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12 (殺す事より生き残る事)

 ミハル警備、グラウンド…。

「?」

 真っ白い大型車両が敷地内に入って来ている…見慣れない車両だ。

 的射 銃砲店 目的の乗用車やらバイクは普通に見るが、大型車両は珍しい。

 ナオ(オレ)は駐車場に向かう…。

 車を運転していたのは ミハルだった。

「よっと…おっナオか…」

 ミハルが運転席のドアを開けて軽く飛び降りる。

「新しい車か?前に言ってた」

「そう…良いだろ」

「まぁ…てか、何というかコレ…救急車?」

 赤色のランプ類は 付いていないし、側面に赤色のラインも入っていないが、車種は分からないが、救急車に使われている車両だ。

「おっ…気付いたか…。

 コイツの車種は パラメディック…」

「メディック?衛生兵?」

「いや、パラメディックだと、救急救命士…。

 まぁ負傷者を生かして病院に運ぶって意味じゃ同じだけど…。

 大本の規格自体は そこらを走っている救急車と同じ、ただ装甲は レベル3の防弾仕様、運転席には 軍用無線とモニターを完備…現場の指揮所として十分な機能を持っている。

 次の作戦は ガチで撃たれる可能性があるからな…。

 最新の訓練とボディアーマー…それとコレ…指揮所、(けん)、野戦病院。」

「近くの病院に行くのはダメなのか?」

「ダメじゃないが…戦場での一番の死因は、大量出血による失血死だ。

 撃たれたから10分以内に何をするかで、そいつが 生きるか死ぬかが変わって来る。

 ボディアーマーやメット無し、応急処置の知識無しの兵士が 銃で撃たれた場合、70%以上の確率で失血死…。

 これがボディアーマーやメットを被ると50%…。

 適切な応急処置まで出来れば 30%まで下がる。」

「そんなにか…てことは、あの機動隊も、適切に治療すれば 助かっていたのかな…。」

如何(どう)かな…。

 普通、兵士なら応急処置キットを1人1つ持って行くんだが、誰も 持っていなかったし、応急処置もヘタ過ぎる。

 ナオに顔を撃ち抜かれて 即死させられたのが20人位…。

 股間を撃ち抜かれて大量出血させられたヤツが10名。

 他、爆死やガスで死んだヤツはいたが、100人以上は、応急処置の不備による失血死…。

 各機動隊員が 応急処置キットを持って、適切に治療が出来たなら、少なくとも 半数は 助かっていただろうな。」

「それが、オレが あんな戦果を出せた理由か…。」

「そ、近日中に個人用の応急処置キットが届くから、そしたら応急処置の訓練だ。

 ほら、サボってないで 午後からはトレーニングだろ…。

 ちゃんと給料払っているんだから、サボらず働け…。」

「ああ…そうだな。」

 オレはそう言うと、作業塔のトレーニングルームへと向かった。


 健康診断が済んだ 数日後…。

 トレーニングルームに ミハル、オレ、グローリー、ユキナ、ユイと荒事を行うアサルト(A)部隊が集まる。

「さて、色々と迷ったが、米軍のIFAKII(アイファク2)規格で揃えた。」

「アイファック?」

「それじゃ『私、クソ』になるだろう…。

 アイファクだ。

 マジでこれが あるのと無いのでは、生存率が違って来るから しっかりやれ…」

「「はい」」

「まずは 内容物の確認…。

 物だけじゃなく、入っている位置も覚えろ。

 米軍だと1分以内に応急処置が終わるらしい。」

「1分か、早くないか?」

「血が出れば 出るほど、身体に酸素が行かなくなって、まともに身体が動かなくなるからな…。

 戦場で動けなくなったら 次の弾を受けて死ぬし、戦うにしても逃げるにしても、動くなら 迅速(じんそく)な応急処置が必要だ。

 よく映画とかである『これ位 かすり傷だ』とか言って治療しないまま戦ってはダメって事。

 さて、まずは 基本の止血帯から…。」

 『止血帯』は 主に手足が負傷した場合に使い、負傷ヶ所の上部から止血帯で圧迫して、血液を遮断(しゃだん)する事で傷口からの流血を防ぐ…。

 ただ、この方法は 血液が供給されていない場所が、酸素不足で壊死する事になるので、最初は血液を遮断(しゃだん)する程キツく締め、30分後に多少緩めて末端に血液を流す…その為に止血帯には 時刻を書く場所がある。

