11 (銃のグローバル経済)
社長室…。
「入るぞ」
「どーぞ」
ハルミが気楽に返答し、ナオキはドアを開ける。
ハルミは 事務作業をしているキーボードの手を止めてソファーに座る。
「リアルで会うのは 久しぶりだな。」
「またかよ…皆、第一声が『久しぶり』だな。」
「それだけ、日本を空けていたって事だろ…」
「まぁな…それにしても、仕事中悪いな…」
「ああ…これか、株だよ…資産運用…。
この前 ロシアンマフィアの関連企業に大量の株の空売りをしていたんだが、偶然起きた 事務所へのカチコミで一時的な大暴落…。
今、空売りした金を回収し終わった所」
「うわっインサイダー取引かよ…」
「まぁアレは 表向き『抗争』って事になってるし…。
それで…売り込みは?」
「順調…今、データを送る…」
「受け取った。」
ハルミが ARウィンドウを開きデータを確認する。
「俺達が育てて来た ダナオ市の銃 製造会社『ターゲット・シューティング』の新しい密輸ルートを構築 出来た。」
ダナオは 元々、親子3世代に渡る 密造銃 職人の町で、当時は、鉄の廃材なんかを融かして作った手作りのコルト ガバメントを作っていた。
1日12時間労働、1ヵ月でハンドガンを6丁作り上げ、1丁、115ドル程度で買い叩かれ、これが最終的に2000ドルに化ける。
集まった 密造銃は 金属探知機検査が無い フェリーなどを使って 海上ルートで アメリカなどの国に運ばれる。
アメリカに着くと それが800ドルで売られ、銃規制が厳しい地域だと 法律ガン無視のゴーストガンの需要が上がり、2000ドルにもなる。
で、アメリカで 人を殺した銃は、銃の指紋でもある 線状痕が警察のデータベースに登録されてしまうので、使用済み銃と呼ばれるようになり、使えば 使う程、捕まる危険度が上がり、その分、銃の価値が安くなる。
で、何人も殺して200ドル位まで 安くなり過ぎた銃は、大量に集めて別の売人に売られ、国境を越えて 線状痕が登録されていない他国に行って 銃の犯罪歴を洗浄し、1丁1000ドルで売られて ボロ儲けとなる。
そして、それを買った人が また 人を殺す。
そんな事を何度か繰り返した銃が 最終的に辿り着くのは 紛争地帯だ。
だが、金が無い現地住民は 銃を買えないので、マリファナ、コカインなどの麻薬と物々交換され、その麻薬を 需要が高いアメリカなどの国で売られて、現金に還元される。
そして、その金で銃が買われ、それと同時にアメリカ国内に ヤク中が蔓延する。
「今の時代、銃や麻薬も資本主義に乗っ取って、グローバル経済しているからな…」
俺がハルミに言う。
「で、そんな状況を解決する為に 私が現地の銃の密造グループをまとめて、工場と旋盤やプレス機を導入して、大量生産が出来る様にする事で、現地の住民を雇用を促進し、経済が好転した。
今では マトイなんかの優秀なガンスミスが作る ダナオの銃は、正規銃、非正規銃、問わず人気で、ダナオは ガンスミスのメッカとか呼ばれている。」
「で、今回 俺が海外に行って やっていたのは、この銃が流れる密輸ルートの最適化だ。
これで『ターゲット・シューティング』の世界での ゴーストガンシェア率が、急激に上昇し、ハンドガンは ダナオ製が多くなり、武器供給を操作する事で 特定の組織を強化させたり、弱体化させたり、戦力調整が出来る様になった。
後は、明らかに許容が出来ないギャングについては、FBIに情報を流す事で、協力関係を構築している。
これで、ゴーストガン業界にも一定の秩序を維持出来る様になるから、射殺される死人は 無くならないまでも、緊急時に対処 出来る手段は 大幅に増えるな…。」
「これ 凄いな…よく3年で…」
「まぁギャングはともかく、マフィアの協力もあったからな。
アイツらとは 色々と価値観は違うが、金と言う共通の価値観があった。
なら、そこからは もうビジネスだ。
ボスに会って 普通にゴーストガンの営業をして、顧客を増やして行った。」
「よく商談がまとまるよな。」
「1丁の銃で、数人しか殺せないからな。
安定した銃の供給元は どの組織でも需要がある。
そこを突いた訳だ。
でだ…俺と繋がりがある とある匿名組織から、俺を中継してミハル警備に仕事の依頼があった。
仕事内容は 指定したギャングの日本支部の壊滅。
報酬は1億…前金3000万、成功報酬が残りの7000万。
敵人数は120人以上…」
「多いな…」
「まぁ こう言った組織は、頭 何人か殺れば、空中分解するだろうから、実際、そこまで難しくはない。
とは言え、これから 敵組織の内偵なんだけど…。
この案件、120万で俺を雇ってくれないか?」
「クライアントの仲介、敵情視察まで全部やると?
もう、ナオだけで良くないか?」
「規模的に考えて 数と強力な後ろ盾が必要だ。
それにミハル警備が日本支部を壊滅させた事実が、向こうの牽制になる。
少なくとも上は そう判断している。」
「ふむ…経費は?」
「7.62mm弾、150発…。
海外だと金さえあれば、ジャラジャラと手に入るんだけど、日本で自前で作った弾も、もう足りなくなって来てな。
ハルミの事だ。
先日、ロシアン マフィアの事務所から奪った弾薬箱が大量にあるはずだろ。
マトイに許可を出してくれ」
「よくご存じで…「あっマトイ、員数外の7.62mmの弾を150発、ナオキに出してくれ…ああ、構わない、次の作戦には ナオキも参加する。」
ハルミが内線でマトイに連絡する。
「作戦を了承って事で良いんだな。」
「ああ…成功報酬で120万、用意しておく」
「助かる…そんじゃあ、俺は偵察に行って来るよ」
そう言い、俺は部屋を出た。




