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10 (甚平姿の殺し屋)

 新宿。

「ははは…やっぱり任せて良かった。

 ハルミ…アンタこそ、俺の母親だ。」

 周囲から浮きまくっている甚平(じんべい)姿のナオキ()が、スマホを耳に当て歩きながら言う。

『私もあの子に興味を持っていたからな。

 まぁ…あんな出会いになるなんて、想定外だったんだが…。

 ナオは この事を覚えていたのか?』

「まぁ…学校で機動隊を皆殺しにして 武装警備会社に入った所だけ…。

 記憶が鮮明に蘇ったのは、現場にいた あの時だな。

 俺の記憶の復旧が不完全だったのか、社長のアンタの顔も すっかり忘れちまっていた。」

『これからは?』

「近日中にマトイの(とこ)に 俺の銃を取りに行く。」

『ナオトとは?』

「出来れば 偶然、その時に会いたいかな…俺、接近禁止命令が出ているから~」

『守る気が無いクセに…』

「まぁな…おっお客さんだ。

 それじゃあ、また行く時になったら連絡を入れるよ…」

 俺は通話を切る。

 ケータイの基地局を挟まない 軍用 無線機による暗号通信だな。

 所属は自衛隊か?機動隊か?はたまたアメリカか中国かロシアか…。

 この国は スパイ天国の為、所属を特定する事が出来ない。

 無線の暗号を解析………終了、傍受(ぼうじゅ)開始…。

「なるほど…」

 俺は回りに高いビルが並び、見晴らしが良い場所に着く。

「やあ」

 通信元に対して手を振る…次の瞬間。

 オレの眉間の前で銃弾が緑色の粒子に包まれ、空中に止まった。

 思考加速と、空間ハッキングを使った運動エネルギーの操作『通行止め』。

 弾は 12.7x99mm NATO弾…対物ライフルに使われる弾で、気軽に人に撃って良い物じゃない。

 まぁ人じゃなきゃ良いんだが…。

 俺は(つか)まえに来た警察を普通に殺せるし、手錠や牢屋に入れたとしても、普通に破れる。

 運良く 俺を絞首刑に出来た所で、首が頑丈な俺を殺す事は出来ない。

 だから、法執行機関だと言うのに法を守らず、対物ライフルで俺の頭を吹き飛ばそうとする。

 周りの誤射は考えていないのか?

 幼女を助ける為に熊を殺した じいさんが、今、猟友会を守る為に必死に訴訟をして戦っていると言うのに、法を守る人物が法を気軽に破る…そして、法を破った事には ならない。

 それにしても良い腕だな…。

 発射地点は 1km先のビルの屋上…銃は アメリカのバレットM82か…良い精度だ。

 俺は飛んで来た運動エネルギーをすべて反転させて、狙撃手に弾を送り返した。


「うっ…うわっ」

 突然、狙撃兵()が構えていた狙撃銃が 砕け、はじけ飛んだ。

『何が起きた?

 状況を伝えよ』

「わからない目標は?」

 ライフルから外れたスコープを覗き込む…が、甚平(じんべえ)姿の目標(ターゲット)は、ピンピンした様子で手を振り返している。

「嘘だろ…」

 狙いは正確だった 対物ライフルの弾を無力化して こちらにカウンターを決めて来た。

 もはや アレは人じゃない…人の形をした化け物だ。

『それが嘘じゃないんだな…』

「ひっ…」

 オペレーターの声では無い 男の声に私は驚きと寒気を感じる。

『おっと、公安か…。

 近日中にアンタのボスに報復をさせて貰う。

 アンタも すぐに配属先が変わるだろうよ…。

 そんじゃあ、よろしく…』

『………おい、聞こえているか?

