03 (就職面接)
埼玉県 春日部市…。
学校の敷地 程の大きさがある土地に、3階建ての『寮』と仕事の為の3階建ての学校の校舎 見たいな横長の建物『作業塔』。
その他には 大きな『倉庫』があり、トラックが並ぶ駐車場、校庭の様に広い砂地には 4.5mの人型重機のDLが2機 足を組んで座っている。
ミハル警備 株式会社の敷地だ。
そして、作業塔の中の応接室 兼 社長室…。
ミハルは ナオの書類を確認する。
素行調査をした内偵書に レンジャー訓練での評価表と本人が書いた履歴書だ。
名前『神崎 直人』2000年7月10日生まれの 今年で16歳の男。
父、神崎 直樹、母、勝子。
父親との血縁関係は 一応無く、勝子と浮気相手の子供で、ナオキの子供と偽装されて育てられた托卵児…。
父親は 特殊作戦群所属で、イラクの海外派遣で爆弾を持って自爆テロを仕掛けて来た 少女を射殺した事により、業務上過失致死傷で逮捕され、メディアパッシングの中、妻と離婚し、ナオは 養護施設に預けられた。
小学校は 障害者が通う 特別支援学校で、障害名は『自閉症スペクトラム障害』と記入されているが、実際の所は『アスペルガー症候群』であり、当時のこの障害に対する不理解から 自閉症として 学校に通っていたようだ。
で、10歳時に神崎 直樹の父親の家である 北海道の忍者の家系…『神崎家』に里子として出され、血縁は無いが祖父母に育てられる…。
本人の感覚では 自分の両親は 祖父母と認識されている。
ナオの戦闘技術は この時に学んだ物で、ここから3年ほどは 自主学習で 学校に 行っていない。
中学1年になる前に 父 ナオキの家がある 千葉県 習志野市に住み、付近の中学校に通い、2年半後 今回の問題が起きた。
ちなみに 中学校の近くには 特殊作戦群がいる習志野 駐屯地があり、ここの部隊が出てきた場合、ナオは瞬殺されていたが、管轄の問題で 警察所属の機動隊が対処する事になり、駐屯地側は 学校の騒ぎは テロリストによる陽動と考え、駐屯地への直接攻撃を警戒していた。
学校側に元特戦のナオキが いたのも 偵察の要素が大きい。
続いて評価表…。
年相応に大人と比べて 体力に問題があるが、射撃、移動、知識、いずれも問題無く、特殊部隊 水準には及ばないまでも 基本的に優秀で、今後の伸びしろも十分に持っている。
科学知識も豊富で、現場にある物で 即席の爆発物を作れる事もあり、将来は 特殊部隊として活躍も期待出来るだろうとされている。
担当部隊の隊長のコメントでは『基本的には 指示に従順だが、理屈や合理性を求める 傾向にあり、軍隊では 当たり前の精神論が理解出来ない。
彼を上手く機能させるには 高圧的な態度を取らずに 理屈ベースで物事を話して 理解させる事。』と書かれている。
レンジャーは 上の命令に対して『YES』と一言 答えて問答無用で 命令に従わないと行けないが、ナオには それが出来ない。
何故なら、上からの命令では あっても 自分の意志でトリガーを引く為、彼自身の正義が重要になって来るからだ。
まぁ典型的なアスペルガー症候群だな…。
最後に履歴書と…。
写真は 中学の制服を着ていて、髪色は黒のショートカット…。
メガネは黒ぶちで、アメリカ軍の官給品であるGIグラスを かけている…多分、高校受験の写真の流用だろう。
見た目としては 一日中パソコンをやってそうな インテリ風なパソコンオタク的な容姿で、いじめっ子が いじめ そうな外見だ。
資格の欄には 自動拳銃の資格と原動付き自転車の免許がある。
どちらも、私が取らせたヤツだ。
趣味・特技の欄にはPCと書かれていているが、志望動機は空欄。
本人希望欄には『貴社の規定に従います。』とだけ書かれている。
まぁ…私が無理やり スカウトした訳だしな…。
コンコンコン
面接時間 丁度にドアがノックされる。
「どうぞ…。」
「失礼します。」
ナオが部屋に入り、45度の礼をする。
「神崎直人です…よろしくお願いします」
姿勢も 声も しっかりとしていて、就活生としては 問題無い。
「そこのソファーに座って…。」
「はい、失礼します。」
私の正面のソファーの前に立ち、私がソファーに座った事を確認してから自分もソファーに座る。
うん、座り方もちゃんと出来ているが、私は そのギャップに少し笑ってしまう。
履歴書の写真では 黒髪ショートだったナオの髪は 根本が地毛の茶髪になり、毛先になるほど、黒色になっていて、髪型も髪が伸びて ポニーテールに変わっている。
そして、一番不自然しいのは 彼がジャージ姿だと言う事だ。
確かに 訓練明けで 習志野 駐屯地から春日部の会社まで直行して貰ったし、私は確かに『私服で良い』と言ったが…。
通常、就職面接で 私服で良いと言われた場合、オフィスカジュアルの服装で来る物だが、私の言葉をそのまま受け取ったのだろう…彼の私服はジャージと言う事になるのか?
