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 (ワン)荣耀(ロンギャー)…。

 それがグローリー()の名前だ。

 僕は 安物の軽自動車の荷台に 銃と服を詰めて、車を走らせる。

 僕の親戚は 世界のネットインフラや検索エンジン、ネットショップで稼ぐ、天尊と呼ばれる家庭がある。

 なので、僕も幼い頃から英才教育を受けて来ており、金の稼ぎ方は 十分に心得ている。

 僕に取って 人生とは 娯楽だ…楽しんだ者が勝ち。

 僕の家と金、それに裏付けされた遺伝子に釣られて 様々な美女達を食い散らかして行った。

 別に彼女が僕の事を愛してくれていたとは思っていない…彼女達が欲しいのは、金と僕の遺伝子…。

 女が優秀な遺伝子を欲しがり、優秀な子供を育てたいと思うのは当然だが、果たして僕の遺伝子は 優秀なのだろうか?

 仮に 僕の遺伝子が優性論的に優秀だとしても、母親の遺伝子が悪さをする可能性がある以上、子供の出来を見ても僕の遺伝子が優秀かを証明する事は出来ない。

 結局の所、僕の遺伝子の優秀性を証明しているのは、家と金から生まれる信用でしかなく、価値が上下する商品だ。

 まぁそれをそう言う物だと思って、受け入れて楽しんでしまえば ラクにもなる。

 そして 僕は、トニー王国の人工知能に興味を抱き、集積回路から自作して僕が信用出来る彼女を作った。

 トニー王国のニューロ型コンピューターの特徴は 柔軟に動ける特徴があるが、学習に時間が掛ると言う欠点がある。

 実際、トニー王国の建国時から今まで ひらすら学習させて来た成果が 今のドラムで、単純に200年は掛っている。

 なので、トニー王国からのデータ提供が無いと真面に動かないと思ったのだが、ミハル土木のDLの整備師にトニー王国から出向したドラム整備長『ニック』がいる事を見つけ、ドラム同士による会話での学習が出来ると踏んで、ライフル射撃の銃を作って貰う事を名目で、ミハル警備まで来た。

 まぁ…ニックとユイが知らない言語で話し始めた時は驚いたが、彼との雑談は 3年間で、まだ子供だが 知能と呼べるまでに発展 出来た。

 そんな訳で、エアライフルから やり進めて、段位まで取って 推選(すいせん)を勝ち取り、実弾のライフル射撃が出来るまで進めた。

 昔は自衛の為に習っていた だけだったが、射撃は僕の興味を引いたらしく、ドンドンと のめり込み、今では 的だけでは満足できず人を撃ち殺している。

 銃は人殺しの道具だ。

 本来の役割を果たせない事は悲しい事…。

 それは ただ美しいからと壁に飾られている刀と同じだ。


 ライフル射撃会場…。

 参加選手たちは皆、ゴアゴアとした3㎏もある射撃用ウエアを着る。

 これは手や身体のブレを極限まで減らす為だ。

 周りを見ると 参加選手の年齢は30越えが大半で、25の僕はこの中で最年少だ。

 と言うのも、ライフルを所持するには 狩猟用ショットガンを10年所持し続けて ようやくライフル所持の資格が取れるからだ。

 ただ、これにも抜け道があり、狩猟を行わず ライフル射撃だけなら エアライフルから射撃大会に参加し続けて、優秀な成績を残せていけば、実弾のライフル射撃が出来る…僕は こっちから進んだ。