 おい…無事か?』

「無事じゃなさそうです。」

 私は オペレーターにそう答えた。


 数日後…。

「おっここか…」

 某ライダーが乗りそうな、前面が濃いピンクで、他が白のDN-01(大型スクーター)に乗った甚平(じんべえ)姿のナオキ()が、ミハル警備の門の前に たどり着き、中の駐輪場に止め、ヘルメットを脱ぐ。

「経営は 上手く行っている みたいだな」

 俺はスマホを使ってハルミに連絡を取る。

『ナオか…ちょっと早く来過ぎだな。

 30分待ってくれ…』

「いや…予定通り1時間後で良い、先にマトイの方に行って来る。」

『分かった。』

「さてと…()()に会いに行きますか…」


 的射 銃砲店。

「ちわーマトイいるか?」

「いるでぇ…」

 ナオ(オレ)の射撃訓練中に誰か客がやって来た。

「おお珍しいなぁ…何年振りかぁ…」

「3年ぶり…前に預けた銃は まだあるよな…。」

「あるでぇ、てか、あんな凶悪な銃…何の為に使うんやぁ…。」

「そりゃ、殺しだろ…。

 それに アンタは あくまで銃の管理と整備…用途の詮索しない…じゃなかったか?」

「公式な書類にはぁ残さないってだけやぁ」

「マトイ…終わったぞ、合格点…ん?…ナオキか?」

 甚平(じんべえ)姿に胸には指輪を吊るしたネックレス…()()ナオキだ。

「お~愛する息子よ~ちょっと見ない間に こんなに大きくなって…」

 ナオキが大袈裟に手を広げて言う…コレ、泣きながら抱き着くのが良いのだろうか?

「それ、父親が言う言葉じゃないから…」

 実際、オレがナオキと最後にあったのは、習志野のナオキの家にオレが引っ越して来た時で、役所の手続きやら 中学校の入学手続きやらをした数日になる。

 その後は、電話などのやり取りは あれど、リアルで会うのは 3年ぶりだ。

 まぁ税金の類は ちゃんと払ってくれているし、毎月10万の生活費をオレの口座に振り込んでくれるので、オレからすると 父親と言うより支援者と言った感じになっている。

「で、今度は何処(どこ)に行って来たんだ?」

 ナオキは 特戦をクビになった後、特戦時代の人脈を使って 詳しい事は 知らないが 裏稼業をやっている。

「アメリカだと『ニューメキシコ』と『アンカソー』フィリピンだと マトイの故郷の『ダナオ』後は、休暇にトニー王国。」

 トニー王国以外 全部 治安が悪い地域だ。

 ナオキの事だから裏稼業を通して、国を良くしようと しているんだろうが…。

「で、ナオトも (こっち)に来ちまったか…。

 一応、表で暮らして欲しかったんだが…」

「悪いね…」

 オレがナオキに言う。

「まぁこうなる事は ある程度 予想はしてた からな…。

 それで マトイ…俺の銃を出してくれ」

 ナオキは マトイにロッカーの鍵を渡す。

「はいよ…ウチが預かってるぅ銃でぇ、一番凶悪な銃やからな。」

 マトイが奥の猟銃などを入れてある 長物ロッカーから、背負うタイプのガンケースを持って来て机に乗せ、ナオキが ガンケースを開ける。

「うわっ…」

 確かにコレは凶悪銃だ。

 ガンケース中のスポンジに丁寧に包まれていたのは、フルカスタムされたF-2000だった。

 ホロサイトは 最新型の目標の距離によって着弾点を計算し、自動補正機能が付いているタイプで、それにスコープが取り付けられている。

 下部には、単発式の簡易ショットガンとレーザー距離測定器が取り付けられている。

「マトイ…コイツの試射をしたいんだが…」

「……。

 あほっ…ウチん会社はぁ猟銃とぉ拳銃の弾ぁしかあらへん。

 それにぃ7.62mmなんか撃ったら壁に穴が空くぅ」

 5.56mmから威力の高い 7.62mmのバレルに改造してあるのか…。

「じゃあ、コイツは?」

 ナオは甚平の裏に手を突っ込み、S&W M500のショートバレルタイプをベースにしたカスタム銃、交渉人(ネゴシエーター)を取り出す。

 50口径の弾を撃てるリボルバーで装弾数は5発…。

 威力が高い弾を使っているので 高反動と言う欠点はあるが、山で熊や鹿に襲われた時には 非常に役に立つ。

 まずは そのゴツい見た目の銃を突きつけて、穏便に交渉をし、交渉が決裂したら 即座に相手にぶっ放し 即死させる…ナオキが使う サブウェポンとしては 最適なチョイスなのだろうか?

