08 (健康診断)
ミハル警備内、ミハル診療所。
部屋の中には大きな棚に大量の薬品があり、奥の部屋は完全な無菌室になっており、手術にも対応している。
今日は年一の健康診断の日だ。
白いTシャツを着た従業員達の心拍数、血圧を測り、服の上から聴診器を当てる。
人の壊れ方には それぞれ個性があり、効果的な治療の方法も微妙に変わって来る。
医師には 大きく分けて2種類のタイプがいる。
1つは特化医師…。
細分化された1つの分野に関しては 非常に優秀な医師で、主に大病院に勤めている。
もう1つは 汎用医師…。
それぞれの分野の知識は特化医師に劣るが、全分野を満遍なく抑えている為、治療をあえて諦める事も出来る…私はこっちになる。
病気とは、色々な臓器の不調が絡まり合って起きる現象なので、1つの臓器を治してしまうと 他の臓器に負荷が掛かり、別の病気を生んでしまう。
なので臓器の性能低下を老化として 低いレベルでバランスを取る事で、結果的に大きな病気回避する事が出来る。
ただ、医療業界としては、特化医師の方が給料も地位も高く、汎用医師は、人があまりいない地域で 小さな診療所を運営する都合上、給料も地位も低い。
このせいで汎用医師があまり育たないのが現状だ。
特に ここの従業員達は、10年20年 刑務所の中にいたクズが多く、各臓器の老化による体調不良も多い。
壊れ方も人によって細かな違いやクセがあり、これを把握して適切に治すのが掛かり付けの医者だ。
次に口を開けさせて歯をライトで照らし、デンタルミラーで虫歯を見る。
最前線で歯が痛み、戦える状況では無くなって撃ち殺された兵士もいる。
死に直結する可能性が低いから|蔑《ないがしろにされがちだが、地味に重要だ。
「虫歯は無いけど乳歯が多いな。
ナオの歳なら抜いた方が良いんだけど…。」
ナオの歯は 毎日プラークチェッカーを使って歯磨きをしている為、健康そのものだ。
「あ~一部、永久歯が無いって歯医者が行ってた」
「あ~そう言う事か…はい良いよ…」
「それにしても、歯医者も出来るんだな…。」
「前線で歯が痛み出して戦う所じゃないヤツも出るからな…。
ただ あくまで応急処置…。
虫歯の部分をドリルで削って、歯の中を消毒して、詰め物を入れるだけ…。
戦闘が終わって撤収した後で、専門の歯医者に通う事になる…必要な設備が違うからな…。
まぁ今だと 戦場に行く前に 虫歯の検査と治療をする事になるんだが…。
はい、次…」
続いて採血だ。
腕に注射器の針を刺して血を抜いて行き、名前と番号を記入して採血用の箱に入れる。
血液検査は 数が多いので 外部の病院に委託する…。
そして、最後は レントゲン。
これも取ったレントゲンを外部に委託する。
後は結果待ちだ。
「ふう、やっと終わった~」
ARのスポーツドリンクを出して飲む…。
「お疲れ…」
最後まで残っていたナオが言う。
「それにしても、毎年30人の従業員達の健康を見るんなら、外部委託すれば良いのに…」
ユキナが言う。
「戦闘回数は少ないとは言え 殺しをやらせている都合上、従業員達の体調を把握していないと 作戦に支障が出来る可能性も十分にある。
使う道具は 日々のメンテが非常に重要なんだよ。」
20人ずつ2日掛けての検査…身体が戦闘に耐えられない場合、クビにする事も普通にある…そうでもしないと従業員に死人が出来るからだ。
危なそうな イエローゾーンが3人…今年はレッドが出ないと良いんだけど…。
「さて、ほらほらサボってないで訓練に行きな…」
私は ユキナ達を追い出し、従業員のカルテに目を通すのだった。