してしまえば良い。


 都心部を抜けて、同時に宝石店を襲撃していた別部隊が次々と集まり、ワンボックスカーの荷台に 次々と宝石が入ったバックを乗せる。

 その後、ヘルメット、ライダージャケットなどを脱いで私服や()()に着替え、ヘルメット、ジャケット、バイクを一ヵ所に集め、遠隔起爆の爆弾とガソリンをぶちまけて、各自 徒歩で解散…。

 各自がバス、タクシー、電車などの公共機関を使って 次々と現場から離れ、人が集まった所で爆弾を起爆して バイクを次々と吹っ飛ばし、宝石を積んだワンボックスカーは 堂々と渋滞が更に酷くなっている都心に戻って行った。


 ミハル警備、社員寮…談話室。

『被害者は 現在確認しているだけでも50人を越え…』

「ただいま…ん?ミハル?」

 朝のランニングが終わって寮に帰ってきたナオ(オレ)達が見たのは、談話室のソファーに座り、普段は 気が抜けた感じなのに 大型液晶テレビを真剣に見ている姿だ。

「あ~お帰り…これを見てくれ」

「ニュース?」

「ああ…どのチャンネルも この話で持ちっきりだ。」

「宝石強盗?

 盗みなんて今時、珍しくも…」

 オレ達はソファーに座る。

「狙われたのは 都心の高級宝石店…。

 1つならまだしも、12店が10時の開店と同時に襲われた。

 10分以内の短時間で 従業員を全員撃ち殺して、宝石店を制圧…。

 宝石をバッグに入れて 渋滞の中、原付で逃走。

 逃走中に邪魔だった住民も何人か撃たれている。

 現場は、周辺の人が呼んだ救急車と警察、更に殺人事件の報道で大渋滞…。

 こう言った場合、ヘリを飛ばして追跡するのが基本なんだが、ヘリが飛ぶ前に強盗団をロストした。」

「意図的に渋滞を作らせる事で撒いたのか…。

 で、次の仕事はコイツか?」

 オレがミハルに聞く。

「まだ確定じゃないが…多分な。」

 ブーブーブー。

 バイブレーション?ミハルのスマホか?

「私だ…ナオキ?」

『アタリを引いた。

 オレのスマホは 警察に監視(紐づけ)されているから、詳しい事は 直接 話す。

 30分後、マトイの所で…。』

「ああ…分かった。」

「それで?」

 オレがミハルに聞く。

「ナオキが 仲介していた謎の依頼人のターゲットのギャング組織だと言う事が分かった。

 つまり、仕事って事になるな。」

「てことは アタシ達は、出動待機だな。

 午前、午後、共に訓練は中止…。

 アタシ達は着替えて、出発前の射撃練習をして置くよ。」

 ユキナが言う。

「分かった。

 私も準備を終えたら的射 銃砲店(地下)に行く。」


 的射 銃砲店

「いや…何でフル装備で待機しているんだよ。

 まぁ皆、そこに座れ」

 ナオキは呆れた様子で ナオ(オレ)達をテーブル席に座らせる。

「それで…今回のギャングってのは?」

 ミハルが言う。

「組織名はPay(ペイ)day(デイ)…」

「確か給料日だったか?」

「いや、多分 元ネタは強盗ゲームのタイトルだ。」

 オレがナオキに聞いた所でミハルが補足する。

「更にその元ネタは ギャングで使われている『強盗をする日』の隠語…。

 つまり、強盗団の名前を掲げているギャングになる。」

「わっ…」

「構成員は?」

「日本支部だけなら6人程度…。

 この組織の特徴は、構成員の大半が 1回か2回かの仕事をした後にクビになる単発のアルバイトだと言う事。」

「とうとうギャングも非正規雇用なのか…。」

「まぁギャングって個人事業主ぽい所があるからな。

 報酬は1人辺り300万位…。

 雇用期間は 研修で1ヵ月、作戦は2日。」

「それって割が良いのか?」

 オレがナオキに聞く。

「割が良いと思う人を雇用しているからな。

 実行部隊は、高校生、大学生、人生が詰んだ中年…全員が生活が困窮(こんきゅう)している低所得者。」

「中年は まだ分かるが、高校生、大学生ってのは?