 これで、気を失って搬送されたとしても、30分経ったら仲間が止血帯を緩めてくれる訳だ。

 次に『圧縮包帯』…これは 伸縮性がある包帯で、出血部に直接 巻き付け、圧迫して止血する。

 この包帯を止める為には『ダクトテープ』があり、これを巻き付け、後は 布状で片手でも巻ける『救急包帯』を巻き付け、傷口の応急処置は 終了。

 これを 全身 どこがやられても、1分以内で自分でやる事になる。

 

 続いて、負傷者が自前で対処が 出来ない時に味方が使う器具。

 まずは 救出の為の器具『ガーバーストラップカッター』。

 これで、ガラスの破壊、シートベルトの切断、更に服を切る事も出来る。

 味方を救出したら『ゴム手袋』…。

 感染防止の為の使い捨てタイプで、2セットある。

 余裕があるなら これをはめて、止血などの応急処置をする事になる。

 応急処置が終わったら、『経鼻(けいび)エアウェイ』

 これは、相手の意識レベルが低い場合、舌が気道を塞いでしまい窒息してしまう事を防止する為の器具で、チューブの形のコレを鼻の穴に突っ込んで、最低限の空気が入る様にする。

 後は 眼球を保護する『アイシールド』。

 胸に穴が空いた場合 使うのが『チェストシール』…。

 胸に穴が空いた場合、穴から空気や血液が入って肺を圧迫し、呼吸障害、心臓の機能を阻害する一番面倒な事が起きる。

 なので、真ん中に1方(べん)が取り付けられている このシールを張り付け、中の空気や血液を逃がして肺や心臓への圧力を下げる。

 で、全部が終わったら『負傷者記録カード』に『マジックペン』で、処置の内容や時間などを書いて終わりだ。

 マネキンを使っての実習も含めた講習で、おおよそ2時間になる。

 流石に1分以内の治療は出来なかったが、3分を切るまでになった。

「あっそう言えば、ミハル…心停止は?