ここで私が ナオの服装に ついて怒る事も出来るが、相手への共感能力が低く、言葉の裏を読めないアスペルガー症候群の彼からすれば『コイツは わざと オレに 嘘を吹き込んで、面接で怒鳴り散らす自作自演をしやがった』と受け取られる…彼からすれば こんな理不尽な事はないだろう。
そんな小さな誤解と積み重ねで、彼はあの日 205人を殺傷し、しかも精神鑑定では 異常なしと出ている…正気で殺せた事 自体が異常なんだが…。
「さて、まずはラクにして良い。
3ヵ月の訓練お疲れ…。」
「どーも、それでオレの処遇は?」
ナオは 私の言う通り、ラクにしている…口調も元に戻ってる。
「一応、法的な手続きは 全部解決した。
えーと まずは いじめっ子3人の殺傷に付いて、コイツは過剰防衛と判断された。
関節を外して完全に無力化しているにも関わらず、顔面を床に打ち付けて殺しているからな…。
で、いじめの事実に関しては 結局、ナオの主観による精神的な物と言う事になり、暴力は 無かった事になったな…。
この いじめっ子の親も子供に暴行をしていた らしくて、暴行跡をナオのせいにする事で、示談にした。
だけど、裁判官は そこも汲み取ってくれて、少年法も含めて 保釈金と保護観察判決にしてくれた。」
「警察と機動隊は?」
「アレは 完璧に正当防衛、警官が銃を向けた事は クラスメイトが何人か見ているし、機動隊も校内に数千発も撃ちこんでいるし、判決の前例は無いけど、相手は 完璧にナオを殺しに来ているからな…。
裁判は 数年かけて行われるけど、まずぶち込まれる事は 無いだろう。」
銃を向けた警察に対しての正当防衛の行使は 前例が無いが『警察に銃を向けられたら、大人しく撃ち殺されなくては ならない』と言う法律がない以上、警官の暴力行為に対する正当防衛も 十分に効くだろう。
「で、問題なのは 警察側のメンツを潰した事と、機動隊の評価が下がった事…今後、機動隊を軽視した銃犯罪が確実に増えるな…。」
警察は 基本的に武力を使って国民に国の法律を強制的に守らせている立場だ。
警察を返り討ちにしてしまえるなら、逮捕が出来ないので法律が実質、意味をなさず、無法地帯になってしまう。
「後は、ナオの考えに共感した日本中の いじめられっ子が、いじめっ子を殺したり、教師を殺したりしているな…。
この半年で 殺傷事件だけで100件、事件になっていない暴行は その数倍は出ているんじゃないか?
相当不満を溜め込んでいたんだな…教育委員会も、流石に動いた。
今後は いじめに対する対応も変わるだろうよ…良い意味でも悪い意味でもな…。」
ナオの名前は ネットに上がっていないし、捨てアカに捨てメールアドレスを使っての拡散だ。
ナオが先導したと証明する事は かなり難しく、個別の傷害事件として警察は処理している。
ただ、これは 完全にテロリストのやり口だ。
他国からの工作員だと思われて 公安に目を付けられないと良いのだけれど…。
「それで、保護観察官は?」
「私だ…厳密には 私は保護司で、上に国家資格を持った正式な保護観察官が付く。
基本 関わるのは保護司だけだよ」
「そっか…。
はぁ…死にぞこなったな…。」
「死ぬことを覚悟してる無敵の人に対して、死刑では 意味が無いからな…。
死んでラクになろうとするな…最後まで ちゃんと生きて見せろ…。
私は金持ちだから ちゃんと環境は整えてやれる…が、最後はオマエ次第だ。」
私はナオに書類を渡す。
「私は この会社『ミハル カンパニー』の社長だ。
武装警備員の部署でキミを雇いたい。
給料は月30万、負傷時の治療費、ボーナス、各種保険に 家賃、光熱費、通信費、1日2食 付きの寮、戦闘後のカウンセリングと すべて会社持ち、階級は3曹…伍長待遇だ。
命を掛ける職場だからこそ、見返りは多く出す。」
「銃を携行出来る警備会社か…。
当然、撃つ事も撃たれる事もあるんだろうな…。
やるよ…どうせ捨てた命だ…有効活用してくれ…。」
ナオが契約書をゆっくりと1つ1つ確認を取りながら、最後の項目まで行き、ボールペンでサインをし、朱肉に親指を付けてサインの上から押し付けた。
テーマ:法的手続き