 まだ未来があるんじゃないか?」

「いや、金を稼ぐにしても ある程度の資産が必要だからな。

 金持ちであれば、ある程、安全に金が溜まり易くなる。

 例えば 私なら毎月資産運用しているだけでも、実質の不労所得で 1000万は入る。

 つまり、貧乏学生は 先の収入が知れているから、一発逆転を狙って まとまった金を稼ぎたい訳。

 奨学金(しょうがくきん)で学校を通っているヤツだと、最初から借金を背負ってスタートする事も普通にあるからな。」

 ミハルがオレに言う。

「なぁ?リスク 高過ぎ じゃないか?」

「その価値観を持てるのは、ナオトがナオキから金を貰っていて、生活に不自由が無いから…。

 私にとっては端金(はしたがね)に近いんだけど、金が無いヤツは、その端金(はしたがね)の為に人生と命を賭けないといけなくなる。

 だからこそ、殺しや強盗をやらせる為の需要が生まれる訳さ…」

「それで…また、コイツらをゴム弾で制圧して行くのか?」

「いや…全員 射殺…。

 金持ちが買いに来る宝石店を襲ったんだ…殺されて当然…。

 これが自分達が使わない店なら放置されて いたん だろうが…。」

 ナオキが答える。

「コイツらが こんな事をしているのは、政府の失策が原因だろ。

 なのに、法的手続きを踏まずに即射殺…それで良いのか?」

「貧乏だと 武装警備員を雇えないからな~。

 ミハル警備のお客が高所得者である以上、高所得者の理屈で動かないと行けなくなる。

 金を積めないヤツは正義を主張する権利も無い。

 それに 理由は 如何(どう)あれ、人を撃ち殺したんだ。

 殺されても文句は言えないだろう。」

「それじゃあ、下っ端を助ける手段は無いって事か…」

「そう、ぶっちゃけ、コイツらを殺した所で、組織としてのペイデイには、全くの影響がない。

 だけど、下っ端と言えど 殺しの依頼には 金が発生する。

 これは 低所得者の命で金を稼ぐビジネスだ。」

「……その低所得者って言うのは オレも含まれているのか?」

「正解、ミハル警備も やっている事は ペイデイと同じ、ハルは 自分が死にたくないから 金を払って、殺しのリスクをナオトに押し付けている。

 ヤツらとハルの違いは、従業員に金を掛けるか 掛けないかだな。」

「それで、倫理(りんり)的な問題は置いとくとして、ターゲットは?」

 ハルミがナオキに聞く。

「ああ、幹部以外の振込先の銀行口座は既に特定している。

 普通なら手渡しで渡す所なんだけど…。」

「まぁそっちの方がラクだし、バレた所で問題もないだろうからな。」

「それで、殺しのリストは後で確認するとは言え、その盗まれた宝石は?

 あんなの売れないだろう?」

 今まで話を聞いていたユキナが言う。

「売れない?宝石なんだろう?」

 オレがユキナに聞く。

「紙幣と同じで、宝石にもシリアルナンバーが入れられているんだ。

 何処かに売られれば一発で発覚する。

 しかも、12件分の大量の宝石を換金しなきゃ いけない訳だからな。」

「そう、国内じゃバレる。

 なので、海外に…具体的には中国の宝石商に売られる。

 盗品を扱っていて、更に大口となれば 結構 組織が絞れて来る。

 そっちは クライアントの別部隊が対処するらしい。

 まぁ横取り…つまり かっぱらうんだろうな。」

 ナオキが言う。

「そっか…なら良い、作戦を組み立てよう」

 ユキナがそう言うのだった。

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