 自衛隊のPKO品には、人工呼吸用シートがあったんだが…。」

 ユキナがミハルに言う。

「エアウェイがあるから、マッサージだけで良い。

 ただ…外傷による心停止が起きた場合、社会復帰出来るまで回復する確率が1%だ。

 しかも、コレ…負傷してから5分以内に野戦病院に運ばれて、すぐに手術をしないと助からない…心臓に穴が空いちまっている訳だからな。

 つまり、実質の死亡と判断して良い。」

「………。」

 まだ付き合いが浅いが、2人のどっちかが、心停止を起こした場合、オレは見捨てる事が出来るか…。

「まぁ…そうお手上げな状態に ならない様に防ぐのが、メットとボディアーマーなんだ。

 ウチが採用しているのは どっちもレベル3…一応、7.62mmは防げる。

 とは言え、衝撃を消せる訳じゃないから、気絶は確実かな~

 さて~これが、今までの治療方法だ。」

 ミハルが暗い雰囲気を吹き飛ばすかの様に陽気な声で言う。

「これからは、最新の治療方法…。

 それじゃあ、更衣室に行くぞ」

「何で更衣室?」

 オレはそう言い、皆と一緒にミハルの後ろに付いて行った。


 的射 銃砲店の隣の部屋にある更衣室には、ツナギや防弾チョッキ、ヘルメットなどが仕舞われている個人用のロッカーがある。

 ミハルが鍵を開けてロッカーを開けると、3着の服を出した。

「はい、これに着替えて…」

 渡されたのは 新しいツナギだった。

 オレは 自分のロッカーに行ってドアを開ける。

 ロッカーのドアには カーテンが付いていて、展開すれば 中に入って着替えるが出来る。

 オレは 服を脱いで下着状態になり、ジッパーを降ろしてツナギを着る。

「冷たっ」

 裏地には ゼリーの様な弾力があり、皮膚と密着して 体温を吸収する。

 表の生地を顔を近づけて布を よく見ると、極小の黒い糸が 視認限界ギリギリの密度で編まれている。

 ツナギの厚さは 分厚く、1cmは普通にある。

「厚めのウエットスーツ位ですかね~」

 隣のロッカーで着替えているグローリーが言う。

「あ~これ、ブラと干渉するな…脱ぐか…」

 その隣のユキナが言う…2人ともカーテンを掛けずに そのまま 着替えている。

 オレはジッパーを上げて、マジックテープの生地でジッパーの上から覆いって完成だ。

「パイロットスーツか?

 トニー王国の?」

「そ…トニー王国の兵士が標準装備出来ている パイロットスーツは、メットとエアタンクを付ければ、予備呼吸無しで 宇宙空間での船外活動も出来るんだが…これは、余分な物を省いて 地上用に特化させた簡易版。

 防弾性能はレベル3A…拳銃弾なら受け止められる。

 で、これがヘルメット…フルフェイスにして バイザーを付けたから、顔への射撃もこれで防げる。

 ちなみに こっちは、レベル3…ライフル弾に対応しているな。

 これで、撃たれても 治療で如何(どう)にかなるレベルに出来る。」

「何と言うか…戦隊物のヒーローだな。

 皆ブラックなんだけど…」

 ユキナがサイズを調節した防弾チョッキを上から着て、ヘルメットを被る。

「多少 動きに違和感がありますが、分厚い服を着ている割には 柔軟性があって動きやすいですね…。

 あっ…でも、これ炭素繊維ですよね?」

 グローリーがミハルに聞く。

「ああ…炭素繊維、耐弾ジェル、ガラス繊維、合成ハイドロゲル、シリコンゴムの複合装甲。」

「じゃあ、切れませんよね…。

 全身が防刃、防弾チョッキになっている訳ですから…」

「そう…切るのは難しい。

 だから、ジッパーを降ろして服を脱がせて手当をする事になる。

 ただ、この服だと 撃たれた時の応急処置が非常に簡単だ。」

「合成ハイドロゲルだな。

 血液に触れると、すぐに固まる。」

 オレがミハルに言う。

「そう言う事…。

 弾がスーツを抜けた場合、傷口を強く押さえると、破れた箇所から合成ハイドロゲルが傷口に流れて止血が始まる。

 まぁ後で、私が手術室で 面倒なゲルを取り除いて、血管を塞ぐ事になるんだけど…そこは 私の仕事だな。」

「何と言うか…本場の特殊部隊でも 使っていない 最新装備ばっかりだな。」

 ユキナが言う。

「まぁ やっている所は あるんだろうけど、まだ実証実験中だろうしな…。

 それに この服、ぴっちり作らないと いけないから、完全オーダーメイドで、1着50万円…しかも実証 実験用の特別 割引価格。

 普通に売るとなると、200万は 行くかな…。」

「200万か…1発喰らったら使えなくなる物に200万も 出せないよな。」

「そうそう撃たれる機会の無い 政府要人だったら、普通に払う金額かな。

 金持ちは 安全を金で買うから…。

 とは言え、まだまだ その信用も足りない のだけど…。

 それじゃあ、それを着てトレーニングルームで動き回って来ると良い。」

「50万の服か…オレの服なんて全身でも1万いかないぞ」

「高い服だからって 気を使わなくて良い。

 そんなヤワな作りになっていないから…ほら行け」

「はい…」

 オレはミハルにそう答え、またトレーニングルームに戻って行った。

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