「はぁ…撃たんといてぇ」

 マトイがため息を()く。

「ん?F-2000が気になるか?持ってみるか?」

「ああ…重っ」

 F-2000は 性能としては 非常に優秀な銃ではあるが、小型化が難しい最新装備てんこ盛りの本体は 非常に重く、6㎏は普通に行っているだろう。

 高額な運用費用と重さ、それに耐えられる身体なら、この銃は 最強になるのだろうが…オレには 到底 無理だ。

「ははは、だろうな。」

 オレから大した重さではない様に F-2000をヒョイと取り上げる。

「うん保存状態は良いな。」

「どーも」

「そうだ…ナオトの銃は?

 おおウージーマシンピストルか…良いチョイス。

 今、自衛隊やら警察で配備が進んでいるからな」

「そう言えば、何でマシンピストルなんだ?

 自衛隊なら サブマシンガンやアサルトライフルの方が良いだろうに…。」

「ハイローミックス構想があるからな」

「何でここで戦闘機が出る?」

「銃の世界でもハイローミックスがあるんだよ。

 ()、特戦と豊和銃器(ほうわ)で 開発している次世代アサルトライフル…。

 配備が2020年予定だから、通称20式小銃…があるんだが、自衛隊全体に行き渡るのに30年は掛る予定になっている。」

「30年もか…」

「そ、配備終了が 2050年…技術的特異点(シンギュラリティ)後の世界だからな。

 マジで冗談抜きで 他国は エネルギー弾を撃つSF銃で 撃ちあっている中、こっちは時代遅れの骨董品…20式で戦うなんて事も普通にありえる話だ。」

 シンギュラリティとは、コンピューターが次世代機の設計図を作れるだけの処理スペックに到達する地点だ。

 この地点を越えると、コンピューターの世代交代とスペックが加速度的…の表現すら超えて 進んで行き、人が思いつくような事は、莫大(ばくだい)な コンピューターの処理スペックによるゴリ押しで そこまでの到達方法を導き出してしまう…。

 つまり、あらゆるSFが現実レベルに降りて来る世界だ。

「うわっとなると調達速度を速めるのか?」

「いや…補給部隊だったり戦車だったり、基本 歩兵戦闘を行わない部隊には、安くてカスタムが容易な ウージーマシンピストルで2050年まで しのいで貰うんだ。

 その代わり、戦闘部隊には、30式、40式、50式と10年刻みで新型銃が配備される事になっている。」

「補給部隊の戦闘力が下がらないか?」

「確かに 攻撃力は下がるけど、9パラと言えど 1発撃たれれば、相手は衝撃で真面に動けなくなるし、部隊で連携して何発も撃ち込めば、流石に相手は死ぬ。

 むしろ、ロクに()()()()のに 重い銃を持って移動しなきゃいけない自衛官が大半だから、銃は コンパクトで 軽い方が良い。」

「攻撃力より、運用面で決めるのか…。」

「まぁ撃っていない時間の方が、圧倒的に長いからな。」

「それでぇ…ナオキは 真逆な銃をぉ使っているぅ訳やがぁ?」

「そりゃあ 俺の場合、バイクに銃を乗せて 現場に行って、撃って、また すぐ銃をバイクに乗せて帰るHit(ヒット) &(アンド) Away(アウェイ)方式で動いているからな。

 多少 重くても性能がある方が良い…。

 それじゃあハル…の所に行って来る…良い時間だしな。

 ナオトも、一緒に戦える日が来るのを待っているよ」

「ああ…」

 そう言ってナオキは ガンケースを背負って的射 銃砲店を出て行った。

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