13 (無慈悲な殺戮者)
CQB訓練室。
1枚絵の背景に カクカクな、如何にもポリゴンなデザインの廃屋の向上が見える。
その中には こちらに銃を模した細い棒を向けて撃って来る敵がいて、ナオが目線を合わせると そいつは死ぬ。
その他に銃を持っていない民間人がおり、コイツは目線を向けても死なない。
次…次…次…次…。
背景を変え、建造物を変え…何度も何度も…目線を合わせて敵を殺す…そして1時間後…。
「やっと終わった~…」
オレは工事用のヘルメットに画面類を取り付けた、お手製感 満載のVRヘッドセットを外して言う。
周りには ベニヤ板の壁の上と下に2台、オレを囲む様に4ヵ所…合計8台のカメラがある。
これは、オレの身体の動きをVR空間に反映させる為の物だ。
「随分と被弾回数が減ったな。」
少し離れた所でPCの画面を見ているミハルが言う。
「そりゃ1時間もやってればね…。
で、この訓練は?」
「目線と誤射 防止の訓練。
あらゆるシュチエーションでの敵がいる位置をナオの頭に叩き込んでいる。
銃を持っていない民間人は、素早く無視して、別の銃を持っている敵に 目線を向けさせる。
これをやると、敵に目線を合わせるまでのタイムを大幅に短く出来るし、銃なんかの形状には過敏に反応する様になる。」
「ポリゴンが カクカクなのは?」
「単純な図形や輪郭で覚える方が 頭に入り易いから…。
このロックタイムが限界まで短くなったら、次はVR銃で敵を撃つ訓練…もちろん、民間人は 撃っちやダメ…。
それと、敵の銃口の穴が見えると無意識に避ける様にする…。
これを突き詰めると 被弾確率が大幅に下がるし、不快感から射線を感じ取れる様にもなる…らしい。」
「らしい?」
「VR訓練は まだ実験 段階だからな…不快感ってのも抽象的過ぎだし…。
ただ、大なり小なり 皆 強くなっている事は確か…。」
「これ、未来予測システムだよなDLの…。」
「あ~そっちに行っちゃうか…。
まぁアナログで脳みそにインストールしているとも言えるな…」
「時間かかり過ぎだろう…。」
「さっ…もう一度行くぞ」
「はいよ…」
オレは またVRヘッドセットを被り、目線の訓練を始めた。
ミハルとナオがVR訓練を始めて数日後…。
そこには、敵が現れた瞬間に 即座に身体を撃ち抜く、凶悪な悪魔が誕生していた。
民間人を撃ち殺してしまうのは 相変わらずだが、反応速度が異様に高く、敵の射線には一切、入らない。
相手が 気付く前に殺す。
相手が 銃を抜く前に殺す。
相手が 銃が撃つ前に殺す。
敵の発砲音がならず、銃声がなるのは こちらだけ…。
もう 低ポリゴンでは無く、液晶ディスプレイの画質が荒いとは言え、最新のゲームエンジンを使った実写に近いグラフィックの敵を相手にしているのだが、敵に躊躇なくぶっ放す。
そこには、新兵特融のトリガーの迷いは無く、ヘッドセットを被っているナオの顔を見ると、口元が笑っている。
実写に近い人間を撃ち殺すと 精神的ストレスを感じる可能性があると、トニー王国から報告書が上がっていたから ローポリから慣れさせていたが…。
相手が殺された時の気持ちなんて 考えない共感能力が皆無な ナオは、現実に近い人を撃ち殺していると言うのに、完全にゲーム感覚で、ストレスに すらならない…いや、むしろストレスを解消している気もする。
「本当に良い腕だな。」
PCを見ながら私が言う。
人としてはクズだが、突入作戦をやる兵士としては十分に優秀…。
ただ 人質を撃ち殺さないかが 不安と言えば不安だが、そこは 配置次第だろう。
「如何だ?」
「良い腕…それじゃあ、銃の性能を少し落としてみるな…」
今までは、おおよそ狙いを付けていれば、システムが補整を掛けて弾が当てくれたが、今度はリアル寄りの弾道だ。
「おっウージーマシンピストルか…」
VR空間内のナオが持っていた銃が、ナオがいつも使っているウージーマシンピストルに変わる。
「そ、カスタムも再現してある。
まぁ現実には 銃もストックも無い訳だから違和感が出ると思うが…」
「問題無い…」
「うん…これ位で良いだろうな…。
ナオの記録をベースにユキナとグローリーもVR訓練をする」
「3人 まとめて訓練が出来れば良いんだがな。」
「この手作り感 丸見えの通り、トニー王国は液晶ディスプレイについては 遅れているからな。
今でもブラウン管見たいな レーザーディスプレイを普通に使っているし…。」
「珍しいな…研究の国が遅れを取るなんて…。」
「液晶ディスプレイの素材が国内じゃ取れないんだよ。
だから自前で作れるレーザーディスプレイが今でも主流の訳。
あの国は経済制裁を喰らっている国だからな…。」
「そっか…」
トニー王国は 表向き NATOにもWPO陣営にも協力しない中立を主張している。
まぁ実際には、ロシアやら中国が度々日本に領空侵犯をして、それを自衛隊と手伝って追っ払っているので、日本、アメリカ寄りと言えなくもないのだが…。
「えーとじゃあ、次は ユキナか?」
「そう、それじゃあ、ナオはトレーニングルームに行ってユキナを呼んで来てくれ」
「分かった。」
オレはそう言い、CQB訓練室から出てトレーニングルームに向かった。