 そんな狭き門のお陰で、参加者は自衛隊、警察関係者となっており、一般人の参加は ほぼ不可能。

 僕が ここに来れているのも、銃を取り扱う ミハル警備と言う看板があるのが大きい…と言うか、これが あの会社に入社した理由の半分だ。

「ん?」

 異質の選手が現れる。

 サバゲーのギリースーツを身に着けた選手だ。

 動きがとても自然で、射撃用ウェアを着ていない事が分かる。

「あんなのでも規定がクリア出来るんだ」

 とは言え、身体のブレを制限する射撃ウエアを使わないのであれば、服装自体は問題無いのか…。

「凄い格好ですね…射撃ウェアを使わずに ちゃんと点数が出せるんですか?」

「ええ、この服の方が慣れていますので…赤木と言います。

 今日は 良い勝負をしましょう。」

 赤木に握手を迫られる。

「ええ、こちらこそ…。

 (ワン)荣耀(ロンギャー)…こっちではグローリーと名乗っています。」

「栄光でグローリーですか…若いようですが所属は?」

「ミハル警備のアサルト部隊所属です。

 この銃は 的射 銃砲店…。」

「なるほど…民間軍事会社(PMC)の方ですか…。

 今日は 良い勝負が出来そうですね。」

 赤木の射撃レーンは 僕の隣だ。

 彼の銃は イギリスのL96A1を大会の使用弾薬である22LRに調整した銃…。

「………。」

 ガチじゃないエンジョイ勢か?

 多分、大した目的も無く、ただ自衛隊で資格条件を満たしたので、射撃をやってみようと思っている初心者だろうな…。


 競技内容は、伏せた状態で狙う『伏射(ふくしゃ)』膝立ちで狙う『膝射(しっしゃ)』立って狙う『立射(りっしゃ)』の3種類。

 これを各40発ずつ、合計120発を2時間45分以内に50m先の的に打ち込み、その合計点を競う。

 165分だから1発当たり、1.375分で結構余裕がある様に見える…。

 が、命中が難しい立射(りっしゃ)で大幅に時間が取られるので、ペース配分が非常に重要だし、3㎏の射撃ウェアと5㎏の重い銃の8㎏を2時間45分持ち続けなければいけない。

 これは結構しんどく、射撃性能だけでは無く 持久力も試される。


 競技が始まった。

 まずは 伏せた状態で狙う『伏射(ふくしゃ)』から…。

 パスパスパスっ…。

「え?」

 10点10点10点…。

 隣でコンクリートの床にギリースーツで伏せると言う隠蔽率(いんぺいりつ)0のふざけた格好の赤木が、次々と50m先にある1cmの10点枠に命中させて行く…。

「ウエアも使わずに?」

 僕の声を完全に無視して、ひたすら的に弾を撃ち込む。

 こんな小口径弾には 不相応な大型のイヤーマフをしているから、こっちの声に気付かないのか?

 撃っている目が明らかに競技の目じゃない殺しの目だ。

 特殊部隊(ガチの本職)…僕はそう思い、伏射(ふくしゃ)で1発目を撃つ…。

 9点…クソ…。

 伏射(ふくしゃ)の場合、40発全弾を10点にする事が基本…。

 向こうのプレッシャーにやられているな…落ち着け、落ち着け…。

 10点…10点…10点…。

 普段仕事で使っているMP7普段なら50m先の1cmの的なんて普通に撃ち抜ける…。

 MP7の使用弾薬は4.6x30mm弾の特殊弾…有効射程は200m…。

 対して、今 使っている22LR(ロングライフル)の有効射程は50mだ。

 この為、難易度が ケタ外れに 上がって来る。

 10点…10点…10点…。

 次…膝立ちで狙う『膝射(しっしゃ)

 10点…9点…9点…10点…。

 9点が増え始めた。

 そして最後…立って狙う『立射(りっしゃ)

 10点…8点…9点…10点…。

 8点が出始めた。

 隣の赤木は もう撃ち終わり、こちらを見ている。

 彼の点数は1185点…世界最高記録の1点下…しかも生身でだ。

 化け物だ…。

 撃つ…撃つ…撃つ…僕は銃…銃は僕…銃は僕の身体の一部…。

 この本当に集中している時に起きる銃とのシンクロ感…。

 行ける…。


 そして、120発を撃ち切った。

 結果は…1176点…3位が2人の同点だ。

 2位の自衛隊体育学校の竹本さんが、1177点の僕と1点差…。

 1位が1185点の赤木…1位と3位では9点しか離れていないが、この差は 非常にデカい。

「負けました」

 僕は潔く赤木に言う。

「良い勝負でした。

 あなたとなら、一緒に戦えそうです。」

 僕達は強く握手をする。

「一緒に戦う?」

「ええ…()()()()…私の敵に ならないで下さいね。

 個人的に あなたを撃ち殺したくないですから…」

 赤木は そう言うと、会場を出て行った。


 2時間45分の集中で全体力を使い切った僕は、セキュリティの問題でライフルが入ったガンケースを荷台に積んで、車中泊…。

 翌日の朝…少しゆっくりしながら帰る。

 今 飛ばして帰っても、的射 銃砲店の開店前だ。

 帰りの車を運転しながら僕は考える。

『私の敵に ならないで下さいね…』

「まさか…テロリストって事は ないだろうな…」

 いや、テロリストなら ここに出場する事は出来ないだろう…。

 出場が出来た場合、それは身内にテロリストが潜んでいるって事になる訳で…。


 的射 銃砲店。

「戻った」

 ドアを開けてグローリー()は 受付にいるマトイに言う。

「おっグローリー…。

 お帰り如何(どう)やった?」

「3位、銅メダル…同着がもう1人」

「あらら…上には 上がいるんやなぁ…1位のヤツはぁ?」

 僕は 背中に背負っていたガンケースを空けて、マトイに ボルトアクションのライフルを渡す。

「赤木ってヤツ…。

 アイツ、ライフル射撃用のウエアも使わずに1位になりやがりました。

 ライフルもデザインが凝った特注品で、明らかに力量差を感じましたよ。」

 マトイがライフルのコッキングレバーを引いて動作を確認…早速 銃の分解を始める。

「あ~となるとぉ…ウチの勝ちやなぁ…。

 その銃、イギリスのぉL96A1ぽいデザインやったやろ…。

 そいつは特戦のレッドウッドぉ。

 ナオの父親が所属していた部隊の隊長やぁ…ポジションはぁマークスマン。」

「ああ やっぱり、マジの本職ですかぁ…それで勝ちってのは?」

「レッドの注文で、その銃を仕上げたんはぁウチって事やぁ。

 1位3位がウチんとこの銃…良い宣伝になるわぁ」

「うわっ…あっ でも、あのデザインを維持しつつ、レギュレーションを満たすとなると マトイ位しかいないのか…」

「感覚をぉレッドが普段使ているL96A1と合わせろって注文やからなぁ~アレでぇ正解なんやぁ…。

 少なくともぉ10人は居ぃひんだろうなぁ…これでぇ競技人口がぁ増えてくれると良いんやけどぉ。」

「無理でしょうね…。

 この国、銃で的を撃つって言う発想がありませんから、実弾のライフルなんて持ってたら、人を撃ち殺すと思われて警察に通報されます。

 エアライフルやビームライフルは伸びても、実弾だけは伸びませんから…。」

 ライフルを分解して各部の掃除をしているマトイを見ながら僕は言う。

「まだぁ部分的とはいえ、ゴーストガンの射殺事件もぉ増えるちゅーのにぃ…。

 今だにぃ自衛でもぉ撃てんかんなぁ…。

 ウチとしてはぁリボルバー位ぃ携帯しても、良いと思うんやがぁ…」

「まぁ武装警備員が公安に認められているってだけでも、まだマシなんですけどね…」

「あっそうや、ミハルが戻ったら健康診断を受けやってぇ…。

 もう、暇なヤツから受けてんでぇ」

「健康診断…もう そんな時期ですか…。

 連絡入れときます。」

 僕はそう言い マトイに鍵を渡して、サボっていた本職のトレーニングを再開するのだった。

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